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シオンの棺 ~魔導戦車に敵国の美少女を監禁した~  作者: 葉月双


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4撃目 休息という名の虐待


「二度とビッチなんて呼ばないで」

「じゃあ名前教えて。じゃないと僕はずっと君をビッチと呼ぶ。君が泣こうが叫ぼうが、僕の玉を潰そうが、永遠にそう呼び続ける」

「あなた、たいがい頭おかしいんじゃないの?」

「自覚してるさ。名前は?」

「……コトハよ。コトハ・シーリナ」


 女性パイロットは何かを諦めたように、溜息混じりで言った。


「よろしくコトハ。僕のことは気軽にロゼと呼んでくれ」


 僕は本当に気楽な感じで言ったのだが、コトハは僕の名を呼ばなかった。



 みんなのところに戻っている間、コトハはほとんど口をきいてくれなかった。

 僕は戦車の話がしたかったので、少し悲しかった。

 僕たちの軍は、すでにラクークの基地を占拠し、広いところに捕虜を集めている最中だった。

 僕は戦車を停めて、ハッチから外に出る。

 コトハに「またあとで」と言ったけれど、返事はなかった。


 自分の小隊が集まっているところまで歩くと、モニカが僕を見つけ、酷く睨みながら早歩きで僕の前にやってきた。

 そして。

 有無を言わさず平手打ち。

 まぁ、僕はモニカの平手打ちを後ろに下がって躱したけれど。

 モニカは驚いたような表情を見せた。


「ふっざけるな貴様!」


 でもすぐに鬼の剣幕でそう叫んだ。

 モニカの声はとっても大きかった。

 だから捕虜たちや、他の兵たちがチラリとモニカに視線を向けた。


「敵逃走車両は撃破しました」


 僕は淡々と報告した。


「そんなことは、どうでもいい! どうして勝手な真似をした!? 前回も、今回も、お前は一両で勝手な行動ばかりだ!」


 戦車は普通、単独では動かない。

 でも僕は単独の方がいい。

 僚車なんていらない。

 連携なんてする気もないし、僚車は邪魔なだけだ。

 どうせ現代戦車の基本戦術はヒット&アウェイ。

 単独でも問題ない。


「いいか! わたしにはお前を拘束する権限がある! 降格させて訓練施設に戻すことだって、できるんだ!」

「すみません。以後、気を付けます」


 とりあえず謝った。

 モニカが面倒なことをするとは思えないけれど、念のため。


「頼むぞロゼ。わたしはあと半年で退役できるんだ。頼むから大人しくしていてくれ」

「分かりました」

「よし。もう行っていい。野営の準備でもしていろ」

「はい」


 僕はイレアナの方に歩いて行った。

 イレアナがずっと僕を見ていたから。

 何か言いたいことでも、あるのかと思った。


「ねぇ、ロゼはどうして隊長を怒らせるの? 趣味か何か?」


 イレアナは少しだけ首を傾げた。


「別に。隊長が勝手に怒るだけ。僕は怒らせようとは思ってないよ。ただ、敵を多く撃破したいだけなのに。てゆーか隊長を怒らせるのが趣味なら、僕はかなり性格が悪いね」


 やれやれ、と僕は首を振った。

 隊長のやる気がないと、部下は大変だ。


「戦車マニアって言うか、ロゼってば戦闘マニアよね」

「戦車そのものも好きだよ、僕は」

「はぁ、うらやましいわね。あたしなんて、さっさと兵役終わって欲しいもの。何事もなく、ね。だから隊長の気持ち、よく分かるなぁ」


 同僚もまたやる気がないのである。

 まぁ、多くの兵は好きで兵隊になったわけじゃないから、仕方ない。


「僕は兵役が終わっても残るよ。ずっとね」


 戦車に乗れなくなる日まで。

 平たく言うと、僕が死ぬ日まで。


「でしょうね。それより、また男どもが敵の女性兵士を見繕ってるの。嫌になるわ」


 イレアナが視線を動かしたので、僕もそっちを見た。

 パウルが他の小隊の連中と楽しそうに捕虜の女性兵士を選んでいる。


「ロゼはやらないわよね?」

「やらないよ」

「おいロゼ! ちょっと来い!」


 パウルの方をずっと見ていたら、パウルと目が合ってしまった。

 僕は溜息を吐く。


「ちょっと行ってくる」


 イレアナに右手を上げてから、小走りでパウルの方に移動した。


「何?」


 僕は面倒臭そうに言った。

 実際、とっても面倒だ。


「おう。この娘とこっちの娘、どっちがいいよ?」


 パウルは座っている女性兵士二人を交互に指さした。


「どっちが可愛いかって意味?」

「お前はどっちとやりたいか、って意味だ。やるだろ?」

「やらないよ、僕は」

「なんだお前? インポか? そういや、前回もやらなかったっけか?」

「うん。あんまり興味ないんだよね」

「おいおい、マジか? 俺がお前の年齢の頃は、女とやることしか頭になかったぜ?」


「はは」パウルの友達らしき奴がケラケラと笑ってから言う。「オレも同じだぜ?」


「別に女の子と寝たくないわけじゃない。ただ、面倒だなと思って」


 僕だって男だ。

 まったく性欲がないわけじゃない。

 でも、初めての相手ぐらいはちゃんと好きな子がいい。

 バカにされるから言わないけれど。


「女とやるのが面倒って、お前もう終わってんな」

「ちげぇねぇ」


 パウルたちがまた笑った。


「いいさ。僕はグラディウスの整備でもしてくるよ。そっちの方が楽しいから」

「砲身に突っ込むのか?」

「そうだよ。パウルも試せよ。気持ちいいから」

「ばっか、てめぇ、パウルさんだろうが」

「はいはい。じゃあパウルさん、僕はこれで」

「おう。夜になったらカードやるぜ。カードはやるだろ?」

「気が向いたらね」


 僕は踵を返して、右手を上げてヒラヒラと振った。

 イレアナの方に戻ると、イレアナはモニカと何か口論しているようだった。

 僕は関わりたくないので、方向を変えようとしたのだが遅かった。


「ロゼからも言ってよ!」


 イレアナが僕を見つけ、大きな声で僕を呼んだ。

 無視するのは可哀想なので、仕方なくイレアナたちに寄って行った。


「何を言えばいい?」

「性的虐待のこと。うんざりよ。クズばっかりじゃないの。どうして取り締まらないんですか隊長」

「みんなストレスが溜まっている。だから基本、黙認だ。わたしはなるべく揉めたくないんだ」

「僕とはさっき揉めたのに?」

「お前は勝手が過ぎる。それに、捕虜への虐待はみんながやっていることだ。それをわたしだけ取り締まったら、パウルがキレるだけだろう?」

「まぁ確かに」


 うちの小隊だけ取り締まっても意味がない。

 まぁ、もっと上から取り締まるよう命令を受ければ、モニカは従うだろうが。


「確かに、じゃないわよバカ」


 イレアナが僕を睨んだ。


「そうは言っても、僕には何もできない」


 事実だ。

 仮に僕が虐待を止めるようみんなに言っても、誰も聞きやしない。

 むしろ、僕が集団でボコられて終わりだ。

 気取ってんじゃねぇぞ、ってな具合に。


 それが分かっているから、イレアナも自分で直接取り締まらないのだ。

 性的虐待のターゲットが捕虜からイレアナに変わる可能性だってある。

 イレアナはいい子だけど、身体を張ってまではいいことをしない。


「とにかく」イレアナがモニカに向き直る。「何か対策してくださいよ隊長。可哀想ですよ」


「わたしにできることなどない」

「小隊長会議で提案するとかどうです?」

「総スカンだな」

「むぅ……」


 イレアナが口を尖らせる。


「お前が隊長になった時に提案しろ。まぁ、何年も先の話だが」


 モニカが肩を竦めた。

 明日、モニカとパウルと僕が死ねばイレアナが隊長だ。

 と思ったが、その時はイレアナが他の隊に編入するだけか。


「話が終わったなら、僕はもう行くよ?」

「待て。お前は捕虜と寝ないのか?」


 なんだよ、どいつもこいつも。


「寝ませんが?」

「男色か?」

「違います。女の子が好きです」

「ふむ。では童貞か?」

「そうですが何か問題でも?」

「いや。聞いただけだ。もう行っていい」

「了解」


 僕は溜息を吐きながら、自分の戦車に向かった。

 移動している最中に、周囲の様子をぼんやり眺めた。

 戦車回収車が、動かなくなった味方の戦車を回収している。

 整備班の連中は壊れた戦車の修理を行っていた。

 戦車乗りと随伴歩兵たちは捕虜の女性兵士を見繕ったり、雑談したり、一時の休息を満喫していた。


 僕も休息は嫌いじゃない。

 落ち着いた時間というのは必要だ。

 次の戦闘のために。

 次の次の戦闘のために。

 死ぬまで戦い続けるために。

このまま10話までは毎日更新でいきます!

18時更新です!

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