38.日曜のロンリネス
この世界でも一週間は7日間、実際どのように彼らが各曜日を呼称しているのかは定かでないが、現地語が自動翻訳されるソウタとイワオの耳には、『日・月・火・水・木・金・土』と聞こえる。
転移した地球人が生きていける環境のある天体というのは、地球とほぼ同じサイズで、同じような自転速度を持ち、そこで暮らす人たちの文化や風習も案外地球における人間社会と似通った変遷を辿るのかもしれない。
週末、日曜の夜に寮に帰ったソウタは、少し浮かない顔をしていた。
「どないしてん。犬の糞2個踏んだような顔して」心配したというわけではないが、イワオはそう声をかけた。同じ部屋に2人で暮らすのに、陰気な顔をされては居心地が悪い。
「いや、順調や。ほんま、エグいで。回復役おれへんから、無茶せんと帰って来たけど、『ヘカテー』やったら1人で中層行けんちゃうか?」
「マジで? そんな強なっとんの? まだ2ヶ月経ってへんで」
「ここ来たばっかの頃、狼男やっつけたやん。2人で。アイツまた出て来よってんけどな、一撃やったわ」
「ホンマ? 2人がかりでバチバチやったやん」
「いやマジで、相手になれへんわ」
「うわ、俺も行きたい」
「お前それは言うたらアカンで」とソウタは強めに釘を刺した。
イワオは恋人のバーバ・ヤーガと過ごすため、毎週末必ず彼女の元を訪ねなければならなかった。
「いや、これはな、俺も嫌で行ってんちゃうけど、しゃあないねん。ここ『通信防壁』とかいう魔法で、覗かれへんようなっとるらしいけど、バーバ・ヤーガからしたら、そんなん布で隠しとんのと変わらんで。その気んなったらピラめくって中入りよるわ。ほだら訓練めちゃめちゃなんで。そうならんように説得してんねん」
「逆によう毎週帰って来れんな」
「実際、魔法で閉じ込めて来よるからな。窓とか戸とか開かんようなったり、ベッドから動かれへんようなったり」
「どうやって出て来よんねん。お前みたいなもんが、魔法で彼女に勝たれへんやろ」
「せやから説得すんねん」
「お前、説得力どないなっとんねん。お爺ちゃんに免許返さすレベルやろ」
「そこはな……まあ……」とイワオは口元を緩める。
「ちょっと思い出して笑てもうてるやん。腹立つわ」
「いや、仮にな、『俺が来られへんかったらどないする?』て聞いてみてん。ほだらな、『帝都の人口が半分になる』て言いよったで」
「いや……どういうことやねん」
「怖くて聞かれへんわ」2人の間に沈黙が流れて、時計の秒針が3つ打った後、イワオは思い出したように口を開いた。「いや、ちゃうやん。お前の話やんけ。何散歩ブチられたパグみたいな顔しとんねんいう話やん」
「そんなん言うてた?」
「言うてたわ。ええから早よ言えや」
「いや、お前の話の後言いにくいわ。スケールでか過ぎんねん」
「何やねん。気持ち悪いやんけ」
「……………………いう話やん……」
「え、何て? そんな声小っちゃなることある? バラードのBメロか」
「Bメロはサビに向けてちょっとデカなるやん」
「ええねんそういうの。サビと対比つけるために一旦小っちゃなるタイプのヤツや。ええから早よ言えや」
ソウタは覚悟を決めて言った。
「1人で行ったら全然オモんなかったいう話やんけ」
「何やねんお前。2度聞きした俺の関心返せや」
「せやから言うたやん」
「趣味で釣り行っとんちゃうからな」
「彼女とイチャこいとった奴が言うなアホ」
ケーキ作りの材料や窯を作製する資材などにかかる金策について、ソウタが持っていた案とは極めてシンプルなもので、週末にギルドで依頼を受けるということだった。
今回この企画に協力してくれる同期は、ピッポ、パミーナ、フィオルディリージが窯及び秘密基地の設営地の選定に、フィガロ、ドラベッラが材料の調達に、それぞれ奔走しており、一方イワオは帝都の人口半分の生死をその背に負っていたため、金策に走れるのはソウタ1人しかいなかった。
そのソウタが帰って来たのを見てか、彼らの部屋に、同期たちが続々集まり出した。
「窯の場所が決まったぞい」ピッポが地図を広げると、校舎から歩いて15分ほどの、林道が湾曲している辺りをフィオルディリージが指した。
「見つかったらマジヤバいっつってんのにさ、ピッポ全然その辺考えないからね。超ウケる。結局『ぱみぃちゃ』に決めてもらったし」
「ギャル風の独特なあだ名つけてるやん」とソウタが言うと、フィオルディリージはパミーナに後ろから抱きついた。パミーナは顔を真っ赤にしてされるがままにしている。
「だって超カワイイし。部屋に連れて帰りたい」
「まあ、せやな。ほいで、作業はどんなもん?」
ピッポがイワオの質問に答える。「整地して、材料の集積まで終わっとる。レンガとセメントの余りもんじゃからな、ドワーフにとっちゃそこら辺の石と変わらん。金はいらんそうじゃ」
一同から歓声が上がる。
「金の方は?」とフィガロが言った。
「昨日今日で銀貨20枚や」
おお! とフィガロは目を見開いた。「そんだけあれば、小麦1袋、玉子も1箱買って釣りが来るな。牛乳は鮮度があるから、後にした方がいい」
「こっちも砂糖は話がついた。銀貨十枚ありゃ相当な量が買えるぜ。カカオは高級品だから、ウチの伝手でも1袋銀貨20枚はいるだろう」
「そう考えると、今回は小麦と砂糖だな。粉に挽いて20kg、銀貨10枚でやってもらえるように交渉してやる」
ソウタとイワオには、そういうものの相場がてんで分からなかったが、周りの反応を見るに、小麦粉20kgを銀貨10枚というのは相当な買い叩きのようだった。
「おお……なんか、大ごとなってきたな。俺怖なってきてんけど……」とイワオが呟いた。
「正直相当な贅沢だぞ。ギルドから学費と生活費出てるお前らじゃなきゃ出来ねえよ」とフィガロは言った。
「そりゃメシアンのおっちゃんも顔しかめはるわ」ソウタは、学校が休みの日はギルドで稼がせてくれと申し出た時の、ギルドマスターの苦い顔を思い出した。
「お前、来週誰かに付き合うてもうたらええやん」イワオが出し抜けに言うので、ソウタは慌てて否定した。
そういう言い方をしたら、一人で仕事に行くのが寂しいみたいではないか。
「コイツ、一人で仕事行くの寂しいねんて」イワオはソウタの制止を物ともせず、完全にみなまで言い切った。
パミーナ、フィオルディリージ、ドラベッラ、3人の女が、何か互いを牽制し合うように手を挙げた。




