54.ラブコメ大入道
──『攻め』のスパイクアーマーで差をつけろ! 夏の伊達ワル冒険野郎コーデ──
居室の机に広げてあったその雑誌の表紙を眺めて、イワオは困惑気味に顔をしかめた。「どういうこと?」
「こっちのファッション誌やな」とソウタは同じように顔をしかめながら答えた。
こちらの世界にも、こうしたファッション雑誌というのがあるらしい。精巧な絵で、鎧やブーツ、剣や小物などが描かれている。どうやら、冒険者専門のファッション誌のようだ。しかも、どうやらかなり攻めたファッションを提案する部類のものである。
──「獲物の返り血とお前のルージュ、俺は『深紅』の夢しか見ない」、「天使を堕とす男には、漆黒の鎧がよく似合う」──などといった、目も覆うようなキャッチコピーが羅列されている。
「お前、これ買うたん?」
「いや、没収してん」
「何の権限があんねん、お前みたいなもんに」
「いや、これ言うてええんかなあ……」とソウタが言い淀む。
「お前それもう、言う準備出来てる時のやつやん」イワオが苦言を言うと、
「お前、口堅いやんな」とソウタは確認した。
「スペースシャトルの外装の素材に俺の唇の皮使ういうて、NASAから打診来るレベルやわ」
「お前唇の面積どないなっとんねん。無意味に大袈裟な嘘吐くなや」
「いや、そんなんええねん。何やねん」
「モテたいヤツがな、形から入ろうとして、こんなん読んでんねん」
「アカンな。迷走しとんのが一目で分かるわ」
「せやろ? 唯一の救いは、これ参考にする前に俺んとこ相談来たっちゅうことや」
「こないだのファッション談義が効いたんちゃう?」イワオはメグのイメージ戦略について話し合った教場での出来事を思い出した。
「せやな。ほいで、そいつ好きな子おんねんけど、まずお洒落になって気い引こうって考えたらしいねん」
「その考えがまずアカン気するけどな」
「お前も初めてバーバ・ヤーガんとこ行く時、鎧買うてたやんけ」
イワオは不意に急所を突かれたような心持ちがして、言葉に詰まった。「……せやな」
「モテるとか、好きな子の気引くのに、身だしなみを整えようっていうのは、的外れではないやん。あくまで補助的な手段やってだけで」
「まあ、せやな。それにしても、読む雑誌がアカンやん。何やねんこれ。鎧にごっつトゲ付いてるやんけ。サボテンか」
「せやねん。俺らの世界でいうたら、ホスト系とかヴィジュアル系のファッション誌やろ。一番手出したらあかんヤツや」
「キャッチコピーがごっつサブいな。ほいでお前、どないすんねん。週末、メグの服選びに行く約束してんねやろ? 2人は手に余るやろ」
「いや、それが、ソイツの好きな奴って、メグやねん」
イワオは身を乗り出した。「お前そこまで言うたら、もう隠し事なしやで」彼は他人の恋愛事情を聞くのが好きだ。
「いや、せやから確認してんけど、お前ホンマ、口堅いよな」
「次世代の防弾素材として米国防総省から注目を浴びるレベルや」
「もうええて、そういうの。この雑誌に通ずるセンスやで。頼むでホンマ」
「もし俺の口から秘密漏れたら、俺がごっつラブコメ読んどんの言うてええわ」とイワオは自分の秘密を賭けた。
「ホンマやな。お前これ言うたら、その時からお前のあだ名『ラブコメ大入道』やからな」
「おう。ワケ分からんけどそれでええわ。早よ言えや。俺、他人の恋バナ聞くのめっちゃ好きやねん」
「お前それ、似合わな過ぎて目眩すんで。まあ、ほだら言うけど、こないだ、俺らが初めてメグのこと認識した時、『逆に何でこの時期まで黙っててん』て思ったやん。あれな、メグも好きな人出来たからやってん」
「ちょお待てや。もうすでに口ん中『ギュウ』てなってきてんけど」
「まだまだこれからや。ほいでな、メグも好きな人に、せめて存在だけでも気付いて欲しい思って、俺らに相談してきてん。前にフィオとドラベッラの間取り持ったの見て、相談する気になってんて」
「アカン、なんかこっちが恥ずかしなってきてんけど。何やねんアイツ」
「せやろ。ほんで、それとは別にな、今朝俺のとこに、服とかどないしたらええいうて聞いてくる奴おって、この雑誌持って来てん。『お前、こんなん、イメチェンいうより変装やで』て言うてんやんか」
「そらせやわ」
「そもそも、何で急にオシャレに目覚めてんねん言うて、めちゃグイグイ聞いたらな、そいつも好きな子おる言うやん。それがな、メグが好きな奴、そいつやねん」
「ちょお待って。ソイツが好きな子もメグやなかった?」
「せやねん」
「両思いやんけ!」イワオは声を上げた。
「おいコラ、ラブコメ大入道」
「何でやねん。まだみんなに言うてないやんけ」
「声デカいねん」
「言うて、そこまで行ったらもう、遅かれ早かれやん」
「信用の問題や。ちゃんとお互い段取り踏むまで、勝手に言いふらすべきやないやろ」
「まず言うてんのお前やけどな」
「正直気持ちが昂って、自分の中で抑えきれへんねん。同じ部屋にずっとおって、俺だけワケも分からんとニヤニヤしとったらどないする?」
「まあ、それはキモいけどな。ほんだらあれか、週末は、ソイツらにデートさすってことか?」
「せやねん。相手にどんな服着て欲しいか、当事者同士で教え合ったらええやんけ。ちょっと急用出来てもうて行かれへんとか言うて、その2人カチ合わすねん。『モテるファッションは異性に聞け、俺やなくてもええねん』くらいに言うて」
「お前、恋愛界の黒田官兵衛か」
「その彦摩呂みたいな言い回し、何とかならんの?」
「ええねんそんなん。それで、男の方は誰やねん」イワオが前のめりに問いただした時、不意にドアが鳴った。
ソウタが戸を開けると、その陰から現れたのはピッポだった。
「服を買いに行く時に着る服が無いんじゃが」とピッポは言った。
「お前かコラ!」とイワオは声を上げた。
「おいコラ、ラブコメ大入道」ソウタはイワオをいさめた。




