第12話 初めての応援
インターハイ県予選まで、あと一週間。
放課後の体育館には、いつも以上に張り詰めた空気が流れていた。
三年生にとっては、高校生活最後の大会。
誰一人として、練習に妥協はなかった。
「ラスト一本!」
一ノ瀬の声が響く。
「はい!」
朝陽も必死についていく。
汗で前髪が額に張り付き、息も上がっている。
それでもコートを走る三年生の姿は、一年生とは比べものにならないほど力強かった。
その中でも、女子コートの葵は変わらずチームの中心に立っていた。
苦しい練習ほど、自分が一番声を出す。
誰かが下を向けば励まし、ミスをすれば「次いこう」と笑う。
「……すごいな」
朝陽は改めて思う。
だから憧れた。
だから、好きになった。
◇
練習終了後。
一ノ瀬が一年生を集めた。
「来週から県予選だ」
全員が真剣な表情になる。
「俺たち三年は最後の大会になる」
一瞬だけ体育館が静かになった。
「だから一年生も、ベンチも応援も含めて全員で戦う。」
「はい!」
朝陽は大きく返事をする。
「特に女子の試合は、時間が合う限り応援に行くぞ。」
その言葉に朝陽は胸の中で小さく拳を握った。
葵の試合を、ちゃんと応援できる。
それだけでうれしかった。
◇
翌日。
昼休み。
中庭で昼食を食べていると、結翔がパンを片手に話しかけてきた。
「県予選、楽しみだな」
「うん」
「男子ももちろんだけど、女子も強いし」
「硯先輩たちだよね」
「そうそう。優勝候補の一角だからな」
朝陽は少し驚いた。
すごい人だとは思っていた。
でも、想像以上だった。
「絶対、応援しよう」
自然と口から出た言葉だった。
◇
放課後。
朝陽は自主練を終え、体育館の照明を消そうとしていた。
「まだいたんだ」
振り返ると、葵が部室から出てきたところだった。
「忘れ物ですか?」
「うん。キャプテンなのに、ノートを置いて帰るところだった」
二人で笑う。
静かな体育館。
練習が終わったあとの、この時間はどこか特別だった。
「来週ですね」
朝陽が言う。
「県予選」
「うん」
葵はゆっくり頷く。
「ちょっと緊張してる」
「硯先輩でもですか?」
「するよ」
少し照れたように笑う。
「最後の大会だから」
その言葉には、いろいろな想いが込められていた。
朝陽は少し考えてから口を開く。
「俺、応援に行きます」
「え?」
「ベンチからでも、観客席からでも。」
「……」
「硯先輩が最後まで笑ってバスケできるように、精いっぱい応援します。」
葵は驚いたように朝陽を見つめる。
そして、ふわっと笑った。
「ありがとう。」
短い一言。
でも、その笑顔は朝陽が今まで見た中で一番やわらかかった。
「すごくうれしい。」
その言葉だけで、朝陽は応援する理由がもっと強くなった。
◇
帰宅後。
朝陽は机の上に大会の日程表を広げる。
女子の初戦。
男子の試合。
時間を何度も確認する。
「頑張ってください。」
小さくつぶやく。
画面越しではない。
テレビでもない。
同じ体育館で、自分の憧れの人が最後の大会を戦う。
その瞬間を、この目に焼き付けたい。
そう思った。
――――――
【葵 side】
朝陽くんの「応援に行きます」という言葉が、帰り道になっても耳に残っていた。
後輩だから。
同じバスケットボール部だから。
応援してくれる理由はいくらでもある。
でも、不思議だった。
朝陽くんに「応援してます」と言われると、すごく心強い。
試合前なのに、不安より安心のほうが大きくなる。
「ありがとう、か。」
自然と笑みがこぼれる。
大会まであと少し。
私はキャプテンとして最後まで戦う。
そして、応援してくれる大切な後輩に、胸を張れるプレーを見せたい。
そんな気持ちが、静かに胸の中で大きくなっていた。




