第11話 約束の一本
初めての練習試合から数日。
体育館には、いつも以上に活気があった。
インターハイ県予選まで、一か月を切っている。
三年生にとっては、高校生活最後の大会。
男子も女子も、練習に熱が入っていた。
「一本一本を大事に!」
一ノ瀬の声が体育館に響く。
「はい!」
朝陽も自然と返事に力が入る。
先輩たちの最後の大会。
自分にできることは少ない。
それでも、一緒に戦う一員として少しでも力になりたいと思っていた。
◇
練習の合間。
給水のために自販機へ向かうと、そこには先にスポーツドリンクを飲んでいる葵の姿があった。
「あ、お疲れさま」
「お疲れさまです」
自然と会話が始まる。
「この前の試合、家に帰ってから思い出しちゃった」
葵が笑いながら言う。
「朝陽くん、シュートを決めたあと、すごくうれしそうだった」
「……顔に出てましたか?」
「うん」
少しだけいたずらっぽく笑う。
「子どもみたいだった」
「そんなにですか」
朝陽は照れくさそうに頭をかく。
「でも、その笑顔がよかった」
その一言だけで十分だった。
「ありがとうございます」
「次は一本だけじゃなくて、もっと決められるようになるね」
期待してくれている。
そう思うだけで、胸が熱くなる。
◇
午後の練習。
一ノ瀬が一年生を集めた。
「来週も練習試合がある」
全員の表情が引き締まる。
「今回は出場時間が少し長くなる予定だ」
朝陽は思わず拳を握る。
「チャンスは自分でつかめ」
「はい!」
その声は、一年生の中で一番大きかった。
◇
練習後。
朝陽は体育館に残ってシュート練習をしていた。
一本。
また一本。
リングを見つめ、何度も同じフォームを繰り返す。
「まだやってるの?」
聞き慣れた声だった。
「硯先輩」
振り返ると、葵がバッグを肩に掛けて立っていた。
「もう帰るところ?」
「はい。朝陽くんは?」
「あと十本だけ打って帰ります」
「十本?」
「決めるまでじゃなくて、決めても外しても十本って決めてるんです」
「どうして?」
朝陽は少し考えてから答えた。
「終わりを決めないと、ずっと続けちゃうので」
葵は少し驚いたように笑う。
「真面目だなぁ」
「父にも、やりすぎるなってよく言われます」
「ふふっ」
葵はボールラックに寄りかかる。
「じゃあ、最後の十本、見届けようかな」
「えっ!?」
「応援するだけ」
そう言って微笑む。
朝陽は一瞬緊張したが、すぐにボールを構えた。
一投目。
入る。
二投目。
外れる。
三投目。
入る。
……
十投目。
きれいな放物線を描いたボールが、ネットだけを揺らした。
「ナイス」
パチパチと拍手が聞こえる。
朝陽は少し照れながら笑った。
「ありがとうございました」
「私、何もしてないよ」
「見てもらえるだけで頑張れました」
その言葉に、葵は少しだけ黙る。
そして、小さく笑った。
「朝陽くんって、本当に素直だね」
「よく言われます」
「そのままでいてね」
その優しい言葉は、朝陽の心に深く残った。
◇
帰り道。
駅までの道を一人で歩きながら、朝陽は空を見上げた。
もうすぐ、三年生にとって最後の大会が始まる。
その舞台で戦う葵の姿を見たい。
そして、応援したい。
朝陽は胸の中で静かに誓う。
いつか、自分も先輩のように誰かを引っ張れる選手になる。
そのためにも、今日より明日。
明日より、その次の日へ。
一歩ずつ前へ進んでいこうと。
――――――
【葵 side】
朝陽くんがシュートを打つ姿を見ていて思った。
一本一本に、手を抜かない。
誰も見ていなくても、同じように全力で取り組む。
そんな姿勢は、きっと簡単には身につかない。
「そのままでいてね」
思わず口にした言葉。
それは励ましでもあり、本心でもあった。
高校生活は長いようで短い。
だからこそ、朝陽くんには今の真っすぐな気持ちを忘れずに成長してほしい。
……気づけば私は、後輩一人の未来を、誰よりも楽しみにしていた。




