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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
進歩の夏
27/65

ー弐拾参ー「初めての鬼退治」

青い狸って色んな所で改名されて使われてるよね、ってそういう話。

文月の三十日。僕に身近な暦に違わず、此の世界でも明後日にもなれば月が替わる。


 深夜、場所は城正面大通りの門…を出た都の外、田んぼと田んぼに挟まれた其れなりに広い道。

 一つ結びの長髪、というと僕には白菊さんが此処最近の身近であるが、同じ其れでも寧ろ不格好に、ただ結び上げただけだという事がよく伝わる赤い髪を棚引かせ、切れ長な髪と同じ色の目で自分の前に集まる侍を一通り見た青年は、慣れたように号令を掛け、侍達は散開した。

 赤髪の青年の背後に唯一いた、何時ぞやに見たような桜色の髪のオールバック男が背を向け走り出した後、場の確認を終えた青年もまた、男の後を追いかけた。


「…彼が四の隊隊長、春苑 紅(はるぞの くれない)。都の周辺の鬼の退治を取り纏める隊長さ」


 つい先程迄、多くの侍がいた此の場所にたった三人。僕と白菊さん、そして初雁さんだけが残っていた。「秋風に…」と背後で歌を詠われ、振り返ると既に腕に雁を停まらせている初雁さんが月の光の代わりみたいに柔らかく微笑んでいて、


「さて、私達もそろそろ行こうか」


 四の隊は都を囲む周辺山々に潜む鬼を退治する隊。今日僕達は彼等に交ざり、彼等の仕事を共に全うする事になった。いうなれば、助っ人である。助っ人に成りきれているかは此の際問わない事にするが、都が広大であるという事は囲む山の範囲もまた広大である。其の全体を見回るには一人二人増えると結構な楽が得られるというのが、初雁さんの方便である。

 ともあれ、彼等の仕事をするというのは鬼を退治する事だ。僕にとって、此れはあの日恐怖した鬼へのリベンジに他ならなかった。



                   ※       ※



 一度恐怖したものへの不安はあり、無事此の手に持つ針刀を向けて立ち向かえるか、という不安はあったが、其れが始まって終わるのはほんの一時。呆気ないもので。

木の陰から飛び出たあの日見た鬼とは肌の色・形が違う二足歩行の鬼に腰を引かせながらも向けた針刀が開けた口の喉奥を刺し、貫通して背中から針刀の先を覗かせていた鬼が痙攣を起こす。

其処を念入りに力を入れ、更に差し入れると覗く先の長さが長くなり、鬼は抵抗も無くして手足をだらり重力に任せて垂らした。


 針を大きく横に振って鬼の体を針刀から抜き、放り出せば、鬼は地面で二回跳ねてから、動く気配もなく地面に横たえた。

程無くして、鬼の体は足先から光の粒に変わっていき、空へと霧散して其の姿を失った。


「し…死んだのか…そっか、僕が…殺した…」


目に焼き付いたぐらい忘れられない、白夜を殺しかけた存在がこうもあっさり死ぬ事は、何とも現実味の薄い事だった。


 鬼には骨とも筋肉とも呼べるものが無く、殴られる事も蹴られる事といった原始的な攻撃はへでもないというのに、一般に〈死〉が与えられる物事が起きた際には、より単純に〈死〉に流れて動かなくなる。だから頭から心臓がありそうな辺りを一回串刺しにしただけの今回のケースでも、鬼にとっては〈死〉、になるみたいだ。武器も何も持ってなかった白夜にとっては、相性が悪かった。


 血も流さず、跡形も無く消えた事も殺した実感を減らした一端を担っているのだろう。

此の歌奏世界に望まれて存在しているわけではない鬼は、死ぬ事で何の変哲もない概念に戻り、また世界の外に吐き出され滞留する。其れが別の物体になるのか、また鬼になるのかは僕の知らぬ事だが、兎に角鬼の死んだ後には何も残らないようだった。

 僕は鬼を殺したが、殺した事への溢れるような感情を持ち合わせられなかった。「殺せた」事に対する気持ちの方が強い事にも気が付いた。其れも此れも、鬼が動くとはいえ、生物とは言い難い…からなのだろうか。

其れとも、


 

ドーン



 斜め後ろの方から照らされ、なまじ暖かい爆風が首筋を通り、爆発が起きた事を悟る。其方に顔を向ければ、ゴムのような破片が地面に落ちた。


「こんな時に気を抜いちゃいけないよ。鬼は思っていた以上に容易く殺せるかもしれないけど、其れ以上に急所を狙い一噛みで殺そうとしてくる存在さ。

気付かぬ内に背後から首を食い千切られた侍だって少なくないんだよ」


 初雁さんが指で摘まんでいる羽根を弾いて空中に飛ばすと、丁度飛び掛かろうとしていた鬼を巻き込んで爆発した。


〈クァ~~~~〉


気の抜ける声で鳴く雁が夜の空に紛れて飛び、羽を撒き散らしている。

彼方此方で、爆発の音が響き渡った。


「あ…、はい。き、気を付け、ます」


横の方向からやってきた、空中を低く飛ぶ魚の形をした鬼を刺しながら返事をしたからか、初雁さんはちょっと苦笑していた。



                    ※       ※



「た、退治していない…?ま、まだ…一匹、も?」


 一旦の休憩に木に寄り掛かっていた僕は、驚きで背中を木から離し、白菊さんは落ち込んだ様子で頷いた。


「しよう、とは思ってるん…だけど、やっぱり、いざって如何しても出来なくて…」


 なお、白菊さんが手を出すのに戸惑って襲い掛かった鬼は、全て初雁さんが爆破して処理している。

僕はもう、何だかんだ慣れて、さっきは針刀にて鬼の頭の三段積みを拵えたり、針の試し打ちをしたりしていた。矢張り鬼は針を二本刺しても死ななかったが、僕の歌の意によって姿を現す緑の針を三本打った所に針を打ち込めば、鬼の体を大きく抉り、向こう側が見える穴ができた。

頭や心臓部をこうして針を打てば鬼を倒す事が出来るので、針刀が届かない位置までは此れで対処した。


 感性でいえば、最初に戸惑いを隠せない白菊さんの方が普通なんだろうと思う。


「焦らなくて良いさ。行き成り鬼とはいえ、殺しに該当する行動を行うのは難しいよ。

先ずは、自分の出来る範囲で動いてみようね」


初雁さんも励ますが、白菊さんの表情は晴れないままだった。



 休憩を終え、体を預けていた木から腰を上げた時に、そいつはやってきた。


 ガサッと草を揺らす音がして、僕達は各々の武器を持って構え、警戒心を音のした方に向けると、其処にいたものが僕達の前に姿を現した。

そいつは…鬼?…なのか。


 僕と、多分初雁さんも反応に困っているなか、一人白菊さんだけはキャっと高く嬉しそうな声を喉の奥から出し、其の名を呼んだ。


「トカげもんっ!!」


ずんぐりむっくりな緑の二頭身マスコット。頭部はもろトカゲ。

口からちょっと顔を出している二股に分かれる舌がキュートらしい。名場面はトカげもんが主人公を虐める虐めっ子達を丸呑みにするシーンだそうだ。そんなトカげもんが立っていた。


「あ……あれ、鬼…です、か?」


「鬼のー…筈、なんだけどね…私も唯の鬼で此処まで形の整った歪ない鬼は見た事がないかな」


 〈トカげもん〉は長寿アニメとして老若男女問わず人気があるそうだが、此処最近は新しい子供向けアニメが次々と放送されるようになった事で、一時期に比べれば人気が下がったとは聞いた事がある。

〈トカげもん〉の概念が歌奏世界にあるのは、きっとそういう理由なのだろう。


 白菊さんが好奇心に負けた。トカげもんに駆け寄り、抱き着いたのだ。


「すべすべ~冷た~い!」


トカげもんに白菊さんは頬ずっている。

深夜とはいえ、昼の暑さが後に引いている夏では、冷たいのは良い事だけども、絶対見た目からしてリアルな質感はあまり触り心地の良いものではなさそうだ。


 そんな事をしていると、ずっと真っ直ぐ見て動かなかったトカげもんの視線が白菊さんを見下ろし、クワッと口を開かせた。

開いていく口は少し開けるどころでなく、思いっ切り開けるに留まらず、耐え切れなかった口の端から真横に裂けて開いた。


「「………へ?」」


 ぐるり、パックリ割れて、頭の上部は背後に垂れて薄皮程度で吊り下がった。口だと思われた部分からは触手というべきなのか、気持ちを害するものが何本も溢れ出て、一際大きい触手の先には他の鬼同様の鋭い牙を持つ口があった。

 あまりの状況の変貌具合に呆然と見上げる白菊さん。そんな白菊さんに其の口は近づいて、頬を一舐め。一旦離れて、味わいを楽しむかの如く、口の周りを舐めまわしていた。


「成程、〈ガワ(・・)〉だったんだね」


 初雁さんが冷静に分析する。

 ある程度堪能しきった触手の口は、いざメインディッシュだとでもいうように今度は口を大きく開けて、白菊さんの頭を丸ごと食らいつこうと向かっていった。口は、白菊さんに届く前に地面に叩き落された。


「…うわぁ」


 白菊さんの斧は歌を解いていなかった為に、強化したままで。

地面にぶつかった鬼の触手は、行動を起こす前にもう一度斧で叩き潰されて、其処から始まるのは怒涛のラッシュ。


 白菊さんが頭から喰われるのも見たくなかったが、此れも此れだ。

鬼には血液状のものが通っていない事が幸いだが、何度も潰された鬼の体の破片が周辺に飛び散り、ちょっと離れた場所の筈の僕の所まで飛んできた。僕は其れをはたき落とす。

見た感じ一人での高速餅つきに見えて、されど食欲は引き立てられるどころか、明日の食事を心配する程下がるのみだ。


 元が鬼だったとも分からない位にミンチにした辺りで、やっと白菊さんの気は収まってくれて、達成感で溢れた顔で斧を下ろした。


「友」


「は、はい」


「鬼、退治しないとね!!」


 花咲くような満面の笑みで宣言する白菊さんだったけど、鬼に舐められた頬に付着した鬼の体の破片が全てを台無しにし、僕に薄ら寒いものを感じさせた。


 其の後の鬼退治は白菊さんの独壇場となり、僕も初雁さんも出る幕は無くなった。楽しそうに笑いながら、向かってくる鬼を退治するどころか、自分から向かって鬼を探し出す彼女の後姿は、限り無く恐ろしいものだったという事は、初雁さんも共感を得る程のものだったといえよう。

鬼の強さを調整する上で、「如何したら鬼は死亡するのか」というのは悩みどころでした。弱過ぎるとゴブリンやスライムなんて目じゃないですし、強くすると主人公が針しか使わないので敵わないですし。


しかし、文章のような鬼の死亡設定を作った際に、ふと、こいつ等某ポケットに入る怪獣の一キャラクターであるセミの抜け殻さんに似ているなと感じました。彼も有効な攻撃以外だとダメージ受けませんし、体力は一なので有効な攻撃が一回入るだけで落ちますし。

鬼も其のような存在だと思っといてください。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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