48. Lights out! “Guerrilla radio”!
「俺、こっち来る前、ちょっとええ感じなった女子高の子と2人でカラオケ行ってんけどやあ……」
ソウタの急な話題提示にイワオは顔をしかめた。「何の話やねん」
「ごっつ育ちええ感じやってん」ソウタは構わず続ける。
「女の子が?」
「そう。2人でカラオケやで。これ、もうイケるやろって思うねやんか」
「まあ、80%やな。相手がお嬢さまいうとこが懸念材料やけど。それ踏まえても70%固いわ」
「1曲目何歌ったと思う?」
「お前が?」
「いや、相手」
「お前、急にクイズ出してくなや」
「ええから」
「いや、知らんやん」
「ジャンルを当てたら正解とするわ」
「『ルールを作る側』特有の傲慢さ出てもうてんでお前。まあ、ええわ……せやな、普通のラブソングとか、アイドル系やったらわざわざ問題にせえへんやろし……『お嬢さま』というところがヒントやから、『オペラ』と見せかけて……」
「お前、ゴリゴリに出題者の意図読んでくるやん」
「『デス・メタル』や」
「惜しい! 正解は、『オルタナティブ・メタル』や」
「ウザっ! 何がちゃうねん。一緒やろ。大体俺、『オルタナ系』とか『ロキノン系』とかいう言葉嫌いやねん。それ言うヤツ大体イキっとるやろ。何を詳しぶっとんねん」
「いやいや、狙い過ぎたな。『ヘヴィ・メタル』やったら正解にしとったんやけどな。『デス・メタル』はヘヴィメタから派生したサブ・ジャンルやから、そこまで言うねやったらビタリいかなあかん。今回の正解は『ラップ・メタル』とか『ミクスチャー』とも取れるし、意外に正解の幅広かってんけどなぁ……ここ外してもうたか。残念!」
「もうええわ。結局何歌ってん」
「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの『ゲリラ・レディオ』」
「ごっつカッコええやんけ」
「社会への抗議をバチバチに叫んできよんねん。『Fuckin’』の『F』の発音でマイク『ボッ!』いうてもうてたからな」
「ええ子でおる毎日に不満溜まっとったんやろ」
「後で歌詞見てんけど、和訳したら『第3次世界大戦勃発や!』て歌い出しやったわ」
「ラディカルやな。ほんでこれ、トータル何の話やねん」
「パミーナちゃんの魔法見た時の衝撃、コレに近いなっちゅう話やねん」
「連想の道のり長過ぎんねん」
荒れ果てた城の1階、廊下の最奥である。彼らが背にする扉の先に、上階への階段がある。ソウタとイワオの役割は、この階段を死守することだった。
所々苔むした切石積みの壁は、夏だというのに執念深く底冷えして、内壁の割れた漆喰の向こうから、風化して欠け落ちたブロックの間を縫って入り込む湿った暖気がなければ、震えのくるような寒さである。
一方で、城内は、せめて準備の間だけでも役に立とうというパミーナの魔法で、天井全体が発光し、今は目に痛いほど明るく照らされている。
彼らの前には、屈曲した長い廊下があり、『アイテム士』ピッポの設置した、有刺鉄線を幾重にも張り巡らせた堅牢な鉄条網が設けられた。
────辺境守備隊の預かるB城砦を魔物一個大隊が包囲。常備兵出撃中につき、防御分隊+をもって、城内に侵入する先遣の一個分隊を撃破せよ────
もちろん、細かな条件やディテールの設定はあったが、彼ら同期に課された課題は概ね上記のようなものだった。
つまり、1回戦を勝ち上がった上級生を、侵入する魔物に見立てた籠城戦である。
第1回戦はほとんどパミーナ一人で勝利してしまったために、2人は腹の底に重々しいフラストレーションを抱えていたが、今回は拠点防衛が任務である以上、範囲内のものを見境なく破壊するパミーナの魔法を使うことが出来なかった。
「フィガロも頭抱えとったで。俺らで上級生に対抗出来る要素いうたらパミーナちゃんの出力くらいしか無いんちゃうか言うて」イワオは作戦を立てるフィガロを思い出しながら言った。
「フィガロはあいつ、ホンマ、他力本願やからな」
「それでも上手く人動かして結果出しよんねやから大したもんやんけ」
イワオの言葉に、ソウタは低く唸って頷いた。1回戦の作戦を立案したフィガロの功績は相当なものと見るべきだし、この2回戦、同期たちが短い時間で罠や障害を積極的に仕掛けたのも、それに触発されてのことだろう。
「せやな。同期見てて思ってんけど、俺ら、大して強くもないくせに、戦い方がシンプル過ぎなんちゃうか? 工夫に欠けるわ。フィガロもピッポもフィオも、直接戦ったら強ない代わりに『捻り』があるやん。俺らに足らんのはそういう『捻り』やと思うねん」
「俺らの売りは『粘り強さ』やろ」
「あかんわ。そんなん、通信簿のコメント欄に書くことあれへんいうて、先生がやむなしに褒める時の常套句やん」
「言うて、無理に奇をてらうのも、なんかちゃうやん。フィガロも言うてたけど、同期がみんなあんな感じやから、逆に俺らみたいのが重宝すんねんて」
「まあ、それはあるやろけどなあ」ソウタが苦々しく眉を寄せた時、『状況開始』の号令と、城正面の硬い扉を破ろうとする破城槌の、腹を震わす轟音とが、ほとんど同時に響き渡った。
フィオルディリージの通信魔法を介して、フィガロの声がする。
「イワオ、ソウタ、片目を瞑って闇に慣らしておけ。お前らがどれだけ敵を削れるかが勝負だ。頼んだぞ」
ソウタは弓に矢をつがえる。鉄条網に引っかかった敵を射る作戦である。
イワオとソウタの2人は、1階で敵を足止めしつつ減殺する第1のバリケードだ。
「任しとけ。ここで全員いてもうたるわ」とイワオが応えた。
城の入り口から、鉄条網に仕掛けられた罠や障害に苦戦する上級生たちの苛立った声が響く。
考えようによっては、直接的な攻撃手段が少ない代わりに、個性的な特殊技能を多く持つ彼ら同期にとって、この廃城での籠城戦は有利なフィールドとも言えた。
イワオとソウタが抜かれたとしても、城のあちこちに隠れた同期たちが、ゲリラ戦略を展開する段取りになっている。
廊下に爆音が響いた。敵の引っ掛けた罠線で、ピッポの仕掛けた『雷砲』が、炸裂したのだ。
それを合図に、ソウタは叫ぶ。
「明かりを消せ!『ゲリラ・レディオ』の時間や!」




