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35.傷口に砂糖を塗る

「ああ、しんど……」寮に帰るなり、ソウタはベッドに体を放り投げた。


「結論から言う。貴様らの評価は『クソ以下』だ!」全員が集まった後、ダンジョンの大広間で教官は宣言通り結論から言った。「貴様らの戦いぶりと比べれば、馬が糞をひり出す様子でも眺めていた方がまだ見応えがある!」


「教官て、取り敢えずぐわぁ貶して来はるから、逆にどこまで真に受けてええんか分からんとこあるよな」


 椅子の背もたれにのけ反るイワオに、ソウタは「あるある」と同意した。「よく聞いたら参考になること言うてはんねんけど、罵声の方がキャッチーやからいまいち助言が入って来えへんねん」


「お前、何て言われてた?」とイワオが尋ねると、ソウタは眉間にシワを寄せた。


「『魔法使いを担いで運ぶ係』」


「お前、ジョブなんやっけ」


「『狂戦士(バーサーカー)』」


 イワオは、ブッハ! と吹き出した。「笑かしよんでホンマ」


「やかましわ。お前は?」


「『男気だけ見せて結局負けるタイプの噛ませ犬』」


「長いねん」


「俺に言うなや」


 この日、人工ダンジョンでの戦闘に、教官からの講評を受けた彼らは、一人一人こうした不名誉なキャッチコピーを付けられた。ドラベッラは『羽音でイラつかせるだけの蚊』、フィオルディリージは『シンプルな腰抜け』、ピッポは『現場にいて欲しくない大工』……。


「かわいそなんは、パミーナちゃんやで」とソウタが言うと、イワオも頷いた。


「せやな。流石にショック受けてるやろ。一番活躍したんちゃうん」


 パミーナのキャッチコピーはシンプルだった。『人災』である。


 この訓練でパミーナは、人工ダンジョン『コロニー』の壁に大小2つの穴を開けた。小さい方でも直径は彼女の身長を超える。


 教官は、「このタイプの魔道士は、下手な敵より味方を殺す」とパミーナを叱り付けた。「あれが本物のダンジョンだったら、壁を突き抜けた貴様の魔法で、あるいは崩落した岩盤で、悪くすれば同時に潜っていた冒険者は全員道連れだ。野外なら隣の街まで焼き尽くす」


「実際威力エグいからな」とソウタは眉尻を下げる。


「コントロール出来なアカンっちゅうことやんな。黒魔法ムズいわ。白魔法やったら回復のしすぎっちゅうことも無いやん」


「それにしても、あの性格の子に『仲間殺す』はキツいやんな」


「せやわ。部屋で泣いとんちゃう。かわいそうに」


 2人はうーん、と唸って考えた。


「なあ、俺、『チョコミント嫌いなヤツ』嫌いやねんけど、分かる?」ソウタはふと思い出したように言った。


「文脈っちゅうもんがあるやろ」


「いやな、人間、好き嫌いあるやん。人それぞれ。レバーが嫌いとかチーズがあかんとか」


「せやな。なんでチョコミントだけあかんねん」


「イワオお前、嫌いなもん何やねん」


「そう改めて聞かれると分かれへんな。無いんちゃう? 普通に食うようなもんの中では。よう分からん珍味みたいなもんまで含めたら、なんかアカンのあるかもせえへんけど」


「なるほど。チョコミントは?」


「別に、好きでも嫌いでもないな。あえて自分では選ばんような気はするけど」


「せやんな。その程度のテンションやん」と、ソウタはこれまでのやり取りが何かの証明だったというふうな態度で言った。「仮にお前に嫌いなもんがあったとしても、そのくらいの感じで言いよると思うねん。俺もブルーチーズみたいなちょっとどギツいチーズあかんねんけど、それかてそんくらいのテンションで言うわ」


「ああ、なんか分かってきたわ」とイワオはうなずいた。「チョコミント嫌いなヤツは、大袈裟に言いよるわ」


「それやねん。『うわ、チョコミントよう食わんわ! 歯磨き粉の味やんけ!』『大体なんで水色やねん! 食い物の色やあれへんわ!』みたいなこと言いよるやん。ほいでなぜか、上手いこと言うたったみたいな顔しよんねん」


「まあ、おるわ。知っとるだけでも2、3人おる」


「せやろ? チョコミントだけやねん。こない騒ぐヤツ。人参嫌いなヤツも、レーズンあかんヤツも、こないギャーギャー言えへん。チョコミントだけやねん」


「言われてみれば、そうやわ。ほいで、これ何の話やねん」


「『スイーツ作ってパミーナちゃん励ましたろ』いう作戦やんけ」


「お前文章力どないなっとんねん。序論と本論がほとんど結び付いてへんわ。そもそも『スイーツ』て、さぶいねん。『甘いモン』でええやんけ」


「いや、そこは別にええやん。ケーキとか食いたない? スポンジふぁっふぁしよる上にクリーム『ゴバーン!』乗せたんねん。ほいでフルーツや。イチゴとか」


「バナナやな」


「嘘やん。合えへんわ。甘過ぎや」


「スポンジとクリームがチョコのヤツやねん。ちょっと苦めのヤツ。チョコのスポンジの上にチョコクリーム、バナナ、またスポンジ、ほんで、上にテッカテカのチョコやねん」


「ああ、せやったらええわ。なんかよう分からんナッツの砕いたヤツとか上にちょっとだけ乗っとるヤツな」


「それやそれ。あのナッツなんやろな。あれ美味いわ。アーモンド?」


「ピスタチオちゃう?」


「ホンマかお前。それっぽいの言うたったらええと思っとんちゃうんか」


「見抜くやん。何にせよ、そういうの作ったったら、元気出るんちゃうか? みんなにも食わしたったらええやん。この世界に『食』のイノベーションを起こすねん」


「おお。そういうのあるな。作り方知っとんか?」


「知らんねん」


「やっすいノリやめろや。そこで毎度詰んどんねん」


「せやけど、完成品のイメージがあるやん。あとは試行錯誤や」


「ギョウザの時みたいに? あん時、結局出来たん小籠包やったやん」


「結果オーライやんけ。思うねんけど、あんなん、牛乳と玉子と小麦粉をなんかええ感じにやったら出来るんちゃう?」


「その『ええ感じ』の部分やねん。それに問題は焼くやつや。『何℃に予熱したオーブンで何十分』とかあるやん。温度計るやつが無いねんで。無理やわ」


「魔法使える人おるやん。魔力で『今何℃』とか分かるんちゃう?」


「無理やろ。そない温度計みたいな機能付いてへんわ。バーバ・ヤーガやったら『向こう三軒両隣、全焼するくらい』とかそんなんやで。アバウトにも程あるやろ」


「お前の彼女引き合いに出すなや。火力強過ぎんねん」


「それやったら、ドワーフにそれ用のオーブン作ってもらう方が現実的ちゃうか? ケーキっちゅうもんを説明して、こんなん焼くためのオーブン欲しいねんけど言うて、相談したらええんちゃうん」


「それやがな。ほだらピッポがおるやんけ。相談しようや」


「まあ、せやな。否定ばっかりしとってもしゃあないわ。とりあえずやってみよか」


「よっしゃ。『パティスリー・ソウタ』の開店や」


「俺の名前も入れろ」


「長なるやん」


「上手いこと混ぜ込めや」


「うーん……『パティスリー・ソワオ』?」


「ダサっ」

ここまでお読み頂きありがとうございます。


前回まで戦闘回で4話も使い、このお話はどこへ向かっているのか、ちょっと不安になりましたが、それを踏まえてギャグ回に落とし込むことが出来たので、一安心といったところです。


以前にもどこかで書きましたが、このお話は全体を通して、本文中のチョコミントのくだりみたいな中身の無い会話を書くのがメインテーマです。


今回、パミーナが厳しい評価を受けたことを書きましたが、これは私が常々持っている、『強い』ということに対する考え方の1つです。


出力が高いということは、非常にシンプルで分かりやすい強さだとは思いますが、ここにちょっとだけリアリティを入れ込めば、それも手放しに喜べることではないというのを書きたくて、もう少し掘り下げようかとも思いましたが、何せギャグが主題なのでこのくらいにしておきました。


さて、私はお菓子作りが趣味でして、下手の横好きながら色々作ったりするのですが、主人公たちがケーキ作りを目指していく過程を、実は全然考えておりません。


もう言ってしまったからにはやるしか無いのですが、ケーキはスポンジとクリームを全く別の工程で作らなければなりませんし、クリームだの、フルーツだの、チョコだのナッツだのという材料をどうやって調達し、作業の要領をどうやって知るのか、完成までにどういう試行錯誤を踏むのか、それを二千〜三千字に収められ、かつ読んで面白いものになるのか、不安でいっぱいです。


砂糖や小麦の価格だとか、生のフルーツや牛乳、クリームを保存する技術があるか、カカオはどこから仕入れるか、などという設定が必要なのか、あるいはギャグだからと開き直ってすっ飛ばすか、自分で書いておきながら、ちょっと頭が痛いです。


設定資料集とかレシピ本みたいになったらごめんなんさい、と今のうちに謝っておきます。もちろんそうならないように頑張るつもりではおりますが。


よろしければ、ご意見、ご感想などお聞かせください。


今後とも宜しくお願いいたします。

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