9.異世界主人公という人たち
「ソウタ」夜市の道端に腰を下ろして、串焼きを頬張っていたソウタを、通りの向こうからイワオが呼んだ。「お前の方、どやってん」
「まあ、聞かなアカンことは聞けたんちゃうか。気難しい人やったわ」
「ほんま? 俺んとこ、ええ人やったけどなあ」
この街に異世界から流れ着いた人というのは、ハロワのお姉さんが把握している限りでも10人くらいいるそうだ。ただし、それぞれの事情によって、新天地を求めて旅に出たり、他所の国のお抱えになったりということもあり、この街に留まっていることが確認出来るのは3人だけだった。
彼らは日中、手分けしてその人たちを探し、話を聞くことにしていた。
ソウタは、昼過ぎにその日本人と会った時の苦々しい気分を思い出して眉間にしわを寄せた。
「結構、下手に出ていったんやけどな。『色々教えたって下さい』言うて。なんて言うたと思う?」
イワオは少し考えて、答えた。
「『僕に何のメリットが?』」
「お前、エスパーなん? 当てんなや。なんかスキル覚えてもうてんちゃうか?」
「うわ、マジで? 当ててもうたん? そんなこまっしゃくれたヤツいそうやなと思ただけやねんけど」
「一字一句、原文ママやわ。どないなっとんねん」
「いやしかし、ようそこから話聞けたな。保険の営業とか向いてんちゃうん」
「保険は知らんけど、警戒心が半端やないねん。あとでよくよく話聞いてみたらな、前の世界ではいじめられっ子やったらしいねん。他人のことが信じられへんねんな」
「うわ、可哀想やわあ。こまっしゃくれとか言うたん申し訳ないわ。あれ無いことな」
「せやから、『闇の力』的なヤツを持ってんねん。鎧も服も全部黒やったしな」
「カッコええやんけ」
「女の子3人くらい仲間にしとったで。猫耳の子と、エルフと、普通の人間の子やな。他にもおるかもせえへんけど」
「黒流行っとんか。武器どないやった?」
「剣やったわ」
「やっぱり、そやねんな」
「いや、格好ばっかちゃうわ。ちゃんと強いねん。あの人やったら槍でもモテはるわ。『力』のこと『ATK』て言わはんねん」
「うわ、カッコええなあ。『コミット』とか『エビデンス』みたいなことなん? 意味知らんけど」
「ほいでな、ステータスは基本秘密にしとった方がええらしいで。俺は全部言うてもうたけど。その人も、全部は教えてくれはらへんかったけど、『ATK』だけでも300以上あるらしいで」
「エグっ。『力』だけでもお前の5倍くらいあるやん」
「『ATK』な」
「カブれてもうてるやん。ほいで、スキルもあんねやろ」
「せやねん。詳しくは分かれへんねんけど、『闇の力』的なのがあるらしねん」
「ええなあ……」イワオは大きな身体が小さく見えるほど、力なく呟いた。
「お前の方はどやってん」とソウタは聞いた。
「ああ、おじさんやってんけどな、元々、いわゆる『社畜』いうやつやってんて」
「ああ、それもよく聞くパターンやな。大人は大変や」
「ホンマやで。終電間に合わへんいうて、会社に泊まり込みとかザラやて」
「怖っ。ほいで、その人今何してんねん」
「魔法の力で農業してはんねん。栄養のあるええ土を魔法で作んねんて」
「スローライフいうやつやな」
「せや。その人が言うには、この星の地面にも、魔力が流れてんねんて。ほいで、その人はそういう魔力の流れが見えるスキルを持ってはるらしいねん。それで、魔力の流れのええ土地を買うて、そこで野菜育てたったら、ごっつええ野菜が出来んねんて」
「その人、こっちの世界来れて良かったやんな。めっちゃ充実してはんのちゃう」
「せやな。しかもその人、『魔力』がエグいねん。地面に魔力の流れとる土地やから、魔物もそれなりに強いのが出るらしいねんけど、全部魔法で一撃やて」
「戦っても強いんか。ええなあ……」
「せやからな、結局強いねん。冒険者として生きていくんやなくても、どの道なんか持ってへんとアカンねんな」
「そう考えたら、俺らは元々半端モンやから、こうやねんな」
「それはあると思うわ。多分、『イジメてきよった奴らを見返したい』とか、『誰も知らん土地でのんびり生きたい』とかいう望みが強い分、強力なステータスとかスキルになんねんな。俺らあんまそういうの無いやん」
「モテたい気持ちは人一倍やと思うねんけどな」
「それはみんなモテたいねん。自分で人一倍やと思てても、結局人並みやねん」
「まあ、1倍やったら同じやしな」
「せやわ。『人一倍』て言葉なんやねん」
2人が話していると、そこに通りかかった人物に声を掛けられた。
「もしかして、最近こっちに来たっていう……」
二十代半ばの男である。髪や肌の色を見れば、一目で日本人だと知れた。
「あ、異世界から来はった人ですか?」とソウタは尋ねた。この街に残っているという転移者の最後の一人だ。
「そうそう。やっぱり。転職神殿の子が、『話し方にクセがある』って言ってたから、方言のことだと思ってたんだ」
「ええ? 標準語ですやん」ソウタが軽くおどけて見せると、男は笑った。
「なんで、声かけてくれはったんですか?」とイワオが聞いた。イワオの会った転移者も、人当たりの良い人物ではあったが、同じ世界から来た人間に会うことには積極的ではなかった。
「いや、同じ世界から来た人を探してるって聞いてさ。気になったんだ。そういう人って、多分珍しいから」
なるほど、とイワオは肯いた。いじめられっ子だったり、社畜だったり、あまり前の世界に良い思い出の無い人が多い印象だ。
「お兄さんは……」とソウタが言うと、男は「ササキ」と名乗った。
「ササキさんは、前は何してはったんですか?」
「ニートだよ。クソニート。パターンでしょ?」
「ええ? それにしては明るいっすね」
「こっち来て、人に認められることも多くなると、自然にね」
「やっぱ、チートスキル持ちっすか?」
「まあ、あるよね。成長スキル」
これも『異世界もの』の類型の一つだ。ステータスがもの凄い早さで成長するスキルである。
「うわ、ええなあ……」
「君たちだって、何かしらあるんじゃない?」
「いや、俺ら2人、無いんすよ。スキル何も」
「じゃあ、きっと、君ら2人はそんなのなくても、それなりにやっていけるってことだよ」と男は言った。「俺からすれば、そっちの方が羨ましい。俺はこのスキルで力を見せつけて、やっと人から認められたからね」
ソウタとイワオの目には、その寂しげな笑顔が、示唆に富んだもののように見えた。
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