第10話 初めての練習試合
土曜日。
朝陽にとって、高校へ入学して初めての練習試合の日だった。
朝早く体育館へ着くと、すでに先輩たちは準備を始めている。
「おはようございます!」
朝陽が元気よく挨拶すると、一ノ瀬が振り返った。
「おう、おはよう。今日は一年も全員ベンチ入りだ」
「はい!」
試合に出られる時間は長くない。
それでも、自分の力を試せる初めての機会だった。
自然と気持ちが高ぶる。
◇
ウォーミングアップを終え、コートへ向かう途中。
「朝陽くん」
聞き慣れた声がした。
「硯先輩、おはようございます!」
女子バスケットボール部も、同じ体育館で練習試合を行う予定だった。
「今日は試合だね」
「はい」
「緊張してる?」
「少しだけ」
「そのくらいがちょうどいいよ」
葵は笑いながら、自分の手を軽く握る。
「緊張するってことは、それだけ本気ってことだから」
その言葉で、朝陽の肩の力が少し抜けた。
「ありがとうございます」
「応援してる」
その一言だけで十分だった。
◇
試合開始。
一年生は第二クォーターから出場することになった。
「朝陽、行け!」
「はい!」
コートへ足を踏み入れる。
練習とは違う空気。
観客席から聞こえる声。
試合独特の緊張感。
ボールを受け取る手に、少しだけ汗がにじむ。
「落ち着け」
御門の声が聞こえた。
「いつもどおりでいい」
「はい!」
朝陽は深呼吸を一つ。
ドリブルで運び、味方へパス。
もう一度ボールが返ってくる。
ゴールまで距離はある。
でも――。
『シュートを打つ勇気も大事だよ』
数日前に葵から言われた言葉が頭をよぎる。
「よし!」
迷わずジャンプ。
放たれたシュートは高い放物線を描き――
リングに吸い込まれた。
「ナイスシュート!」
ベンチから歓声が上がる。
朝陽は思わず拳を握った。
高校で決めた、初めての得点だった。
◇
試合終了。
男子は勝利。
朝陽は得点こそ一本だったが、アシストやディフェンスでも存在感を見せることができた。
「よくやった」
一ノ瀬が肩を叩く。
「ありがとうございます!」
「でも満足するな。ここからだぞ」
「はい!」
その言葉を胸に刻む。
◇
試合後。
観客席の片付けをしていると、葵が近づいてきた。
「朝陽くん」
「はい!」
「ナイスシュート」
満面の笑みだった。
「見てたんですか?」
「もちろん」
葵は嬉しそうに頷く。
「あの場面、ちゃんと打ったね」
「……先輩に言われたので」
「え?」
「打つ勇気も大事って」
葵は一瞬驚いたあと、ふっと笑った。
「ちゃんと覚えててくれたんだ」
「はい」
「じゃあ、その一本は朝陽くんが頑張った一本だね」
朝陽は首を横に振る。
「先輩の言葉があったからです」
その真っ直ぐな返事に、葵は少しだけ照れたように目を逸らした。
「そんなこと言われると……うれしいな」
二人の間に、穏やかな空気が流れる。
「次の試合も頑張ってね」
「はい!」
朝陽は力強く頷いた。
もっと上手くなりたい。
もっと成長した姿を見てもらいたい。
その気持ちは、日に日に大きくなっていた。
――――――
【葵 side】
朝陽くんのシュートが決まった瞬間。
私は思わず立ち上がって拍手をしていた。
「やった」
心の中で、小さくつぶやく。
ほんの少し前まで、高校のスピードについていくのに必死だった一年生。
でも今日は、自分で決める勇気を見せてくれた。
うれしかった。
後輩の成長が、こんなにも自分のことのようにうれしいなんて。
きっと、それはキャプテンだから。
……そう思おうとした。
だけど、朝陽くんが笑顔で私を見つけた瞬間。
胸の奥が少しだけ温かくなった理由は、まだ説明できなかった。




