下半身の全損、あるいは代替衣類の緊急登記
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出勤30分前。田所の自宅。彼はクローゼットの前で、彫像のように硬直していました。
其の一:ユニフォーム・アセットの喪失
「(……いけない。この『田所』という販売員ユニットにおいて、下半身を保護し、社会的信用のインフラを支える重要資産――スラックスが、現在クローゼット内のどこにも見当たらない。これは、身だしなみという名のセキュリティ・プロトコルにおける重大なバグ、あるいは個体の完全なる**ロスト(紛失)**だ)」
田所は、昨晩の自分の行動ログを脳内で高速検索しました。しかし、洗濯という名の「メンテナンス工程」に回した形跡も、椅子に掛けて「ホールド」した記録も、完全にデリート(消去)されていました。
其の二:物理的インベントリ(棚卸し)の執行
「落ち着け、私。現在、スラックスは『消失』したのではなく、一時的に『非公開設定』になっているだけだ。私の誠実さが、直ちに**自宅内全域を棚卸し(全件捜索)**いたします」
田所は、布団を剥ぎ取り、冷蔵庫の中を確認し、さらには「隙間に潜伏している可能性」を考慮して、テレビの裏側を懐中電灯で精密にスキャンしました。
「……現在、捜索開始から15分が経過。スラックスの応答はありません。このままでは、店舗へのチェックインが遅延し、私の勤怠スコアが全損する事態となります。直ちに、**『代替アセットによる下半身の再構築』**を開始します」
其 三:代替品による「暫定登記」
出勤時刻ギリギリ、タナハシカメラの通用口に、いつものポーカーフェイスで田所が現れました。しかし、その下半身を見た警備員が、腰を抜かして絶叫しました。
「た、田所さん!? 何を履いてるんですか、それは!」
「ご安心ください。これは『在庫管理の極致』です。スラックスという名の既製品アセットがロストしたため、私は自宅の**『遮光1級カーテン』を腰に巻き、『大型テレビの梱包用結束バンド』**で完璧にホールド(固定)いたしました」
田所の足元では、重厚なカーテンがマントのように広がり、歩くたびに床のホコリを完璧に清掃していました。
「見てください。この圧倒的な遮光性と、梱包材による強固なセキュリティ。既存のスラックスよりも、はるかに高いレベルで私の下半身という資産を登記しております」
其 四:貴島の「物理的コンプライアンス」
「下半身がカーテンの販売員がどこにいるんだバカ野郎!!」
背後から放たれた貴島の鋭いローキックが、カーテンの裾を巻き込みながら田所の膝裏に炸裂しました。
「お前、なんでそんな姿で出勤してんだ! 職務規定の全損だよ! 今すぐ裏にある『忘れ物のジャージ』に履き替えろ!!」
「貴島さん……。ジャージという名の『軟弱な布』では、私のプロフェッショナルな誠実さをホールドできません。このカーテンこそが、光(外敵)を遮り、店舗の静寂を守るための――」
「お前が一番のノイズなんだよ!! 早く着替えろ!!」
今回のリザルト:身だしなみおよび店舗の威厳の全損
結局、田所は貴島に引きずられて更衣室へ連行。後に、紛失したスラックスは「シワにならないよう、冷蔵庫の側面に磁石で完璧にホールド(貼り付け)されていた」ことが判明しました。
「長谷川店長……。再発防止のために、全従業員のスラックスにGPSと自律歩行機能を搭載し、出勤時刻に自動で足に装着される『自動着衣ホールドシステム』を登記して――」
「お前、明日は全裸で『自宅待機(完全ロスト)』してろ!!」




