第15話 特別な一本
県予選二回戦。
日紬高校女子バスケットボール部の相手は、昨年ベスト四の私立白峰学院高校。
初戦よりも格上の相手だった。
試合開始前。
朝陽たち男子部員は昨日と同じ観客席へ集まっていた。
「今日は厳しい試合になるぞ」
一ノ瀬がコートを見つめながら言う。
「でも、硯たちなら大丈夫だ」
「はい!」
朝陽は自然と拳を握る。
コートでは葵が円陣の真ん中に立ち、仲間へ言葉を掛けていた。
その表情には、不安よりも覚悟が見えた。
◇
試合開始。
予想どおり、白峰学院は強かった。
高さも速さも昨日とは違う。
第一クォーターは、日紬高校がリードを許す展開になる。
「切り替えよう!」
それでも、葵の声は途切れなかった。
一本決められても、すぐに仲間を励ます。
ミスを責めることはない。
「次!」
その一言だけで、チームの空気が変わる。
「やっぱり、すごい……」
朝陽は目を離せなかった。
プレーだけじゃない。
キャプテンとしてチームを支える姿が、本当にかっこよかった。
◇
第三クォーター。
日紬高校が少しずつ点差を詰め始める。
残り一分。
同点。
葵がボールを持つ。
ディフェンスが二人寄る。
パス。
味方がシュート。
リングに弾かれる。
その瞬間。
葵が飛び込んだ。
リバウンドを奪い、そのままレイアップ。
ネットが揺れる。
「よっしゃあ!」
朝陽は立ち上がって叫んでいた。
その一本で会場の流れが変わる。
第四クォーターも勢いは止まらず――。
試合終了。
71対66。
日紬高校、準々決勝進出。
応援席は大きな拍手に包まれた。
◇
試合後。
体育館のロビー。
自動販売機の前でスポーツドリンクを飲んでいると、葵が歩いてきた。
「朝陽くん」
「先輩! 勝ちましたね!」
「ありがとう」
葵は少し疲れた表情をしていたが、笑顔は変わらない。
「あのリバウンド、本当にすごかったです」
「見てた?」
「もちろんです!」
朝陽は興奮したまま話し続ける。
「あそこで飛び込めるの、本当にかっこよかったです!」
葵は照れくさそうに笑った。
「そんなに褒められると恥ずかしいな」
「本当のことです」
真っすぐな朝陽の言葉に、葵は少しだけ視線を逸らす。
胸の奥が、くすぐったい。
「……ありがとう」
その声は、いつもより少しだけ小さかった。
◇
男子部の集合時間まで少し時間があった。
二人は体育館の外にあるベンチへ腰を下ろす。
風が心地よく吹き抜ける。
「疲れてませんか?」
「疲れてるよ」
葵は笑う。
「でも勝てたから、全部吹き飛んだ」
「次もありますね」
「うん」
「絶対勝ってください」
朝陽は迷いなく言った。
「決勝まで行ってください」
「ふふっ」
葵は優しく笑う。
「そんなに期待されたら頑張らないと」
「期待してます」
その一言に嘘はない。
葵は少しだけ朝陽を見つめた。
まっすぐな瞳。
応援してくれる気持ちが、そのまま伝わってくる。
「朝陽くん」
「はい」
「勝ったらね」
「?」
「また、一番に感想を聞かせて」
一瞬、言ってから自分でも驚いた。
どうしてそんなことを言ったのだろう。
でも、朝陽は満面の笑みでうなずく。
「もちろんです!」
その笑顔を見た瞬間。
葵の胸は、少しだけ高鳴った。
⸻
【葵 side】
帰りのバス。
窓の外を流れる景色を眺めながら、今日のことを思い返す。
試合が終わると、自然と朝陽くんを探していた。
「どんな顔で待ってるかな」
そんなことを考えている自分がいた。
勝ったことを伝えたい。
感想を聞きたい。
「かっこよかったです」
その一言が、誰に褒められるよりうれしかった。
……おかしいな。
朝陽くんは、ただのかわいい後輩のはずなのに。
最近は、その笑顔を見るだけで心が落ち着く。
試合の疲れまで、少し軽くなる気がしていた。




