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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
進歩の夏
36/65

ー参拾弐ー「夏の終わり 其の弐」

あけましておめでとうございます。

今年も何時か来るであろう完結まで継続して頑張っていこうと思います。

見て下さっている(かもしれない)読者の皆様、今年もよろしくお願いします。


さて、今回は長い上に微妙です。

所々に通った部分も多く、一ヶ月頭でシュミってみてもまとまりきらなかった気もします。何度も場面切り替えを行うのはまだ私には早かったようです。

其れでも、読んでいただければ幸いです。


では、どうぞ…

ノーサイド 


 城の最上階、藤姫と理知のみが座り言葉を交わさない静かな空間に二三が襖を開けて入った。後ろには千草が付き添っていた。


「二三。其れに…千草(ねぇ)


「おや、もう風通し良くしちゃってるの。花火見物も準備万端ってわけね」


 二三は通り過ぎる風に気持ち良さそうに目を細めると、誘われるが儘に景色の良い露台に足を運んだ。其処迄は千草も付いて行かず、黙って其の背中を見送る。


「…千草姉、如何やら天地と会ったと聞いたのじゃが…」


「………。」


「っ時雨ど「理知、よい」…申し訳ありません」


 其の呼び方から親しさは窺えど、藤姫の問いに一言の返答も無い千草に痺れを切らしたのは理知であったが、当の藤姫に遮られ、納得のいかない儘に口を閉ざして立たせた膝を床に付けた。


「千草姉。儂は何時までも待とう。お主の声が聞ける事、笑顔を見せてくれる事を…」


 目を凝らしても髪の奥の表情が見通せない事に、藤姫は寂しく目線を落とした。


「…。」


 藤姫の言葉は開けっ放しだった戸口を通して、二三にも届いていた。


ノーサイド エンド



                    ※      ※



ノーサイド


 何が如何してこんな事になったんだろう。

白菊は頭の中をぐちゃぐちゃにしながら、警戒だけは怠らなかった。


「う~ん。いないわけじゃないっすけど、都の近くでこんなに少ないなんて…嬉しい事ではあるっすけど、やっぱり不気味っす」


と、襲い掛かる鬼を切り殺しながら前を進む蝉が零した。


 白菊は此処に至る経緯を思い返す。

まず自分は恥ずかしい見間違いで蝉を呼び止めた。其れは直ぐ謝り、前にも同じ事をしていた為に蝉も直ぐに分かってくれた。

でも恥ずかしい事実は消えないので其の場から直ぐに退散しようとしたところ、追い越し去ろうとした白菊を蝉は今度は呼び止めた。


「花火、一緒に見ません…っすか?」


願っても無い誘いに白菊は二つ返事で話に乗っかった。奇しくも、白菊は此れ迄と同じ顔と花火を見る事になったのだ。ボッチ花火見物を回避し、ほっとした白菊に蝉はにこやかに、


「とっておきの場所があるっす!」


と、手を引いた。

流石に此の年になって手を繋ぐ、というのは減っていた白菊にとって色々と考えてしまうもので、都の外に出てやっと「ん?」と今の状況のおかしさに気が付いた。

森に入った辺りで、少しばかり自分が闇討ちされるのではないかと思ったのは白菊の内緒だ。


「花火見るのよね…なんで態々都の外に…」


 白菊は歌によって強化した斧を向かってくる鬼相手に振り回していた。もう此処に鬼を怖がって何も出来なかった女子なんていない。


「都でよく見える所は粗方人で埋まってるっす。でもこっちなら俺達だけが見つけた他に知ってる人のいない穴場なんすよ。だーれもいないっすよ~」


 そりゃそうだと白菊は思う。

誰が好き好んで鬼に襲われるような場所で花火を楽しもうというのだろう。鬼が気になって花火が見れないんじゃないか、逆に花火に目がいって鬼に気が付けないのではないか、と考える白菊の方を振り向いて蝉は笑って言う。


「あ、でも、俺が誘ったんすから、来る鬼は全部俺に任せるっすよ。俺が白菊さんを護るっすから、白菊さんは安心して花火を見ていて欲しいっす!」


 なんという……幼馴染と同じ顔で、幼馴染が絶対に言えないような事をすんなりと舌に転がしてしまうのだろう。私の傍にそんな事言える人はいなかった!!

 なんて白菊は当人に言える筈も無く、もだもだと燻る気持ちは全て鬼にぶち当てた。


ノーサイド エンド



                    ※      ※



ノーサイド


 四の隊の隊舎は、静かだ。元より人の通りが多い場所ではなく、其の上今日に至っては人の密集している場所が偏っているのだから。

 任のある隊員は都の外で刀を振り回している。普段は人の残る隊舎内も花火の打ち上がる今日という日に浮足立って隊員達が出た為に、シンとした音さえ聞こえてきそうだった。

 そんな隊舎内の稽古場で一人、迸るような紅の髪を持つ者、四の隊隊長の春苑 紅は目を閉じて座っていた。


 ごと、引き戸の開く音に紅はゆっくり細く目を開いた。


「…比良、か」


 稽古場に入った男、大抵の人なら桜のような赤みある桃髪に目が行きそうな男、山吹 比良(やまぶき ひら)は紅に軽い会釈をした。


「紅様。紅様は花火を御覧にはならないのでしょうか?」


 紅は徐に比良を見た。暗い中でもはっきりとした赤い目は夜の薪を思わせて立ったままの比良をたじろがせた。


「…拙者には分からん。何故、此のような人の心を惑わせる行事というものがあるのかを。

外に出る者は皆浮足立ち、日頃の警戒は幻のように霧散する。

都の中に鬼はいない。だが其れが何時まで続くというのか。否、続くわけが無い。其れは遠い事ではなく、明日…今日であろうとおかしくはない。既に鬼は一度来りて、されど短き間に人の心は緩みを得た。心を緩ませるという事が鬼によって死するというならば、此のような行事こそ人を殺すも同義。

何故皆此のような享楽に及ぶのか…拙者には分からぬ……分からぬ」


 人によっては…否、大多数が否定するだろう気が狂っているともとれる極端な悲観。其れは今此の場で言葉だけでも否定するべきだったが、此処には唯一人…彼を心から心酔する者しかいなかった。


「…えぇ、紅様の仰る通りです。貴方様の其の素晴らしい御考えは、何処迄も此の、比良の心に響きます」


 紅は比良に反応を返す事無く、唯目を閉じる。

比良はしかと其の姿を目に焼き付けて稽古場を出た。


 戸を閉めた比良は目線を横にずらした。


「貴様…また来ていたのか」


 比良の見た先には、まだ小学生か…其れより幼いかという少年が立っていた。

黒い髪の中に混じる赤髪は紅と同じ色、真っ赤な髪の紅が煌々と燃える炎であるならば、其の少年は燻る小さな火種であると例えられるだろう。血の繋がり故、同じ色に輝く赤い目に比良は苛立ちを感じた。


 比良に睨まれ、子供にはきつい眼光に少年は身を竦ませるが、服の裾を掴み顔を上げた。


「な…なぁ、其処を通らせてよ。俺、紅兄様に用があるんだ」


 少年の懸命な声にも比良は冷たい姿勢を変えようとしない。暫くじっと見ていた比良が少年に問う。


「ほぉ、どのような?」


「は…花火、一緒に見に行こうぜ…って…」


 其れを聞いた比良は態とらしく溜息を吐き、呆れた目で少年を貫いた。


「去れ。紅様は此のような馬鹿げた催しには参加なさらないと仰られた。…其れとも、本家たる貴様に分家の紅様は拒否権を持たないと、そう仰る御積りで?」


 見下す視線と嘲笑うような付け足しの敬語に遂には耐え切れず、少年は比良に背を向け走り去った。悔しさで一杯の涙を流しながら。


ノーサイド エンド



                    ※       ※



「あっはは!さいっこうだよととも君!!凄く面白かったっ」


 人の姿に戻った守さんが腹を抱えて物理的に屋根の上で笑い転げる。狐の姿だとやり辛いらしい。


「あんた、大人しそうな顔して結構やるじゃない!」


「そそ、そんなつもりじゃ…えっと……」


 幸さんが明るく褒めてくれるけど、僕はさえちゃんを下ろした手で全面的に顔を隠してしゃがむ。此の顔は誰にも見せられない。反面さえちゃんは恥ずかしいといった割には下ろしてから顔色が変わっている様子はない。狡い。

 代わりに白猫の警戒心はMaxで、さえちゃんの肩を抱くように前足を引っ掛け、低く鳴いて僕の方を見ていた。


「だけど、此処はほんとに良い場所ね。地味に他より高めだし。花火は大通りから見るのが定番だったから気付かなかったわ」


「登ったり走ったりっていうのは何時もしているんだけどね~」


 守さんと幸さんは二人で見合って、ねーっと言い合ってくすくすと笑う。

灯台下暗しと若干異なりそうだが、馴染みの行動にもなってしまうと気づけない事もあるんだなと何となく思った。







 よく見える高い所に来たからか、大通りの様子も一目で分かる。


「およ?なんかあの辺騒がしくない?」


守さんが指差した先で言い合いをしている人たちが。内容を聞いても、そんなに大層なものではなかった。


「あ…あの人達僕の所の人達だ。何時もはあんな事で怒るような人達じゃないのに…」


「きっと此の人混みに気が滅入っちゃったのね。花火が打ち上がるのを待って気持ちが高ぶった所為で簡単に気持ちが転がったのかも」


「そっか~…」


其れを聞いてしまえば、更にごみごみとし出した大通りは満足に身を動かせず、表情を歪ませる人も多い。何処となくぴりついた空気は楽しみを待ち望んでいるようには見えない。此れは良くない。


「よっし!幸ちゃん。此処は一つ僕達の番だ!」


 あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る。

狐の御面を被り、狐の姿に変わった守さんは動物にしては分かり易いぐらいに期待の目を幸さんに向けた。


「守君、あんたねぇ…。アタシのとこの隊員に見つかっても知らないわよ?」


〈そん時は僕を護ってね。幸ちゃん!〉


 其れ以外は特に文句の無かった幸さんを伴い、守さんは屋根を降りる。

僕達が居座らせてもらってる屋根の隣の隣の、其の隣の屋根の下。ヒートアップして周りの人が避けるように距離を取った真ん中で怒りをぶつけあった二人の間を割って入って着地した二人は、周りが二人が上から落ちてきた状況を理解し切る前に其のスペースを使って踊り出した。

 幸さんの特殊な刀の金属と木の奏でる音を拍子に息を合わせ舞う二人は、背景を彩る音楽が無いのに目を引き付ける不思議な華やかさで場を支配する。


「ふ、二人とも…さ、すが……!」


 前に二人が三井寺、さんに挑んだ際にも舞で三井寺、さんを翻弄していたが、あの時の舞は戦いの為にチューンナップされたもので、人を魅了する為に踊られる其れはまた違うようだった。

 少女が子狐と戯れる、気分を和らげる舞。姿を変えられる守さんの歌が良い仕事をしていた。




「…。ど、如何かした?…さえ、ちゃん」


 視線を感じると思ったら、直ぐ横からまじまじと見られていた。


「…痛い………?」


 さえちゃんが首を傾げる。

 始めは何の事か分からなかったけど、僕は自分の顔を指して訊ねるとさえちゃんは僅かに一度頷いて合点いった。


痛いというより痒い。


 ずっと無視ってきたんだが、僕の顔は、現在はさえちゃんの腕の中に収まっている白猫の手により素敵に、満遍無く引っ掻き傷を付けられた。

一つ一つが粗目で浅く、痛いと口に出すもの、というよりはじくじくと上から何度も掻き直したくなる痒さが広がっていた。


「……治す…」


 小さく口を動かし、「君がため」から歌を詠い、肩に手を添えて(押さえて?)、もう片方の手の中の光を傷のある場所に翳した。


「さ…さえちゃ、ちゃん!?」


大分あれな距離に仰け反ろうとした僕にムッとした表情のさえちゃん。


「…傷の…責任……取らせて…よ…………」


 こうも言われてしまえば、大人しくせざる得ない。

見つめ合うような今の状態に落ち着かないのは僕だけで、さえちゃんはこんな簡単な傷で丁寧に治すのに集中している。ゆっくりとしか治せないという彼女の歌の性質が恨めしい。

御姫様抱っこが恥ずかしいなら、今此の時も僕と同じ気持ちを抱いて欲しいと思いながら、傷の完治を待った。


 …ただ、歌を使うにあたり降ろされた白猫の酷く低い声が足元から聞こえ、爪の感覚は無いものの足の膝から足まで前足を何度も滑らせる行為に、此れは顔の引っ掻き傷が消えても足の辺りが血だらけになりそうだと冷や汗を掻いた。



                    ※       ※



ノーサイド


 広大な都を囲む塀の上、夏も終わりでありながらまだまだ暑さは残り、額に掻く汗を拭いながら都の外側に広がる何もかもから目を離さず見続ける三の隊の隊長夕山辺 燈。


「よ、御疲れさん」


 其の彼の隣に、真っ黒黒な、夜に溶けるようなまだ日のある時間に似合わぬ着物を着た男十五の隊の隊長国原 印南が足をつけた。

 燈は印南に顔を向けずに声を掛ける。


「珍しいな、印南。こんな時間に起きてるなんて」


 念の為もう一度確認するが、まだ日の出ている時間である。


「なんか其の言い方されると、まるで俺が夜しか活動していない…昼夜逆転した乱れ爛れ生活野郎みたいでや嫌だ……」


「けど、事実だろ?」


「事実だ、そりゃ事実だけどさ。仕方なくね!?だって隊訓に〈夜は起きろ。昼は寝ろ〉ってあるんだからっ!」


「なんだ其のけったいな隊訓は」


 隊訓とは、それぞれの隊が隊の統制を取る為に規定したルールの事である。十五の隊は夜の都を護る隊で、夜を主として活動している。であるから、夜に眠気を持ち込まないように昼にぐっすり眠っているのである。


「今日ばかりは、早めに起きて準備の一つや二つ、気合の一つや二つは入れときたいもんでね」


 しっかしやっぱねみぃ~…と印南は大きく口を開けて欠伸をする。


「…其れもそうだな」


釣られるように燈もくわりと欠伸をする。


「お、燈ちゃんもおねむってとこか?」


「眠いっていうか…退屈。山に入れば鬼鬼鬼…らしいんだが、喰う人間を求めて都に来る馬鹿な鬼はいやしない。五日も続けば欠伸の一つもしたくなるもんよ」


 我ながら不謹慎な考えであると燈は思った。

しかし、あまり来てもらわないと腕が鈍るのも事実。刀の腕は仲間同士で手合わせでもしていれば良いとしても、実践的な意味で。

 こんな平和なのもありがたい事此の上ないが、行き成り大量に来られても何時かの夜中のように困る。できれば毎日二~三匹ぐらいで来てくれないか、燈の考える所である。


「…けど、皆が楽しみにしていた日では、そうも言ってられないな。鬼だろうが何だろうが、花火を見るのも邪魔する奴が外から来るっつーなら、俺達が止める。

なんたって俺達は、門番だからな」


 口に出して自分に言い聞かせる燈の脳裏には、四の隊の隊長の紅の姿があった。

自分の家系である夕山辺の分家である春苑家の紅は、此のような祭りごとを嫌っている。曰く、人が最も油断している日である、と。


 其の通りだとは、燈は何度も思った。塀の上から都の中を見れば一目で分かる事だ。

しかし彼の考えを肯定してはいけない。人には息継ぎをする暇が無ければならないのだ。其の暇を作る為に自分達は刀を握っている。


「だな。なら俺達は夜の番人だ。中の事は任せとけよ。其の為にたんっまり寝てきたんだからな」


…紅、お前の言葉が現実になる事だけは防がせてもらう。


 彼等は祭りの主役ではない。だが其のあり方を守る為に影ながら支える者達である。


ノーサイド エンド



                   ※       ※



ノーサイド


「っどわぁっ!」


 瓜助が吹っ飛ばされて体が転がっていく。

起き上がり足に踏ん張りを利かせ勢いを殺すが、


「あ」


其の踏ん張る足場が消えて、序に瓜助の姿も消える。


 しかし手だけは引っ掛けられたらしく、ぎりぎり体を持ち上げて落ちずに戻ってきた。


「あー…落ちねぇのかよ。残念」


という白夜の声は瓜助に届いていた。


「っ残念ってなんだっっ!?こちとら塀から落ちかけたんだぞっ!」


「っんな事落ちてから言えや!!俺なんて転がるとか無しに吹っ飛ばされたんだぜ!?地面に背中直撃だコラ!めっっっちゃ痛ぇっ!!」

 

 下らない言い争いをする二人を余所に春人は酒をぐいっと。


「「あ、飲んだ」」


直接はない。ちゃんと徳利から小さい呑み口に移して礼儀正しく。

構えなんてしない。無いったらない。だって必要ないんだもの。


「畜生…俺達二人相手にしてあの余裕ぶり…。流石春人隊長と尊敬したいところだけど、やっぱ酒だけは手放してくれないかなぁ…」


「けど塀の上ってのはやりずれぇ。落ちる事も覚悟しねぇと歯が立たないの話にもなんねぇか…」


 こうなったのも、花火の場所取りの後に手合わせしてくれるという事になったから、というもの。城主の藤姫より前で花火を見るのは如何かとも思うが、まぁ城の裏側の塀の上を陣取った春人は塀の上で二人を同時に相手取る事にした。


 通常でも二人とも春人には片手で遊ばれる身。増してや塀の上は戦うには不安定で実力が出し切れないと自身も感じていた。だから、為にもなる経験である。


「俺、一つ分かった事がある」


「なんだ?」


「春人隊長はありとあらゆる武術に精通した御方だ。空手、柔道、合気道…其の他諸々。

そんでもって、更に其れ等を組み合わせて強さを引き出すときた。其れも掛け合わせれば掛け合わせれる程だ」


なお、外国系の体術は此の範疇に入っていない。もしかしたら本能的に使っているかもしれないが。本人の意図には無いそうだ。


「あぁ。馬鹿みてぇな話だが、散々くらって信じねぇあほにはなってねぇよ」


「なら、あの人なら出来そうじゃね?…酔拳」


 白夜ははっとした顔で瓜助を見た。


「もし本当に出来るとしたら、俺等が相手にしているのは唯の武術じゃねぇ。常時酔拳を掛け合わせられた武術ってわけだっ!」


 再度瓜助の言った事を振り返る。春人は体を使った技巧技術…云わば武術と呼ばれるものを掛け合わせ高みに登る。

したがって、二人には春人が合間合間に飲む酒が脅威にしか見えなかった。


「…じゃ、やるこたぁ一つだ」


 目を合わせて頷いた二人は、示し合わせて揃って春人へと飛び掛かった。


「酔いを醒ましてやらぁっっ!!」   「其の酒奪わせてもらうっっ!!」


…花火が打ち上がる迄には一撃入れたいところである。


ノーサイド エンド



                     ※      ※



ノーサイド


「着いた…?ね?此処で良いの?此処で。ちょっと開けて見晴らし良いけど」


「到着っすー!此処で良いんすよ、此処で」


 蝉が言うには、都から離れて自然に開けたようなだけ場所が来たかった所らしい。疑いたくもなる。

到着したのだからあとは花火が打ち上がる迄待ってればいいが、其の間にも鬼は二人を襲ってくる。休憩の時間はない。

尤も、鬼が元気に襲ってくるのは昼より夜である為、日が落ちてくると鬼の足は増している。


「花火が終わるのは夜更けっすからね。帰り道は鬼がもっと多いっすよ~」


和やかに言う蝉に白菊は表情を引き攣る。矢張り蝉に付いて此処迄くるのは間違いだったんじゃないかと白菊は自分の中で自問自答した。







 大方の鬼の足も途絶え、一息をつく。知らぬ内に当たりも大分暗くなってきた。まだ目が慣れていない此の時間が注意をしていなければならない時間でもある。


「…はぁ。やっぱり都から出ると鬼が沢山で大変よね」


 大きくしたままの斧を地面に突き立て、持ち手の後ろに顎を乗せる。片方だけ出していた刀を鞘に戻した蝉も息を整えた。


「昔、うちのばっちゃんが言ってたんすよね。…鬼ってのは、森を人が滅茶苦茶にしない為に自然が生み出したんじゃないかって」


「自然が…鬼を?」


「勿論、一つの言われっすよ。でも、鬼を相手にする為に今の生活の形があって、森に入ってしまえばこんなにも鬼を相手にしなきゃならない。此れなら都から出たくないって思う筈っす」


 やれやれと首を振る蝉を見ながら、白菊も考えた。自分達の世界は何処迄も人の営みが広がり、森があった場所も開発され、今では自然が減っていると世界的にも問題になっている。

 鬼が生まれるプロセスは既に聞いているが、そう思ってしまう事には無理はない。此れから先、此の世界で人の文明が発展しても人の生活する場所が広がる事はないだろう。ちゃちな鬼には其れだけの影響力があった。


「…でも、此処から花火を見たいと思ったのね」


「そうっすよ。なんたって此処は俺が俺の幼馴染と見つけた特別な場所っすから」


 瞬間、白菊は驚いた。普段は自分ばかりが口にする幼馴染という言葉が他の人から飛び出したのだから。蝉はしてやったりとにやっとした。


「毎年、花火を良い場所で見るには人が多いっすからね。辟易してたんすよ。ある時鬼退治中に幼馴染と此の開けた場所を見つけて」


 絶対此処なら良いもんが見える!と力説していた姿を蝉は懐かしむ。其の年は既に花火大会が終わっていた為に来年は此の場所で、と自分にもいた二人の幼馴染と約束していたのだ。


「他の誰かに教えるつもりは無かったっす。でも、白菊さんが幼馴染の事を大切に楽しそうに語ってくれる姿を見て、ずっと振り返るつもりの無かった記憶を思い出したんすよ。そしたら此処の事も思い出して。白菊さんには知って欲しいって思ったんす」






 ひゅるる、音がして、二人都の方の空を見る。途端に広がる火の花。花火大会が始まったのだと二人は理解した。

一つの花火を皮切りに沢山の花火が空に広がる。

 都の中で見たのならば、目一杯に広がる花火に圧倒される事だろう。しかし二人のいる場所からは程良く花火が視界に収まり、余裕をもって打ち上がる花火のそれぞれを見ていられた。何より花火の光に照らされる城の姿が絵のようであった。

 悔しくも白菊は此処から花火が見られてよかったと思ってしまった。


「白菊さん。俺は貴方の幼馴染ではないっす」


 おう、如何した?そんな当たり前の事を口にして。

花火を背に蝉が真剣な顔をする。


「でも、今は白菊さんの幼馴染の代わりに俺を頼って下さい。

今、なんで寂しい気持ちになって迄大切な人達と離れているのか、深い理由は知らないっすけど、また再び貴方が其の人達と会う時に、笑顔でいられるように、俺に貴方を護らせて欲しいっす」


 白菊は自分と向き合う青年から目を離せずにいた。如何して此の人は自分の知り合いと顔が似てますねと言っているだけの人間にこんなに真剣に向き合えるのだろう。

 花火の光で染まった頬を隠して、口を開いた。


シャキン


 耳元の金属音を聞き、顔の横を刀が通った事に白菊は目を見張る。背後に目を移すと、真っ二つに裂けた鬼の姿があった。あの鬼は自分に迫っていたのか。今更白菊は額に青筋を浮かべる。


 良い場所で花火が見られたかもしれない。でも、また此処で花火を見ようねとか甘酸っぱい事は白菊は言えそうになかった。

  

ノーサイド エンド



                  ※        ※



ノーサイド


「次っ五の三から六迄発射、一、ニ、三っ!」


 渡の号令に合わせて、三つの筒から花火が打ち上がる。打ち上げの終わった筒は安全の確認後、素早い動きで次の玉が積み込まれた。


 花火の打ち上げ本番になってからの隊長達の動きに文句の付けようはない。

身さえ入れば、よくやる奴らなのだ。だからこその隊長ともいう。

なので、文官である梓のきょうだいと夜明のやる事も無くなり、只管打ち上がる花火を目で追った。


「始まった…なぁ」


 地べたに構わず座る夜明の隣で燃え尽きたぜといったようにうつ伏せで転がる梓一同。

始まる迄の先程迄、時間に間に合うか間に合わないかのレベルの中を奔走して、如何にか間に合ったのだ。こうなるのも無理はない。


「折角頑張って打ち上げた花火なのに、其の恰好じゃ見えないんじゃないですか?」


「仰向けに転がる元気も無い」


「あ、あぁ…そう」


 何時も以上に元気の消えたみこにもそう返され、夜明は仕様が無く一人新しく地上を照らした光に目を向けた。

 近過ぎる此処では、筒から飛び出した玉は夜明達の真上で広がり、全体を一目に収められない。

細部迄見ようという頃には花火はもう消えているのだ。

 花火を見るのに下からというのは適さないと考えた夜明、其の隣で思わせぶりに緒が笑う。


「夜明、お前今此処から見る花火はあまり綺麗じゃないと思ったのではないか?」


少し顔を上げた緒の片目が夜明の姿を映す。


「しかし、考えてみるのだ。俺達は花火を打ち上げる為に此処に居るが、そうじゃない奴は離れた所からしか見られない。つまり、花火を下から見るのは俺達の特権というわけだ」


 一際大きな花火が打ち上がる。


「頑張った末に此の光景を見られるというのなら、此の近過ぎる景色もまた絶景であるとは思わんか?」


其の花火に歓声と拍手が沸き上がり、大河の楽し気の声も聞こえてきた。


「じゃあ顔を上げるか、仰向けになって一緒に見ましょうよ」


「無理、光で目が痛い」


 夜明の方に向けていた片目も地面についている腕に押し付けて仕舞い込んでしまい、夜明はおいおいと苦笑した。


ノーサイド エンド



                    ※       ※



ノーサイド


 まぁ、此の場所から見る為に打ち上げている花火である為、其の見栄えはもがなという程最高であるというべきだろう。


「今年も良い花火じゃ!」


藤姫が満足気に言うのを理知は笑みを浮かべて頷いた。


「花火師…というよりかは鍛冶屋のあんちゃん達か。良い仕事をするねぇ。張り切りが違う。去年より変わった花火が多いのがより面白さを感じるね」


「ふっふっふ…」


 扇を仰ぎながら千草を隣に花火を見ていた二三が呟くと、何故だか藤姫がしたり顔だった。


「なんといっても今回は一味違うのじゃ。なんと今年はy「如何やら夜明殿が入れ知恵をしたそうですよ」…こらぁ!理知!今のは儂が自慢げに言う事じゃろ!!」


「自分で自慢げと言いますか?自分で」


「へぇ…あの子が…」


 クラッカーを作りに行った其の日に鍛冶場に行った夜明だったのだが、後の日にも彼は鍛冶場に出入りをした。元々彼の生きていた場所じゃあそんな現場に入れる機会なんてなかったわけだし、制作過程というのには興味があったからだ。

 都の鍛冶場だって伊達に毎年打ち上げをしているわけじゃあない。しかし夜明という外部刺激が、例えば科学の授業で習うような簡単な炎色変化やテレビで見かけただけのユニークな形の花火をほんの少し口に出してしまえば、鍛冶場の炎並みに燃え上がりやすい彼等が焚きつけられるには十分だった。


 夜明がクラッカーを作りに行った日は花火の本番からそう遠くない日であったわけだが、普段の仕事を滞らせてしまえば、其の程度楽勝、というわけだ。


「…儂は嬉しいのじゃ」


「藤姫様?」


 藤姫は夜明によって作られた去年は無かった変わった形の花火が消えゆくのを惜しむように小さく目で追った。


「儂は此処から離れる事が出来ぬ、そして理知も。であるから、やって来た彼等がしっかりと都の生活に馴染み、受け入れられているのか不安だったんじゃ。しかし、此の花火を見てしかと分かった。あの子等は此の都での暮らしを楽しんでおる。儂は其れがはっきりしして安心したのじゃ…」


 二三はくつりと笑い、閉じた扇子を鼻先に寄せる。


「おいちゃんも友ちゃんみたいな一生懸命な子を教えられて、久しく…生きた心地がしたかな。ちーちゃんも菊ちゃんになら話が出来るんだもんね」


 二三がそう言って千草を見れば、深い前髪の中で微かに微笑んだ千草が頷く。

彼等が来た事は此の都に良い傾向を齎してくれている。

千草の其の様子にも、藤姫は二カ月前に現れた彼等五人の存在に感謝した。



 だからこそ、藤姫は己の影に……否、影の中に潜む者に問いかけた。


「お主もあの子等に会ってはみぬか…のぅ。二の隊隊長、柳陰 清水(やなぎかげ しみず)よ」


影は不自然に一度波紋を作り揺れたが、其れからすんとも反応は無くなった。藤姫は惜しみながらも、其れ以上は問わなかった。













ガコリ


 また襖が誰かの手で開けられる。


「御苦労じゃったな……玉梓」


「ありがとう御座います」


深々と御辞儀をする玉梓を藤姫は柔らかく迎えた。


「しかし良かった。お主は花火を見れぬのではないかと思っとったぞ。ほれ見よ。今年も良い花火じゃ」


 二三が横に促し、会釈をして玉梓は其処に座る。向かい入れるように丁度打ち上がった二つの花火に袖を口元に添えて表情を柔らかく崩した。


「私も今回ばかりは夏の最後の楽しみを逃してしまうと思ったのですがね。五の隊の方々に上手いように進めて戴いた御陰で花火を見る事が叶いました」


「して、成果は?」


藤姫がそう問えば、玉梓は動きを止めて考える素振りをし、硬い表情で告げた。


「…残念ですが、理知さんの予想は当たっていました。良くも悪くも、私が早く帰ってこれた原因でもあります。



都の近郊、そう遠くない場所で、鬼の上位互換、慧鬼(けいき)の存在を確認いたしました」


ノーサイド エンド



                   ※      ※




パーン  パーン


 かなり多くの花火が打ち上がり、終わりも近いだろう。

結局、守さんと幸さんは下で人を楽しませながら花火を見るようだった。二人は場を盛り上げるのが好きなようだから、此れが丁度良いのだろう。


 僕は隣に目を向ける。隣ではさえちゃんが無事僕の足が血だらけになる前に回収してくれた白猫が収まっており、顔を照らされながら口を開けていた。

 花火を見た事ならある。僕達の地元も何故だか毎年花火を打ち上げていたから、見ない方が大変だった。でも今見ている花火が一番輝いているような気がした。きっと此の花火だけは僕の中で思い出として残っていくのだと確信した。


 楽しみにして見た花火が今迄無かった。流すように見ていた花火と待ちに待った花火、其の美しさがこんなにも違うとは。何より、


「…誰かと…一緒に見られるなんて……」


「……ん…?」


さえちゃんは話す方ではない。話も無くて互いに花火を見ているだけだったのに。たった一人…隣にいるだけで心があったかかった。


「……僕、さえちゃんと花火が見れて良かったよ…」


 大きな花火が打ち上がった時に小さく口にしたから、当の本人には聞こえていないだろう。聞えてなければいい。

されどさえちゃんは白猫の毛に埋もれるように口元を隠した。…ように見えた。僕の思い違いでなければ。



こういう風にして、僕の此の世界…歌奏世界での夏は過ぎていったのだった。

本当は去年の年末には投稿したいところ、間に合いませんでした。結局、十二月の投稿数は零…。そんなわけで、此の話も最後の辺りは大事なところだと自分で決めたのに駆け足気味で、集中力も切れて、未熟な私ではしても意味ないのに精査もせずに投稿しました。後におかしいなと思ったところは変えていくかもしれません。


次の話から秋になります。其処からはやりたいシーンなんかも夏以上に増えてくるので改めて頑張っていこうと思います。


年の初めに失礼しました。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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