空力の転用、あるいは熱帯夜のエンターテインメント
真夏日、気温35度。タナハシカメラのおもちゃ売り場は、暑さと疲れで泣き叫ぶ子供たちと、途方に暮れる親たちで、「平穏という名の情緒資産」が完全にロストしていました。
其の一:音響公害の検知
「(……いけない。このフロアにおいて、児童たちの泣き声という名の『ノイズバグ』が、店舗のブランド価値を全損させている。これは音響管理における重大な過失だ。直ちに、子供たちの視線をホールドし、静寂を登記しなければならない)」
田所は周囲を見渡しました。しかし、おもちゃの在庫はすでに品薄。そこで彼の目に留まったのは、冷房の補助としてフル稼働していた**「展示用の最新型扇風機」**の列でした。
其の二:冷却資産の「資源再配分」
「皆様、ご安心ください。現在、おもちゃという名の娯楽アセットが不足しておりますが、私が今、『既存のインフラ』を転用して、最高のアトラクションを構築中でございます」
田所はおもむろに、回っている扇風機のガードを次々と外し始めました。そして、高速回転していた**プロペラ(羽根)**を強引に引き抜き、それらを中央の軸で連結。カラーテープで装飾を施し、巨大な「手回し式プロペラ・トップ(独楽)」や「空飛ぶプラスチック・ブーメラン」へと改造したのです。
「わあ! お兄さんすごい! 羽が飛んだ!」
泣き止む子供たち。田所は無表情のまま、次々と扇風機を解体し、羽根をおもちゃへと登記(変換)し続けました。
其 三:熱流のロスト(完全停止)
子供たちは笑顔を取り戻しましたが、数分後、別の問題が発生しました。おもちゃ売り場の気温が、異常な速さで上昇し始めたのです。
「ちょっと! お兄さん! 扇風機が全部、首を振ってるだけで風が来ないわよ!」
「暑くて死にそうよ! なんでプロペラがないの!?」
汗だくの客たちが詰め寄ります。そこには、プロペラを奪われ、裸のモーター軸だけが「キィィィィン」と虚しく高速回転している、無残な扇風機の群れがありました。
「お客様、静粛に。現在、当フロアの『冷感アセット』は、すべて『児童のスマイル維持装置』へとコンバート(変換)されました。涼しさという物理的快適さをロストさせる代わりに、次世代の希望という無形資産をホールドしたのです。……さあ、汗をかいて新陳代謝を登記してください」
其 四:貴島の「強制冷却」
「物理的に暑いわバカ野郎!!」
背後から放たれた貴島の回し蹴りが、田所の側頭部にヒットしました。
「お前、扇風機の心臓部(羽根)を全部バラして何してんだ! 客が熱中症で全損したらどうするんだよ! お客様、すみません! 今すぐバックヤードから予備の羽根を目下捜索してきます!」
「貴島さん……。風は目に見えませんが、子供たちの笑顔は目に見える資産です。私は、実体のない気流よりも、確かな手応えのある『プラスチックの回転』を優先しただけで……。お客様! あなたの扇風機は現在、子供たちの手の中で目下、空飛ぶおもちゃとして稼働中であります!」
「早く返してよぉぉ!!」
今回のリザルト:空調インフラおよび店舗の気温管理の全損
結局、田所は「空調設備の破壊および私物化」の罪で、長谷川店長から「頭を冷やしてこい!」と、氷点下の業務用冷凍庫の在庫確認を命じられました。
「長谷川店長……。冷凍庫の中は、湿度がロストしており、私の肺が結晶化する恐れがあります。……再発防止のために、お客様の背中に直接プロペラを移植し、自律的に風を起こす『全人類ドローン化計画』を登記して――」
「二度と喋るな!!」




