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79.「カチッ」と鳴るまで押し込む

「魔王陛下に連絡、『ただ今より、敵部隊からの標定を阻止するため、通信障壁を展開する』の旨伝達せよ」


 教官がそう指示すると、ソウタは魔王より預った魔法の万年筆でその旨をしたためた。


──「通信障壁展開の旨、承知した」──と魔王から通信魔法で連絡が入り、その後フィオルディリージの魔法をもって、彼ら『別班』は外部の通信から遮断された。


 通信障壁の展開が確認されると、教官は班員に「注目」の号令を出した。


「我々の任務は、現時点をもって『勇者の捜索及び討伐』から、『勇者と魔王の交渉の仲介』となった。ただし、相手がそれにやすやすと応じる可能性は低い。

 奴らが何を考えて徒党を組んでいるのか定かでないが、明確な意志を持っていることだけは確かだ。勇者は俺の初太刀を止めた。殺す気でかかった俺の初太刀をだ。舐めてかかればこちらに死人が出る。

 従って、接触の時点をもって攻撃を許可する。俺も殺す気でかかる。勇者が生き残るか否かは運任せになるが、最初から殺す気もなく捕らえられる相手ではない」


 教官の言うことの意味は、つまり明確な殺意をもってことにあたるということである。それも、魔王の承諾を待たずに。そのようにした結果、相手を殺さずに無力化出来ればそれは運が良かったということだ。


 ソウタとイワオは、他の誰にも見咎められぬよう、目を合わせた。






 その夜、この世の終わりを思わせるような、強烈なスコールが吹き荒れた。魔界に雨季が訪れたのである。


 炸裂した榴弾のような雨が叩きつけられる密林の中を駆け抜けながら、「お前、考えとること俺と一緒か?」とイワオは尋ねた。


「いや、知らんやん。お前が何考えとるか聞いてへんし」


「嘘やん。目ぇ合わして何となく通じ合っとる感じ出しとったやん」


「出してへんわ。何乙女モード炸裂さしとんねん。怖っ」ソウタは顔をしかめる。


 イワオは絶えず口に入り込む雨粒を、茂みに吐き捨てた。


「俺らが先に勇者見つけたらへんかったら、殺し合いやで」烈々と降り注ぐ雨が彼らの足音と声を覆い隠す中、2人は手頃な窪地に身を屈めた。


「ああ、いやホンマあかんわ。シリアスほんま向かんねん」


「魔王出てきて、一瞬殺し合いは回避かと思ったけど、教官が俄然やる気やからな」


「殺伐とした世界で生きてきた人やからな。あの人の経験から言うたら、先に()らな、殺られるってことやろ。けど、俺らもこっちの世界で散々ヤバい目遭いながら、なんやかんやで基本まったりやって来てんねやんか。いきなりガチの殺し合いみたいなん、ホンマ勘弁やわ」


「それやねん。俺思ってんけどな、俺らて何事も成り行きやねんか。学校も、お前に彼女作るいうてフワッと来ただけやし。

 言うてこれ、俺らがここで止めたらへんかったら、マジで誰か死によるで。いよいよ本気出す時来たんちゃうか?」


「今まで手ぇ抜いとったみたいに言いなや」


「いや、別に余裕こいとったワケちゃうけど、言うて、せやったらホンマに限界までやったか? いう話やねん」


「まあ確かに、ほとんど成り行きでやらされとっただけやな」


 ソウタが思い返すように言うと、イワオは不意に真剣な目付きでソウタを見据えた。


「それがここに来て、人間と殺し合いや。『そういう世界やからしゃあない』とかいう話とちゃうやん。

 世界の仕組みがどうとか、価値観がどうとか、関係あれへんねん。俺たち自身が、どうしたいんか、自分で決めなアカン時や。『やれやれ系主人公』やっとる場合ちゃうで。サブいねん。俺たちは、当事者や。俺はな、殺すのも殺されんのも御免やねん。俺もそうやし、仲間もや。お前はどないやねん」


「そんなもん、決まっとるがな。最初っから、俺が考えとることはお前と一緒や。教官の話聞いとった時から、目ぇ合わしとったやん」


「お前、全然話通じとらへんかったやんけ」


「何にしても、今までみたいに、『こんなんなったら、もうしゃあないわ』みたいに手ぇ引っ込められる局面とちゃうで。絶対仲間を殺させへんし、仲間にも人を殺させへん。

 俺な、小ちゃい頃、ちょっと難しめのプラモ作ってんけど……」


 ソウタが急に話題を変えるので、イワオは慌てて遮った。「いや、何の話やねん。唐突過ぎるやろ」


 ソウタは構わず続けた。「ガンダムかなんかのロボや。大方部品組み終わって、いよいよ脚つないだったら完成や、いう段になって、脚が入れへんねん。どっかでやり方間違えてもうたんかて思うやん。けど、細かい部品一生懸命くっつけて、やっと完成っちゅう時にやで、もうウンザリしてもうて」


「やり直せへんかったん?」


「もう、嫌んなって、やめてもうてん。けどな、何となく取っといててんやろな。何年か経って、ちょっと大きなった頃、おもちゃ箱かなんかからそれボロッと出てきよって、試しに脚もう一回グイっと押し込んだったらな、カチッとハマりよってん。何のことはない、押し込みが足らんかっただけやねん」


「いや、せやから何の話やねんて」


「お前、何か『やりきった!』て思うことある?」


「いや、別に無いけど」


「俺もや。スポーツやるにしても、何やるにしても、『まぁ、こんなもんやろ』てとこでやめてまうねん。俺思ってんけどな、それは押し込みが足らんかっただけなんちゃうか?

『カチッ』と鳴るまで押し込めば、何か違う未来があったんちゃうか?」


「例えが分かりにくいねん」と文句を垂れつつ、イワオは頷いた。戦斧を担ぎ、茂みから腰を上げる。親の仇のように降りしきる雨に打たれて、衣服は重くまとわりついた。「そのしょうもない話に教訓があるとすれば、押し込むのは後からでも遅くはないいうことやな。しゃあない。今から、『カチッ』と鳴るまで押し込みに行くで」


「そういうことやねん」ソウタは我が意を得たりとイワオを指差した。


「偉そうにすな」



 

明けましておめでとうございます。


本年も宜しくお願いいたします。

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