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7.ヒロインとしての適性について

「ええか、よう聞きや」とイワオは、【冬の魔女】バーバ・ヤーガなる女を嗜めた。「何百年て1人でおって、人とどう接してええか、分からんようなんのはしゃあないわ。魔法使て何でも出来るからて、ちょっと他人に強う出てまうのも分かんねん。

 せやけど、そうやって力で他人に言うこときかそとすんのはアカン。みんな離れて行ってしまいよるやん。また一人ぼっちなってもうたら、寂しいやんけ」


「うん。貴方は、(わらわ)のこと考えて言ってくれてる」


「せやで。俺は、昨日会うたばかりやけど、アンタが優しい人やと分かるねん。人に囲まれて、幸せになって欲しいやん。せやから言うんやで」


「けど、妾、貴方がいれば、他には何も要らない。城も、人も、世界も、全部壊れてもいい」


「シンガーソングライターか……」と思わず漏らして、ソウタは口をつぐんだ。


「妾は世界の全てを引き換えにしても貴方のことを愛し続けるし、貴方もそうあるべきだと思うの」


「アカンで。男と女が一緒にいるだけが幸せちゃうねん。友達だとか、仲間だとか、商売人とお客さんだとか、色んな関わりがあって、その一つ一つに幸せがあるはずや。人間っちゅうのは、人と人との関わりで成り立ってんねん。自分の世界を自分で狭ぁしたらあかんねんで」


「けど、色んな人と出会ったら、貴方は妾のことが邪魔になる……」


「お前、俺をそない小さな男やと思っとんか。友達がおろうと、仲間がおろうと、そこでややこしことがなんぼあろうと、幸せにしたるっちゅうねん。黙って俺に付いて来いや」


「イワオさん……」


「さ、今日はもう帰り。またすぐ会いに行ったるわい」


「うん。分かった。今日は帰る」


 バーバ・ヤーガはそう言って、帰って行った。


「いや、何やこれ!」ドアが閉まるや否や、吐き捨てるようにソウタは叫んだ。「俺は何を見せられてんねん」


「まあ、こんな調子やねん」


「『こんな調子』やあれへんわ。ほいでお前は何を乗りこなしとんねん。ワケ分からんわ。あんなセリフどっから仕入れてくんねん。お前の一連のセリフ全部や。今時、どこのチャンネル回したらあんなコッテコテのセリフ言いよんねん」


「いや、見ての通り、善意には善意で応えようとするとこあるやん。そう見れば可愛いところもあんねん。まあ、行き過ぎるとこが困りもんやねんけど」


「軽い軽い。態度が軽いねん。とんでもないモンスターを野に放ってもうてるやん」


「せやかて、可哀想やろ。1000年一人ぼっちでおってんで」


「アカンで。そういう感情論でお前、世界を危機に晒しよんで」


「大袈裟や。たかが熟女一人森ん中から出て来よってだけで危機に晒されるようやったら、世界の方が問題やがな。何やお前、世界救いに行く感じなん?」


「まあ、そら、異世界来てもうてんねんから、機会が有れば、そらやぶさかでもないやん。

 ていうか、お前やねん。むしろ。どないすんねん。あの魔女、多分お前の老後とかまで考えよんで。もう結婚でもせえへんと収まらんのんちゃう?」


「いやあ、まあ、ちょっと重いねんなあ……」イワオはそう言って頭を掻いたが、口元が緩い。


「その感じやねん。重い女に引っかかってもうたヤレヤレ感に、女から好かれよるドヤっと感が勝ってもうてんねん。少年誌のラブコメかて。いや、最初に出て来よるヒロインが熟女て。何から何まで納得せえへんわ」


「お前、今日ツッコミよんなぁ」


「やかましわ。大体お前16やろ。相手28でもなんぼ年上(ねろ)ていくねんいう話やのに、さらに1000年乗っかってもうてんねん。1000年て。ローマ帝国の勃興を一人で見てもうてるやん。もう、あの女の重さは歴史の重みやで。お前一人でどうともならへんわ」


「大袈裟やて。彼女が歴史動かしとったわけでもなし、生きとる時間が長いだけやん。ドンと来いやっちゅうねん」


「お前、器がガバガバか。ほんで一番腹立つのは、そんなんでもなんやかんや、彼女出来て羨ましい思ってまう自分自身やねん」


「いや、それは知らんやん」


「お前だけずっこいやんけ。元の世界やったら、俺の方がモテとったやん。どないなっとんねん」


「いや、お前槍とか使てるからやろ。槍とか弓とか、モテる気せえへんわ」


「差別はアカンやろ。とんでもないレイシストやな。この世界にツイッターがあったら、お前、世界中の槍ニストに槍玉に挙げられんで。槍だけに」


「さぶっ」


「やかましねん。剣やな。剣やったらモテんねんな。ほなら俺剣使たろやないけ。お前言うたからな」


「いや言うてないやん。お前、武器変えすぎちゃう?」


「しゃあないやん。自分に何が向いとるか分からんもん。そういう年頃やん」


「確かにな。レベル上げるとか、転職するとかいうても、具体的に何目指していったらええか、よう分からんとこあるわ。ハロワで相談するか?」


「どやろな。ハロワのお姉さん、その辺の実践的なところは分からんのんちゃう?」


「あ〜、まあ、せやな。あ、俺らの他に異世界から来よる人おるいうやん。そういう人に会うてみたらどやねん」


「ああ! それやわ。けど、どやって分かるん?」


「それこそハロワやろ。異世界から来る奴は大概ハロワで目え覚ます言うてたやん」


「それやな。俺、これから仕事やさかい、明日行こか」


「せやな」


 そういう調子で、彼らは翌日転職神殿に行くことになった。彼らのやり取りは大体いつもそうだが、1000年の魔女、バーバ・ヤーガにイワオが見初められたという重大な問題は、ほとんどなんの方向性も見出されていなかった。

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