10.ダンジョンへ
「俺ら、これでもまだツイとった方やと思うで」とソウタは言った。
「何が?」
「これが魔族とゴリゴリに戦争しとるような世界やったら、俺ら即死やったで」
「ああ、せやな。魔物狩りに行ってもええし、なんなら薬草拾うだけでも小銭稼げるような世界やったから、なんとかやっていけてんねんな」
昨日、他の転移者と話した2人は、そこで得た情報を元に、レベルを上げるため、ダンジョンの討伐任務に赴いていた。
この世界には、地底深くに延々と魔物を産み続けるダンジョンコアなる物質が存在し、複雑な構造を持ったダンジョンを通して地上に繋がっている。
彼らの任務は、その上層で、低級の魔物を駆除することだった。より深部へ潜っていく高位冒険者たちが、その道中をより快適に進んでいくための露払いである。
ソウタは槍を下取りに出し、代わりに剣を購入していた。
これも昨日、他の転移者から聞いた情報を元に考えたパラメータ上昇の策である。
ステータスは、ジョブによって伸びやすいものとそうでないものがある。『戦士』のジョブは、『力』と『防御』が伸びやすく、『白魔道士』は『魔力』と『知性』が伸びやすい。
しかし、一方で、実際のパラメータ上昇は、行動の履歴に依存する。つまり、回避行動を多くとれば、回避のステータスが上昇するし、近接攻撃を繰り返せば『力』のステータスが上昇する。
これまでソウタは比較的高い『技量』を活かして、遠隔物理攻撃に比重を置いた戦略を取っており、この戦略を得意とする同レベルのジョブ『斥候』や『射手』よりも高い攻撃力と相まって、一定の効果を上げていたが、成長性の面で見ると、本来伸びやすい『力』の成長機会が乏しく、伸びにくい『技量』を微増させ続けることとなっていた。
そのため、戦略を見直し、安全策として、弓矢である程度敵の体力を削りつつも、高い『回避』を活かした近接物理攻撃を主力とする戦略にシフトすることにした。
一方、イワオは、これまでと同じく近接で戦い、攻撃手段としての『力』の微増を維持しつつ、ソウタを前線に出すことで回復魔法の使用機会を増やすこととなった。
「お前、ホンマ、すぐ回復してな。ちょっとでも怪我したら言うから。ホンマ、すぐな」
「ビビり過ぎやて」イワオは腰に提げたランタンの光量を調節し、周囲を見渡した。
人の気配に驚いた蝙蝠が、ばたばたと羽音を立てて飛んだ。
「アカン!」
「ただのコウモリや。こないだウサギでやってもうたやん」とイワオがソウタを宥めると、その中の数匹が、こちらに羽を翻して飛びかかった。
「ちゃうわ! これ魔物や!」ソウタは当てずっぽうに剣を抜いて振り回す。
イワオも「うわっ!」と声を上げて、以前狼男(正確にはウェアウルフというらしい)から奪った鉈を振る。
なるほど、近付いて見ると、ただの蝙蝠にしては随分大きかった。ソウタの剣に翼を裂かれた一匹が、地べたに落ちる。
魔物と動物の有意な違いはこの後だ。蝙蝠は沸騰するように泡立って、やがてタールのようにドロドロと地面に消えた。その後に、親指ほどの大きさの石が残る。
しかし、これを拾う間もなく、蝙蝠は彼らを囲んで噛み付いた。
「いだだっ! クソっ! イワオ! 回復して!」
「やっつけてからや。齧ったヤツを捕まえればすぐやで」
「齧られんのが嫌やねん! 変な病気とか持ってんちゃうか?」
「時折見せるその衛生観念は何やねん! 邪魔や! しゃあないやんけ! 腹括れ!」
「クソっ! もう!」ソウタは苛立ちながら、二匹、三匹とコウモリを落とす。「何やねん! 気色悪いわ!」
辺りに蝙蝠が見えなくなると、二人は手頃な岩に腰掛けて、水筒の水で傷口を洗い、イワオの魔法で回復を待った。幸い、小さな牙で噛まれただけの傷は、程なくして跡形もなく消え去った。
それから、地面に転がった石を拾う。魔物を倒したという証拠である。
そこに、ダンジョンの入り口の方から、複数の足音が聞こえた。
甲冑と腰に提げた剣の鞘がぶつかる金属音や、長いローブが擦れる音、杖が地面を打つ乾いた音が、湿った洞窟の中に響く。
「やあ、お疲れ様」
声を掛けられた方に顔を向けると、楽器のような光沢を放つ弓を担いだ斥候と、見るからに値打ちのしそうな甲冑に身を固めた戦士、白い絹のローブを着たエルフの魔法使いといった一団が、会釈をしたソウタとイワオを一瞥して通り過ぎて行った。
高位冒険者という人たちだ。
「見た?」その人たちと十分に距離が離れた頃合いを見計らって、ソウタは言った。
「そら見るやろ」
「エルフの女の人おったやん。やっぱ、綺麗やんな」
「気い悪ない? めちゃ上から『お疲れ』言いよるやん。それも、最初に通った斥候の人だけやで。他のヤツは何も言いよらんやん」
「いや、俺ら底辺やんけ。しゃあないわ。でも、悔しいな」
「ホンマやで。あのエルフの女、コケて白い服汚したったらええねん」
「妬み方がショボいで。早よ強ならな」
「せやな。こんなコウモリでぴいぴい言いよる場合やあれへんで」
「もうちょい、奥進もか」
「せやな」
2人は、暗い洞窟の奥へと進んで行った。そしてすぐまた蝙蝠に噛まれ、今日のところは帰った。
ここまでお読み頂き有難う御座います。
お陰様で丁度10話まで掲載することが出来ました。
内容が内容だけに、何の苦労もありませんでしたが。
この節目に、感想やコメントとなどを書いて行かれてはいかがでしょうか。
宜しくお願い致します。




