3撃目 監禁したいほど美しい君へ
砲弾が飛び出す時の振動と大きな音。
僕はその2つがとっても好きだ。
そして、敵クレーストは僕の勘の通り、魔導防壁を展開せず回避行動に移った。
「上手いな……」
僕は今も射撃を続けているが、クレーストは操縦で上手く躱している。
「こいつ、並の戦車乗りじゃないぞ」
1人呟いた時、アラートが鳴った。
敵も僕をオートロックした。
敵も砲撃を開始。
僕も回避行動に移った。
お互いに回避しながら撃ち合い、そして徐々に距離を詰めた。
距離が縮むと、回避できなくなる。
それはまぁ僕もだけど、望むところ。
「まだ躱すのかっ!」
マジで上手いぞこいつ。
この距離なら砲盾で受けるか、最悪でも側面装甲で受ける。
魔導戦車なら防壁を展開するところ。
僕も敵の砲弾を躱したが、そろそろ僕は躱せなくなる。
僕より操縦が上手いっぽい。
とはいえ、距離は縮まっているのだ、そろそろ防壁を張るはず。
僕は防壁貫通徹甲弾を選択し、2発撃った。
敵も撃ってきたが、たぶん防壁貫通弾。
敵クレーストが急停車して防壁を展開。
僕の撃ち出した防壁貫通弾が、敵の魔導防壁に衝突し、防壁を貫通。
そしてクレーストの左キャタピラに命中、破壊した。
防壁貫通弾の原理を、僕はよく知らない。
弾頭が魔力を帯びていて、その魔力が相手の防壁に干渉して無効化するらしい。
かなりの量の魔力を帯びさせるので、コストが高いと教官から昔聞いた。
まぁ、それはそれとして。
敵の撃った榴弾を、僕は上手に砲盾で受けた。
かなりの衝撃があったが、損傷は軽微。
砲盾は戦車で一番頑丈なところなのだ。
ここなら5発は受けられる。
まぁ、細かくは車両によるけど。
クレーストは右のキャタピラだけでしばらく動いたので、その場でクルッと回った。
でもすぐに動かなくなる。
さて、反撃が来るかな?
僕はオートロックを外していない。
まぁそれは敵も同じ。
パネルを操作して、狙いを右のキャタピラに変更する。
僕は敵クレーストに通信を送ったが、応答がない。
僕はしばらく待った。
僕たちの距離は更に縮まった。
ゴクリと唾を飲む。
撃たれたら、割とやばい。
でも、撃たれたいという気持ちも少しある。
自殺志願ではなく、ギリギリの戦闘を楽しみたいという意味で。
敵パイロットが通信を受けた。
僕は武装解除を促そうとしたのだけど、その前に敵パイロットが喋った。
「……酷いわ……」
敵パイロットは泣いているようだった。
「ご、ごめん」
僕は咄嗟に謝ってしまった。
あまりにも予想外の事態だ。
まさか泣かれるとか、誰に予想できる?
今まで撃破してきた相手は、誰一人泣かなかった。
まぁ、性的な虐待を加えられて悔し涙を流していた女性捕虜はいた。
ちなみに虐待したのは僕じゃない。
パウルや、パウルと仲のいい連中だ。
「謝るぐらいなら撃たないでよクソヤロー!! アレを切り取って口の中に詰めてから殺してやるから!!」
敵パイロットが悲鳴みたいに言った。
しかし酷い殺し方だ。
まぁ、ラクークの人間ならやりかねない。
捕虜になったニア共和国の兵士を残酷な方法で殺しているのは有名だ。
「それはいいけど、武装解除して投降してくれない?」
僕はできるなら、この敵パイロットを殺したくない。
僕は戦車での戦闘は好きだが、別に人殺しが好きなわけじゃない。
ただまぁ、敵パイロットが撃ってくるなら、最終的には殺す必要があるかもしれないが。
しばらくの沈黙があったのち。
「……投降するわ」
敵パイロットが言った。
どんなに悔しくても、命には替えられない、ということだ。
賢明な判断だと思う。
◇
敵クレーストから出てきた女性パイロットの美しさに、僕は目が眩んだ。
艶やかで、少し緑の混じった長い黒髪。
抱き締めたら折れそうなくらい細いシルエットに、ちょっと大きめの茶色い戦闘服。
泣き腫らした瞳には、僕への純粋な憎悪が浮かんでいる。
薄い唇はきつく結ばれ、無言の敵意を僕にぶつけてくる。
女性パイロットの年齢は僕と同じか、少し年上といったところか。
20歳は超えていないはずだ。
僕は唾を飲んだ。
女性パイロットが、捕虜になりたくないと言った理由がよく分かる。
これほどの上玉なら、みんなに犯される。
順番に、何人も、まるで娼婦みたいに。
でも、それでも女性パイロットは生きることを選んだ。
僕に殺されるという選択だってあったのだから。
「戦車から降りて、こっちへ。ゆっくり」
僕は外部スピーカーで言った。
僕のグラディウスはクレーストのすぐ近くに停車している。
もちろんまだ狙っている。
女性パイロットは僕の指示に従い、ゆっくりとした動作で戦車から降りた。
「両手を上げて」
僕が言うと、女性パイロットはすぐに両手を上げた。
見た感じ、武器は所持していない。
「これを装着してから、こっちの戦車に乗って」
僕は側面の乗降口を開き、魔力抑制用の首輪を投げた。
相手は魔法使いだ。
念には念をってね。
女性パイロットは小さく頷き、首輪を拾って自分で首に装着。
彼女を所有したみたいで、少し興奮した。
僕は右手で拳銃を向けながら、左手でこっちに来いと合図。
ちなみに、この側面乗降口は、グラディウス本体が邪魔になって味方からは見えない。
つまり、女性パイロットを乗せた場面を見られる心配がないってこと。
女性パイロットが乗降口のところまで辿り着くと、僕は両手で拳銃を握り直す。
「入って」と僕。
女性パイロットが乗降口から中に入った。
僕はすぐに女性パイロットを後部の簡易ベッドに手錠で拘束した。
簡易ベッドという名前だが、ただの鉄の板とパイプである。
戦車が一人乗りになって、スペースが少し余ったので仮眠用に設置されたものだ。
一部の例外を除けば、他国の戦車にはない。
ラーミナⅡとグラディウスだけの装備だ。
けれど、正直寝れたものじゃない。
細いし、小さいし、硬いし、何の役にも立ちやしない。
設計者が何を思ったのか真剣に問い質したい。
せいぜい、こうやって捕虜を拘束するぐらいしか役に立たないのだ。
操縦席で眠った方がよく眠れる。
まぁ、操縦席も快適とは言えないが。
女性パイロットは簡易ベッドに座った。
「命の保証はしてくれるのね?」
女性パイロットが言った。
「ああ。約束は守るよ」
「そう。ならいいわ。今夜はあなたと寝ればいいの?」
「いや。誰とも寝なくていい」
僕がそう言うと、女性パイロットは驚いたように目を見開いた。
「ニア共和国の男性兵士は、全員総じてケダモノだと聞いていたけれど?」
「僕以外は、そうかもね」
「なら、あなた以外と寝ることになるのでしょう?」
「寝たいの?」
僕は少し笑った。
女性パイロットは唾を吐いた。
寝たいわけないでしょクソヤロー、という意味だ。
僕は溜息を吐いてから、女性パイロットの吐いた唾をタオルで拭いた。
「君のことは誰にも話さないから大丈夫だよ」
「……は?」
女性パイロットが目を細めた。
正直、僕も僕が何を言ったのかよく分からなかった。
でも、たぶん、僕はこの美しい少女が汚される場面を見たくないのだと思う。
「戦車が好きなんだって? 僕もなんだ。戦車の話をしよう」
言いながら、僕は操縦席に座った。
「ちょっと待って。あなたが何を言っているのか分からないわ」
「戦車の話を……」
「そうじゃなくて、私のことを報告しないの?」
「うん」
グラディウスの動力はオンラインのままだったので、アクセルを入れてハンドルを切って向きを変える。
「なら、どうして捕まえたのよ!? 逃がしてくれれば良かったじゃない!」
女性パイロットが悲鳴みたいに言った。
「君、よく叫ぶね」
「あなたがクソヤローだからでしょ!?」
「僕はロゼ。ロゼ・ライン。あなたじゃない。君は?」
「知らないわよ! あなたの名前なんてクソヤローで十分よ!」
「まぁクソヤローでもいいけど、君の名は?」
「教えないわ」
「じゃあ、ビッチって呼ぶね」
「はぁ!?」
「ねぇビッチ。僕は敵を撃破するのが大好きなんだ。運が悪かったんだよ、ビッチは。僕に目を付けられてしまった。不運だよ。可哀想に」
実際、僕以外は誰も逃げている戦車なんて追いかけない。
「なんなのよ……」
女性パイロットの位置は後部なので、その様子は見えないが、たぶん顔を歪めているだろう。
「ねぇビッチ。戦車の話をしよう」
「ビッチビッチって何よ!? 私は処女よ!」
「へぇ。そうなんだ」
意外だ。
これだけ綺麗なら、とっくに上官や同僚に犯されていると思った。
「私がビッチに見えるの!?」
「いや、君がどうこうじゃなくて、よく貞操を守れたね」
「押し倒そうとした奴はみんな玉を潰してやったわ」
「わぁお」
痛そうだ。
しかしずいぶんと気の強い子だな。
ラクークは軍事独裁政権だから、上官に刃向かうのは命がけという話だったのだが。
まぁ、ニア共和国で聞いた話だから、実際とは少し違うのかもしれない。
それに魔法使いだし、簡単には殺せないか。
敵の魔法使いを捕らえるなんて、報告したらまた僕の株が上がる。
でもしない。
僕は本当に、戦車の話がしたいのだ。
戦車が好きだ、と言ったこの少女と。
4話は明日の18時に更新します。