8.この段になって初めて真面目にステータスを吟味する
「俺、急に緊張してきてんけど」ソウタは言った。
「急にやあれへんわ。お前今日一日ずっとソワソワしてんで。立ったり座ったり」
彼らは転職神殿からの紹介で、明日、同じように異世界から転移して来たという冒険者に会いに行くことになっていた。
この世界のシステムや、実践的な立ち回り、あるいはスキルやジョブ、ステータスといった要素の捉え方や伸ばし方などについて、そろそろちゃんと理解しようということになったわけだ。
2人はテーブルを挟んで向かい合い、ステータスを開いていた。人から助言を乞うのに、自分のステータスやスキルもきちんと把握していないようでは失礼だろうと考えたためである。
「お前、どやねん」とソウタが尋ねる。
「いや、結構伸びてんちゃう? レベルが20なってるわ。来た時16やったやろ」
「勝ったわ。俺23や」
「ほんま? お前、結構討伐行っとったからなあ」
「せやな。やっぱ討伐行かなアカンわ。採集やったらレベル上がらへんねん」
「草とか石とか拾てるだけやからな」
2人は自身のステータスを紙に書き出した。
タカマツ ソウタ Lv.23
【戦士Lv.5】
力 :65
技量:80
防御:46
回避:88
魔力:15
知力:51
ゴズ イワオ Lv.20
【白魔道士Lv.3】
力 :96
技量:11
防御:67
回避:13
魔力:63
知力:50
「イワオお前、これもう、魔道士ちゃうやん」
「俺も思った」
「そもそも、『牛頭巌、白魔道士』て語感エグ過ぎんねん」
「それは俺に言うてもしゃあないやん。ていうか、お前のバランスええな」
「いやけど、やっぱ『力』弱いの気になるわ。お前が叩き出しよるから余計にやん。しかも俺、防御低すぎんちゃうん。これ、回避失敗したらどないなんねん。アカン、めっちゃ怖なってきた」
「それで言うたら、俺の回避エグない? こんなん、1回も避けられへんで」
「もう、お前はそういうスタイルやねん。回復する壁や」
「俺、こないだ狼男に噛まれた時思てんけど、やっぱそれ嫌やねん。めっちゃ痛いで。回復出来るとかいう問題ちゃうねん。俺が痛いことはなんにも解決してへんねん」
「それこそ、俺に言うてもしゃあないわ。多分やけど、純粋に白魔道士として後衛やってくには『魔力』足らんのんちゃう?」
「『魔力』より『力』の方が強いからな。後ろおったら、『お前、こんなとこで何してんねん』てなるやろな」
「後ろ行きたいんやったら、『魔力』と『白魔道士』のジョブレベル上げなあかんやろな」
「それ上げたとしても、お前と組んどったら、どっちも前行きたがらへんから、結局横並びやん。ていうか、俺ら冒険者として消極的過ぎんちゃう?」
「それやねん。一番の問題はやる気や。『やる気』てステータスあったら、2人とも一桁ちゃうか?」
「そうか? お前、頑張ってるやろ。スタイルの問題ちゃうか?」
「それはあるわな。なんか、人間性とジョブが合うてへん気いするわ」
「それはもう、運やろな。白魔道士て」
というようなやり取りをしながら、ステータス画面のスキルのページを開く。ステータスの下の方にタブがあり、そこをタップすると、スキル画面に切り替わるような仕様になっていた。
タカマツ ソウタ
【基本スキル】
なし
【個別スキル】
なし
ゴズ イワオ
【基本スキル】
なし
【個別スキル】
なし
「いや『なし』て!」2人は声を揃えて叫んだ。
「正直ステータスは微妙やけど強力なスキルがあるからそれ使て結局無双ちゃうんか! 今までのくだりはその前フリやろ!」
「いや、これ今までの流れからいうて、頓珍漢なスキルついてて『これ何に使うねん』いうところやろ」
「どっちにせよ『なし』て!」とまた改めて声をそろえる。
「アカン、もう『バチーン!』いったろかな」ソウタは椅子を倒して立ち上がる。
「誰にやねん」
「いや、これおさまれへんわ。ほんま」
「けど、俺らも俺らやで。『今?』いう話やん。なんで俺ら、これ見てへんかったんやろな」
「うぅん。俺らのこういう所がアカンねや。真剣味が足らんねんな。『真剣味』いうステータスがあったら一桁やで」
「使い回しやめろや」
「いや、『テンドン』言うねんで」
「それや。そういうところやで。すぐちょけるやん」
「いや、でも、これはショックやわぁ……スキル一個もないねんで」ソウタが呟いた。
「俺も正直、ちょっと期待してもうてたやんな。一見ネタやねんけど、工夫次第では使えるみたいな」
「ああ……例えば?」
「せやな……『任意の物をマシュマロに変えるスキル』とか。『何に使うねん』て思うやん。戦ってる最中に、敵の足元をマシュマロに変えて、『ふぁっふ』ってコカすねん。そこを袋叩きや。敵の武器とかもマシュマロに変えれるねん。『アカン、躱されへん』と思っても、『ふぁっふ』てなってノーダメやねん」
「お前、いきなり謎のセンス発揮すなや。コミカルさと実用性のバランスが絶妙やわ」
「せやろ。お前は?」
「俺、あれがええねんな。魔物仲間にするヤツ」
「アカンな」
「なんでやねん。ええやんけ。戦闘手伝うてくれんねんで。なんやったら掃除とか、洗濯とかもや。ちゃんと手懐けたら、何でもしてくれんねんで」
「アカンわ。餌代どないすんねん。ローンかてあるのに、動物飼われへんわ。お前、散歩とかせえへんやろ」
「するわ。トイレもちゃんと躾けるっちゅうねん」
「嘘吐けお前。小学校の朝顔枯らすタイプやろ」
「大丈夫やて。朝顔はアカンかったけど、魔物やったらイケるっちゅうねん」
「朝顔アカン奴、魔物アカンわ」
「まあ、どっちにせぇ、そないスキルないねんけどなぁ……」ソウタは椅子にもたれかかって、天井に向かってため息を吐いた。
その晩、彼らは呼吸の三分の一程度を、ため息に費やした。
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