36.ジドウシャとロボット
「つまりよー、お前らの世界には、『ジドウシャ』っつう走る鉄の箱があるわけだよな。で、戦う時には人型に変形するわけだ。つまり、正体はゴーレムってことだろ? ここまでが本当の話。で、ゴーレム同士が戦争してるのは嘘の話だ。そういうことだろ?」
ソウタが紙に描いた自動車と、ロボットの絵を順に指しながら、ドラベッラは確認した。
「いや、ドラベッラ、せやからな? ちゃうねん。俺らの世界にはゴーレムおれへんねん。せやけど、走る鉄の箱はホンマにあんねん」
「あ? なんでだよ。ゴーレムでもないのに、鉄の箱が走るわけねえだろ。あ、あれか? 馬が牽いてるのか? 馬を省略したってこと?」
先日の訓練で、ゴーレムを相手取った時、ソウタはうっかり『トランスフォーマー』という言葉を口走った。「今度説明する」と言ったソウタの言葉を信じて、ドラベッラはソウタたちの部屋を訪ねて来たのである。
『自動車や飛行機がロボットに変形して戦う物語』と説明するのは一見簡単だが、この世界には自動車も飛行機も、ロボットも存在しない。そのため、ソウタは『自動車』とは何か、『ロボット』とは何か、一つ一つを説明しなければならなかった。
しかも、『トランスフォーマー』は厳密に言えば、宇宙からやって来たロボット生命体が、地球の機械に擬態しているものであり、そのこともまた説明を難しくするはずだったが、ドラベッラはその遥か手前、『自動車とは何か』でつまづいた。
その上悪いことに、ソウタ自身、自動車が走る仕組みを、詳細かつ正確に説明するほどの知識は持ち合わせていなかったのである。
「せやから、エンジンっちゅうのがあんねんて。それで、車輪をぐわぁ回すわけ」
「だから、『エンジン』って名前の馬だろ? その『エンジン』って馬が引っ張るから車輪が回るんだろ。なんで車輪の方を先に回すような言い方すんだよ。ややこしいだろ」
「車輪を先に回すんで合ってんねんて。エンジンは馬やないねん。魔法の箱みたいなモンやねん。そいつの力で車輪回しよんねん」
「え? お前、そっちの世界には魔法無いって言っただろ。嘘なの? どうして嘘吐くの? やべえ、悲しくなってきた」
「ええ……? 嘘やん。ちょお待って、泣かんといて。ホンマやねんで。嘘ついてへんで」
「そうやってさぁ、ウチがさぁ、そっちのこと知らねえからってさぁ……」ドラベッラはめそめそと袖で涙を拭う。「ウチ、こないだの訓練の時からさぁ、夜寝る時とか、風呂入ってる時とか、ずっと『トランスフォーマー』のこと考えてたのにさぁ……」
「いや……ホンマ……どないしよ、イワオ」と助けを求めるが、イワオも困ったように眉尻を下げる。
「お前また、思いつく限り一番ややこしい話したな。こっちで説明すんねやったら、下手なミステリよりややこしんちゃう。俺もそんなん上手いこと言われへんで」
と、そこに丁度ドアを叩いて入ってきたのは、ドワーフのピッポだった。
「取り込み中か? なんなら出直すが」とピッポは首を傾げた。
「いやちゃうねん。むしろ、よう来てくれた」イワオは両手を広げてピッポを歓迎した。ソウタが思いがけずドラベッラを泣かせてしまったこの空気に耐えかねていたのである。
「おお、ピッポ、助けてくれ。俺が上手いこと説明出来んばっかりに、ドラベッラ泣かしてもうてん」と助けを求めて、ソウタは事のあらましを説明した。
「なるほど……」とピッポはソウタの説明を聞きながら、うんうんと時々相槌を打った。
その様子を眺めていたイワオは、内心「いや、分からんな」というオチではないかと懸念したが、ピッポが「なるほど、『内燃機関』を説明せねばならんな」と言った時、その予想が大きく外れたことを知るとともに、この太った子どものような男を、親より頼もしく見下ろすことになったのである。
「ドラベッラ、ソウタの言うことは嘘ではないぞい」とピッポが言うと、ドラベッラが鼻をすすりながら、「本当?」と尋ねた。ピッポは力強く肯く。「ソウタとイワオがおった世界にはな、魔法がない。魔石も無いし、魔物もおらん。従って、この世界の者たちが魔法でやっておるようなことを、全部工夫で解決せねばならんわけだ。その点は、魔法の苦手なドワーフの社会に似ておるの」
「おお……」とソウタが感嘆の声を漏らす。
「期待出来そうな入りや」とイワオも同調した。
「こやつらの世界では、あらゆるものをカラクリで動かすのじゃ。そのカラクリの動力を作る装置が、大きく分けて2つある。1つは、ソウタの言っとった『エンジン』、もう1つは『モーター』じゃ。『エンジン』というのは……」
ピッポはそうやって、ソウタとイワオの世界にあった装置の仕組みについて説明した。『エンジン』とは、非常に燃えやすい油を利用し、その爆発力を動力として物を動かす動力装置であり、一方『モーター』とは、相互に関係する雷と磁石の力を用いて物を動かす動力装置であること、双方の利点と欠点、こちらの世界では、魔法の存在や技術的な問題から、実用化に至っていないこと……。
「つまり、『ジドウシャ』というのは、馬が引っ張る代わりに、内蔵したエンジンで動力を得る、馬の要らん馬車みたいなもんじゃ。馭者が足元のペダルで発進、停止、また速度を操作し、船の舵輪みたようなもので、方向を調整する。
ソウタの世界にはそういうものが当たり前にあったということじゃな。そして、それがゴーレムのように変形して戦うという空想のお話が出来たわけじゃ」
「お前、どんだけ頼りになる男やねん、ホンマ。足向けて寝られへんわ」ソウタは歓喜の声をあげた。
以前ハロワのお姉さんに聞いた通り、この世界にはしばしばソウタたちのように異世界から人が転移してくる。優れた冶金技術、工作技術を持つドワーフは、たびたびこうした異世界人から情報を得て、その技術をこちらの世界に再現しようと試みてきたようである。
「じゃあ……ソウタの話は本当だったんだな?」とドラベッラはまた鼻をすすりながら言った。「良かったぁ……いきなり意味分かんねえ嘘つかれて超怖えと思ってぇ……」
「ごめんなぁ、ドラベッラ。俺の説明が下手なばっかりに……」
「いや、ウチが勘違いしたのが悪いんだ。でもこれで完璧理解した」
「ホンマ、ええ奴やで」とイワオは深く頷いた。
「つまり、『トランスフォーマー』って名前のゴーレムの中に、『エンジン』と『モーター』って名前の魔法の馬が入ってて、馭者がペダルと舵輪で操縦しながら雷と磁石の力を爆発させて戦う話ってことだろ?」ドラベッラはパズルのピースが全てはまったというような晴れやかな表情で言った。
「ううん……いや何でやねん!」
「ワシ、『ケーキ』を焼く釜戸の話をしに来たんじゃがのう……」ピッポがうな垂れた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
いつも更新したその日中には後書きを書くようにしていたのですが、その日何故か閲覧数が急に高騰していて、混乱してしまいまして、翌日とさせて頂きました。
今回はドラベッラを掘り下げて書きたいと思い、こういうお話にしましたが、ギャップに終始して人柄自体をあまり掘り下げられなかったのは反省点です。
ただ、コメディとしてはわりと好きな展開に出来たので、その点は満足しています。
実は先日、このお話に初めてコメント下さいました方が書いてらっしゃるハウトゥ系の作品で、後書きを長く書くと評価やコメント欄が本文から離れてしまうというのを勉強しまして、評価やブクマももちろんですが、何よりコメントが嬉しい私としましては、今後この後書きを少し短めにしようかと思っております。
全然関係ないオペラの話とかしていましたからね。反省です。
宜しければ、ご意見ご感想などお聞かせください。
今後とも、宜しくお願いいたします。




