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37.異世界スイーツプロジェクト発足会議

 彼らの住む寮舎は東西に長い6階建の建物で、イワオ、ソウタたちの同期は、最上階の6階を充てがわれている。


 居室、風呂場、トイレこそ男女別ではあるが、同じ階に同じ年頃の男女が共同で生活しており、「いつ『ラッキースケベ』が起きてもおかしくない『一触即発』やんけ!」とソウタも始めは期待したが、実際のところ普通に気を付けて生活をしていれば、そういったことは起こらなかった。


 建物の東西と中央にそれぞれ階段があり、中央階段を昇って左手には『娯楽室』なる大部屋がある。


「これで『娯楽室』を名乗るのは流石におこがましいで」とソウタは顔をしかめた。


 3人掛けのソファが向かい合って2つ、その間にテーブルがあり、その横には黒板がある以外には何もない。この世界にテレビやラジオは期待しないにせよ、この世界なりの娯楽を何か提供しようという姿勢があってもいいのではないか。


「吉幾三も裸足で逃げ出すで」とイワオもうなずく。


 ソファには、中身はさておき流石エルフと言うべき長身で大人びた容姿のフィオルディリージとドラベッラ、その向かいに、ヒュムにしても背の低いパミーナとフィガロ、さらにぽっちゃり短躯のピッポが並んでいるのは、妙に対比が効いて滑稽だった。


 黒板には『異世界スイーツプロジェクト発足会議』と大きく記してある。


 当初、先日の戦闘訓練でこっぴどくこき下ろされたパミーナを励まそうという思いから生まれたこの企画は、様々な理由から、同期を広く巻き込んで進めていこうという話になった。


 一つには、「思てんけど、サプライズってサブない?」ということである。ソウタはこれを力説した。「あんなん、やられた方も気い使て愛想笑いするから気付かんだけで、8割方スベっとんねん。自作のラブソングよりちょいマシくらいやで。後で女子会のネタにされんのがオチや」


 これにはイワオも納得した。「よう考えたら、『パミーナちゃんのために』ってスタンスがそもそも押し付けがましいわ。『俺らの世界の美味いもんをみんなで食おう』って趣旨でええやんな」


 もう一つには物理的な問題である。ケーキを焼くための(かま)の製作をピッポに依頼し、ドワーフには珍しく筋金入りの甘党であるという彼はそれを快諾したが、実際に窯を造るにあたっては、材料の運搬や製作そのものに人手を要する。


 また、ケーキそのものの材料の確保も、この界隈の作物や流通について無知な彼らにとっては大きな問題だった。


「訓練で疲れとるとこ、集まってくれてありがとう」とソウタは前置きを置いた。「声かけさしてもうた時に、一人一人には言うてんけど、俺たちが元々おった世界には美味いもんがたくさんあって、特に甘いもんはここよりずっと充実しててん。そういうのみんなに食うてもうたらええんちゃうかいうて。

 ところが、実際やろうと思ったらこれが結構大変やいうことで、みんなにも手伝ってもらえへんやろかいう話やねん」


「ウチとフィオは、お前に借りがある。お前らの世界の食い物にも興味あるしな。手伝うよ」とドラベッラが言うと、フィオルディリージも頷いた。


「異世界のスイーツとか、超アガるし」


「私も、お菓子が大好きなので……」パミーナも顔を赤くしながら遠慮がちに言った。


「フィガロは?」とイワオが尋ねると、彼は口元に笑みを浮かべる。


「お前らの世界の美味いモンなんて、作り方覚えれば金になんじゃねえのか? 上手くすりゃ一発当てられるかもしれねえ。俺がソイツでボロ儲けしても、後から文句言わねえって約束なら、手伝ってもいい」


「まあ、そういう考え方もあるな」とソウタが言うと、フィガロは得意げに胸を張った。


「俺ぁ『何でも屋』フィガロだ。こういう話なら役に立つぜ」


 フィガロのジョブである『何でも屋』とは、「戦闘系以外の初級ジョブ複数種を所定のレベルまで上げる」という条件で転職可能となる中級職なのだそうで、その中には『商人』や『農夫』、『調理師』なども含まれる。


「甘いもん作るいうても、まず、焼くための窯が無いことには始まらへん」そう言ってソウタがピッポに視線をやると、ピッポはテーブルに地図を広げた。


「これは、ワシらが毎朝走っとる演習場の地図じゃ」


 窯を作るのはいいとして、ではどこに? というのが当然問題になる。


 もちろん寮を勝手に改築するわけにはいかないし、校舎の側や寮の裏に造ったとしても、すぐに撤去させられるだけならまだしも、教官に見咎められればどんな目にあわされるか知れたものではない。


 そこで、ソウタ、イワオ、ピッポの3人が考えたのは、演習場の藪に隠れた秘密基地を作ることだった。


「おいおいマジかよ、アツいぜ、そういうのはよー!」フィガロは『秘密基地』という言葉に強く反応した。


「そないデカいのは作れんで」とイワオは釘を刺す。


「いんだよ。そういうので。逆に。俺の中の少年のヤツがよー。魂が、アレすんだろが!」


「お前ボキャブラリーどこ行ってもうてんねん。大分興奮しとんな」


「はあ? お前ら子どもの頃やんなかったのかよ。秘密基地。何だそのテンション」


「俺ら都会っ子やから。ほんで、基地と窯の材料やけど……」


「それなら、あーしの空間魔法で運べる。場所だけ決まってれば」とフィオルディリージが名乗り出た。


「おお! 俺らランニングの時ちょっとずつ懐に忍ばせて運ぶつもりやってん。それやったら一気に片付くやん」ソウタは歓声を上げる。


「せやけど、肝心の場所がなあ……」とイワオはピッポの広げた地図を指した。演習場外縁のランニングコース沿いに候補地を点で示している。「見つかれへんような場所に作らなあかんけど、下がデコボコやと釜造られへんいうねん。どっちも満たす場所がなかなか無いねんな」


「それなら……」パミーナが小さく手を挙げた。「重力魔法で、平らに出来るかも……」


「来たでコレ! どんどん解決していくやん!」


「小麦粉、牛乳、玉子は俺に任しとけ。伝手がある」とフィガロが言うと、「砂糖とカカオはウチの親戚から取り寄せられるぜ」とドラベッラが負けじと胸を張る。


「持つべきものは仲間やな」イワオはしみじみと言った。


「そうなると、残った問題は……」ピッポが眉間にシワを寄せて腕を組む。まだ大きな問題が1つ残っている。


「金やな」とソウタは言った。「任しとけ。俺に考えがあんねん」


ここまでお読み頂きありがとうございます。


異世界でケーキを作るというのは、想像しただけでもかなり大変なことなので、少しずつ進めていこうと思います。プロジェクトXのあらすじみたいにならないように気をつけます。


宜しければ、ご意見ご感想などお聞かせください。


今後とも、宜しくお願いいたします。

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