純愛の強制執行、あるいは台車による登記
タナハシカメラのシステムキッチンコーナー。カップルの厚かましさは頂点に達していました。「ねえ智也、新婚生活は毎日あーんしてね?」「当たり前だろ、もうここが俺たちの新居だよ」
周囲のお客様が呆れ果てる中、田所がどこからか持ってきた「白いベール(梱包用不織布)」を新婦(仮)の頭にふわりと被せました。
其の一:祝祭の同期
「(……いけない。この二人の『情熱』という名のアセットが、未決済のまま空間に溢れ出している。これは感情の過剰在庫であり、速やかに『成婚』という名のステータスへ固定しなければならない)」
「えっ、何!? お兄さん、お祝いしてくれるの?」
「はい。現在、当コーナーにおいてお二人の『生活』が登記されました。これより、タナハシカメラ公認の緊急結婚披露プロトコルを執行いたします。智也様、新婦の手をホールドしてください」
其の二:愛の「物理的固定」
田所はうっとりした表情の二人の周囲を、祝福の言葉を唱えながら高速で旋回し始めました。しかし、その手には花束ではなく、**「超強力シルバーガムテープ(業務用)」**が握られていました。
「あ、ちょっと、何これ!? なんで僕たちをぐるぐる巻きにするの!?」
「静粛に。これは『愛の不変登記』です。新生活において、物理的な距離の発生は心変りという名の**ロスト(紛失)**を招く致命的なバグです。こうして二人を一体化することで、一ミクロンの隙間もない完璧な関係をホールドいたしました」
田所は、ガムテープで背中合わせにガチガチに固定され、もはや「一つの肉塊」となった二人を、流れるような手つきで大型家電搬送用の台車の上に乗せました。
其 三:昇華への「ラストワンマイル」
「お兄さん、降ろして! どこに連れて行く気よ!」
田所は無表情のまま、台車のハンドルを力強く握り、出口(市役所方面)へ向けて猛烈なダッシュを開始しました。
「ご安心ください。お二人の愛を『概念』から『社会制度』へと昇華させるため、これよりホテル(休憩)を経由し、市役所(入籍)まで直行で配送して参ります! 私の誠実さが、お二人の戸籍を目下、全力で書き換え中であります!」
「やめてぇぇ! まだ付き合って3ヶ月なのぉぉ!!」
其 四:貴島の「物理的離婚届」
「他人の人生を勝手に納品するんじゃねえよバカ野郎!!」
店外へ飛び出そうとした台車の車輪を、貴島の鋭いスライディングが阻止しました。
「お客様、すみません! こいつ、カップルのシミュレーションを完遂させないと気が済まない病気なんです! 田所、お前は今すぐそのテープを剥がして謝れ! あと、勝手にホテルとか言うな!」
「貴島さん……。彼らは『住んじゃおうか』と登記(発言)したのです。私はただ、その言葉を資産としてホールドし、法的な終着駅までエスコートしようとしただけで……。お客様! あなた方の婚姻届は現在、私の脳内で目下、受理中であります!」
「一生独身でいいから降ろしてぇぇ!!」
今回のリザルト:カップルの恋愛感情および台車の車輪の全損
結局、カップルは「結婚の重圧」に耐えかね、その場で大喧嘩を始めて破局。田所は「愛のロストを招いた」として、長谷川店長から「お前は一生、倉庫の段ボール(独身)とだけ喋ってろ!」と、バックヤードへ永久ホールドされました。
「長谷川店長……。再発防止のために、来店する全カップルの小指を赤い光ファイバーで物理的に連結し、10メートル以上離れるとアラームが鳴る『運命の強制ホールドシステム』を――」
「お前の人間関係を今すぐ完全にデリート(削除)してやろうか!!」




