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『憧れの、その先へ。』  作者: 夜凪ロア


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14/16

第14話 最後の大会が始まる

インターハイ県予選当日。


 朝陽はいつもより一時間早く目を覚ました。


 制服に袖を通し、何度も忘れ物がないか確認する。


 応援用のタオル。


 体育館シューズ。


 飲み物。


「よし」


 鏡の前で小さく頷き、家を出た。


 今日は特別な日だ。


 硯葵にとって、高校生活最後の大会が始まる。


     ◇


 会場となる日向総合体育館には、朝早くから多くの学校が集まっていた。


 朝陽たち日紬高校男子バスケットボール部も到着し、全員で観客席へ向かう。


「結構、人いるな」


 結翔が周囲を見渡す。


「県大会だからな」


 一ノ瀬が答える。


「女子の初戦はもうすぐだ。しっかり応援するぞ」


「はい!」


 朝陽はコートへ目を向ける。


 ウォーミングアップを始めた女子部の中に、葵の姿があった。


 背番号「4」。


 キャプテンの番号。


 ボールをつく姿も、仲間へ声を掛ける姿も、学校で見るよりずっと大きく見えた。


 すると、葵がふと観客席へ顔を向ける。


 朝陽と目が合った。


 一瞬だけ驚いたような顔をしたあと、小さく笑って手を振る。


 朝陽も慌てて手を振り返した。


「……見つけてくれた」


 それだけで胸がいっぱいになる。


     ◇


 試合開始。


 対戦相手は、県立青瀬高校。


 堅実なディフェンスが持ち味のチームだった。


 開始直後から激しい攻防が続く。


 葵はゲームメイクをしながら、自らも得点を重ねる。


「ナイス!」


「一本!」


 仲間を励ます声は、観客席までよく響いた。


「硯先輩、すごい……」


 朝陽は思わずつぶやく。


 学校で見ていた姿とは違う。


 試合ではさらに頼もしく、誰よりも落ち着いていた。


 キャプテンとしてチームを引っ張る姿に、改めて憧れを抱く。


     ◇


 第二クォーター終了間際。


 味方のシュートが外れる。


 リバウンドへ飛び込んだ葵がボールをもぎ取り、そのままゴール下へ。


 ファウルを受けながらもシュートを決めた。


 会場が大きく沸く。


「ナイスプレー!」


 朝陽は気づけば立ち上がって拍手していた。


 周りの男子部員たちも、一緒に声援を送る。


「日紬、頑張れ!」


「キャプテン!」


 ベンチも応援席も一つになる。


 その光景を見て、朝陽は胸が熱くなった。


     ◇


 試合は終盤へ。


 最後まで集中を切らさなかった日紬高校が、そのまま逃げ切った。


 試合終了。


 68対54。


 日紬高校、初戦突破。


「よっしゃー!」


 応援席から歓声が上がる。


 朝陽も思いきり拍手を送る。


 コートの中央で整列を終えた葵は、観客席へ向かって深く一礼した。


 そのあと、ほんの一瞬だけ朝陽のほうを見る。


 目が合う。


 そして、優しく笑った。


 その笑顔に、朝陽も大きく頷いた。


     ◇


 試合後。


 ロビーの自動販売機前。


 朝陽がスポーツドリンクを買っていると、後ろから声がした。


「応援、聞こえてたよ」


 振り返る。


 試合を終えたばかりの葵だった。


 まだ額には汗が残っている。


「本当ですか?」


「うん」


 葵は笑う。


「朝陽くんの声、結構分かりやすかった」


「すみません、つい……」


「謝らなくていいよ」


 少し照れたように笑いながら続ける。


「すごく力になった」


 その一言に、朝陽は何よりもうれしそうな表情を浮かべた。


「次も応援します」


「うん」


 葵は力強く頷く。


「次も勝つから」


 その瞳には、キャプテンとしての強い決意が宿っていた。



【葵 side】


 ロッカールームで着替えながら、私は今日の試合を思い返していた。


 もちろん勝てたこともうれしい。


 でも、それと同じくらい心に残っていることがあった。


 応援席から聞こえた声。


『頑張れー!』


 朝陽くんの声だった。


 周りの歓声に紛れていたのに、不思議とはっきり分かった。


 声を聞いた瞬間、不思議なくらい力が湧いた。


「本当に応援してくれたんだ」


 約束を守ってくれた。


 それが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。


 鏡に映る自分を見る。


 自然と笑っている。


「……朝陽くん」


 名前を口にした瞬間、胸が少しだけ高鳴った。


 その理由には、まだ気づかないふりをしていた。

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