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『憧れの、その先へ。』  作者: 夜凪ロア


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12/16

第12話 初めての応援

インターハイ県予選まで、あと一週間。


 放課後の体育館には、いつも以上に張り詰めた空気が流れていた。


 三年生にとっては、高校生活最後の大会。


 誰一人として、練習に妥協はなかった。


「ラスト一本!」


 一ノ瀬の声が響く。


「はい!」


 朝陽も必死についていく。


 汗で前髪が額に張り付き、息も上がっている。


 それでもコートを走る三年生の姿は、一年生とは比べものにならないほど力強かった。


 その中でも、女子コートの葵は変わらずチームの中心に立っていた。


 苦しい練習ほど、自分が一番声を出す。


 誰かが下を向けば励まし、ミスをすれば「次いこう」と笑う。


「……すごいな」


 朝陽は改めて思う。


 だから憧れた。


 だから、好きになった。


     ◇


 練習終了後。


 一ノ瀬が一年生を集めた。


「来週から県予選だ」


 全員が真剣な表情になる。


「俺たち三年は最後の大会になる」


 一瞬だけ体育館が静かになった。


「だから一年生も、ベンチも応援も含めて全員で戦う。」


「はい!」


 朝陽は大きく返事をする。


「特に女子の試合は、時間が合う限り応援に行くぞ。」


 その言葉に朝陽は胸の中で小さく拳を握った。


 葵の試合を、ちゃんと応援できる。


 それだけでうれしかった。


     ◇


 翌日。


 昼休み。


 中庭で昼食を食べていると、結翔がパンを片手に話しかけてきた。


「県予選、楽しみだな」


「うん」


「男子ももちろんだけど、女子も強いし」


「硯先輩たちだよね」


「そうそう。優勝候補の一角だからな」


 朝陽は少し驚いた。


 すごい人だとは思っていた。


 でも、想像以上だった。


「絶対、応援しよう」


 自然と口から出た言葉だった。


     ◇


 放課後。


 朝陽は自主練を終え、体育館の照明を消そうとしていた。


「まだいたんだ」


 振り返ると、葵が部室から出てきたところだった。


「忘れ物ですか?」


「うん。キャプテンなのに、ノートを置いて帰るところだった」


 二人で笑う。


 静かな体育館。


 練習が終わったあとの、この時間はどこか特別だった。


「来週ですね」


 朝陽が言う。


「県予選」


「うん」


 葵はゆっくり頷く。


「ちょっと緊張してる」


「硯先輩でもですか?」


「するよ」


 少し照れたように笑う。


「最後の大会だから」


 その言葉には、いろいろな想いが込められていた。


 朝陽は少し考えてから口を開く。


「俺、応援に行きます」


「え?」


「ベンチからでも、観客席からでも。」


「……」


「硯先輩が最後まで笑ってバスケできるように、精いっぱい応援します。」


 葵は驚いたように朝陽を見つめる。


 そして、ふわっと笑った。


「ありがとう。」


 短い一言。


 でも、その笑顔は朝陽が今まで見た中で一番やわらかかった。


「すごくうれしい。」


 その言葉だけで、朝陽は応援する理由がもっと強くなった。


     ◇


 帰宅後。


 朝陽は机の上に大会の日程表を広げる。


 女子の初戦。


 男子の試合。


 時間を何度も確認する。


「頑張ってください。」


 小さくつぶやく。


 画面越しではない。


 テレビでもない。


 同じ体育館で、自分の憧れの人が最後の大会を戦う。


 その瞬間を、この目に焼き付けたい。


 そう思った。


――――――


【葵 side】


 朝陽くんの「応援に行きます」という言葉が、帰り道になっても耳に残っていた。


 後輩だから。


 同じバスケットボール部だから。


 応援してくれる理由はいくらでもある。


 でも、不思議だった。


 朝陽くんに「応援してます」と言われると、すごく心強い。


 試合前なのに、不安より安心のほうが大きくなる。


「ありがとう、か。」


 自然と笑みがこぼれる。


 大会まであと少し。


 私はキャプテンとして最後まで戦う。


 そして、応援してくれる大切な後輩に、胸を張れるプレーを見せたい。


 そんな気持ちが、静かに胸の中で大きくなっていた。

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