暗黒の聖域、あるいはエネルギーの全損
落雷による影響で、タナハシカメラ全館が突如として漆黒の闇に包まれました。悲鳴を上げるお客様、混乱するスタッフ。しかし、暗闇の中でただ一人、田所だけは眼鏡の奥に静かな光を宿していました。
其の一:視覚情報のロスト
「キャー! 真っ暗!」「店員さん、どうなってるの!?」
パニックに陥る店内。田所は音もなく、近くにいたお客様の肩を優しく、しかし鋼のような力で掴みました。
「(……いけない。このタナハシカメラという巨大な管理システムにおいて、電力という名の『生命維持資産』が完全にロストした。これは店舗という名の器が、機能を全損し、ただの『巨大な箱』へと退行したことを意味する。直ちに暫定的な管理体制(非常事態モード)を登記しなければならない)」
其の二:人間資産の「強制ホールド」
「お客様、静粛に。現在、光という名のデータが一時的に行方不明となっております。私の誠実さが出口を目下捜索中ですが、それまでの間、皆様は一歩も動かないでください」
田所はどこからか取り出した「展示用テレビの梱包用ロープ」を使い、近くにいたお客様5人を緩やかに、かつ確実に一まとめに縛り始めました。
「ちょっと! なんで縛るのよ! 帰らせてよ!」
「いいえ。暗闇において、個体(お客様)がバラバラに移動することは、管理上の致命的なエラー(紛失)を招きます。こうして一括ホールドさせていただくことで、皆様を一つの『在庫ユニット』として安全に保護しているのです。安心してください、私が皆様の『座標』になります」
其 三:手動による「エネルギーの自給自足」
暗闇の中、田所は「手回し充電式ラジオライト」の在庫50台をリヤカーに積み込み、縛り上げたお客様たちの前に並べました。
「お客様、家電量販店において『電気がない』という言い訳は、管理者の恥辱に当たります。現在、電力供給ルートが断絶しているため、皆様の筋力という名の『内部資産』を電力に変換してください」
「え、これを回せってこと?」
「はい。この50台を一斉に回すことで、当店の看板一つ分くらいの電力はホールドできる計算です。さあ、回してください。暗闇を照らすのは、お客様自身の『労働の登記』でございます。目下、全力で回してください!」
其 四:貴島の「物理的リカバリー」
「客を回し車にするんじゃねえよバカ野郎!!」
暗闇を切り裂くように、貴島の回し蹴りが田所の側頭部を正確に捉えました。
「お客様、すみません! 今すぐ非常灯をつけますから! 田所、お前はライトの在庫を持って、お客様を安全に出口まで誘導しろ! 縛るな、回させるな!」
「貴島さん……。私はただ、電力という名の失われた資産を、お客様との共同作業で再構築しようとしただけで……。お客様! 現在、出口という名の光は目下捜索中であります! 回す手が止まっていますよ、エネルギーがロストします!」
「もう電気なんていらねえよぉぉ!!」
今回のリザルト:店舗の信用およびお客様の筋力の全損
結局、田所は「停電の混乱に乗じてお客様を拘束し、強制労働をさせた」として、警察から厳重注意を受けました。長谷川店長は、暗闇の中で田所が「非常灯の電池がもったいないので、自分の眼鏡に蛍光塗料を塗って光らせよう」としているのを見て、完全に心が折れました。
「長谷川店長……。再発防止のために、全お客様の靴底に発電機を内蔵し、歩くたびに店内の冷蔵庫が冷える『完全自律型エネルギー循環システム』を導入して――」
「お前の存在そのものを、この社会から永久に停電させてやろうか!!」




