吸引の深淵、あるいは資産の強制収容
タナハシカメラの中央イベントスペース。特設ステージに立つ田所は、最新型のサイクロン掃除機を抜き身の刀のように構え、集まったお客様を冷徹な眼差しで射貫いていました。
其の一:空間の不純物
「……皆様、注目してください。この空間には今、数え切れないほどの『無秩序』が散乱しています」
田所は、掃除機の電源スイッチに指をかけました。
「(……いけない。このタナハシカメラという管理空間において、微細な塵埃だけでなく、お客様が身に着けている『不用意に露出した小物』さえも、空間の規律を乱すノイズとなっている。私は販売員として、これらを一括してホールドし、清浄な空間を登記し直さなければならない)」
其の二:超吸引による「環境整備」
「さあ、真の清浄を体感してください。この『高密度吸引ユニット』が、あなたの周囲から全ての不安を**デリート(消去)**します」
ブォォォォォォン!!
凄まじい轟音と共に、田所は実演を開始しました。しかし、彼は床を掃除するのではなく、なぜか最前列にいたお客様の足元やポケットのすぐ近くを、精密なスキャンを行うようにノズルでなぞり始めました。
「わあ、すごい吸引力……って、あれ? 私のイヤリングがない!」
「お父さん! 僕の持ってたミニカーが消えたよ!」
「おい! ワシの胸ポケットに刺してた万年筆が今、吸い込まれなかったか!?」
次々と上がる悲鳴。しかし、田所は一点の曇りもない瞳で、ノズルをさらに加速させます。
其 三:中央アーカイブへの「強制登記」
「お客様、ご安心ください。それらはロストしたのではありません。現在、この掃除機のダストカップという名の『中央保管センター』へと、一時的に**ホールド(収容)**されただけです」
田所は誇らしげに、高速回転するゴミで満たされた透明なカップを掲げました。
「見てください。この旋回する渦の中に、あなたのイヤリングも、お子様のミニカーも、そしてお父様の万年筆も、塵埃と共に**完璧に同期**されています。個別の動産として放置されていた時よりも、はるかに高い密度で一括管理されている。……これこそが、私の誠実さが導き出した『紛失防止』の極致です」
「バカなこと言うな! ゴミだらけの中に混ざっちゃったじゃないか! 早く出してよ!!」
「いいえ。一度ホールドした資産を、この無秩序な外界へ再放出することは、管理責任の全損に当たります。このままこの掃除機ごと、10万円でご購入(一括ホールド)していただくのが、資産を守る唯一の手段です」
其 四:貴島の「物理的緊急停止」
「お前が一番のゴミだバカ野郎!!」
背後から放たれた貴島のジャンピングニーが、田所の側頭部に炸裂しました。
「実演販売で客の私物を強奪してどうするんだ! お客様、すみません! 今すぐこのキチガイのダストカップを開けて、中身を分別(捜索)しますから!!」
「貴島さん……。私はただ、お客様の持ち物を『空間の汚れ』から守るために、シェルター(掃除機)の中へ避難させただけです。……お客様、現在、皆様の私物は目下、ゴミの中で捜索中でございます! 今しばらく、手ぶらという名の『身軽さ』をお楽しみください!」
「楽しめるかぁぁ!!」
今回のリザルト:店舗の信用およびお客様の所持品の全損
結局、田所は「最新型掃除機を使った組織的窃盗未遂」として警察を呼ばれかけ、長谷川店長はピンセット片手に、ホコリまみれのイヤリングやミニカーを泣きながら洗浄する羽目になりました。
「長谷川店長……。再発防止のために、お客様が店に入る際、全所持品を全裸でこの掃除機に吸引させ、店員がビニール袋に入れて管理する『全方位セキュリティシステム』を――」
「お前を今すぐ特大の掃除機で吸い込んで、宇宙の果てまで射出してやろうか!!」




