34.イワオ、ピッポ、フィオルディリージ②
「ドワーフというのはな、みんなヒゲが生えとると思われがちじゃ。ヒュムの中には女にまでヒゲが生えとると思っとる者もおる。そんなわけなかろうが。ワシもまだ若いからヒゲが生えんのじゃ。それが悩みじゃな。早く立派なヒゲが生えてきて欲しいもんじゃが」
「ヒゲ生やしたいん?」
「そうじゃ。立派な大人の証じゃからな。ヒゲを長く生やして三つ編みにしようと思っとる」
「オシャレやな」
「そうじゃろ? ドワーフのお洒落に一番重要なのは、ヒゲの男らしさと清潔感のバランスじゃ」
納骨堂の瓦礫を取り除いていたイワオとピッポに、後ろからフィオルディリージが文句を言った。「ちょっとアンタたち、真面目にやんなよ」
「お前もやれや」
「あーしの『ノーム』たちがやってんじゃん。あーし、骨触るのとかマジ無理だから」
「お前ほんま……」
フィオルディリージが召喚した『ノーム』という土の精霊は、背丈30cmほどの小人である。彼女がその名を呼んで念じると、どこからともなく30匹(人?)ほど集まって、指示に従ってせっせと瓦礫を運び始めたが、何せ1匹が小さすぎる。大腿骨を1本運ぶのに1匹、骨盤を運ぶのに2匹を要した。
ドワーフのピッポが使った『雷砲』という爆弾は、カタコンベの奥の祭壇に隠されていたらしい通路を、瓦礫で埋めてしまった。
それでもイワオとピッポ、30匹のノームたちの懸命な瓦礫除去作業の甲斐あって、人が1人通れるくらいのスペースが出来ると、イワオたちはランタンの光を頼りに奥へと進んだ。
狭い通路の奥にはまた降り階段があって、それを降った先は岩を削り出したようなだだっ広い正方形のスペースが広がっていた。奥に鎧を着た人影がある。それ以外には何もない。
人影はテキサスの酒場にでも飾ってありそうな水牛の骨みたいなものを頭に被っていた。さらに言えば、肩当も動物の頭蓋骨、胸当ては熊か何か、大きな動物の肋骨だろうか、その間に渡している板状のものも、もしかすると骨盤か何かを削り出したものかもしれない。手甲、脛巾、草摺、どこをとっても「骨で作る!」ということに並々ならぬ執念を感じる。
「『ボーン・メイル』というやつじゃな」とピッポが関心を示した。「幻獣や霊獣といった、力のある珍しい獣の骨を加工して作る、呪われた武具じゃ」
手に持っている鉾も、言うまでもなく骨だ。脊柱の先に結え付けた穂先も、どうせ骨を削り出したものだろう。
ランタンの光に照らすと、骨の兜の下から覗く、その顔も、やはり骨だった。スケルトンの騎士である。
「いや、ややこしわ。どこまで自前やねん」
ものものしい鉾を引っ提げた様子といい、背に竹の入ったような立ち姿といい、骨とはいえ、ひとかど優れた手並を思わせる佇まいから、並々ならぬ殺気を放っている。
「一体ならば造作もあるまい。イワオよ、誅戮するがよい」フィオルディリージがふんぞり返る。
「緊張してもうてるやん。お前もやれや」
イワオが戦斧を執って身構えると、骨の甲冑に身を包んだ骸骨騎士は、ふと全身の力を緩めるように背を丸め、次の瞬間、力強く地面を蹴った。
騎士は鉾を振りかざしてイワオに斬ってかかる。その穂先が、ほとんど無意識に受けたイワオの戦斧を打って、鋭い響きと共に瞬く間火花を散らした。
イワオは得物に力を込めて、騎士の鉾と押し合ったが、騎士の剛力に押され膝をつく。
「この力、どっから出てくんねん。骨のくせにお前!」
「『トピカ』!」とフィオルディリージの声が聞こえたと思うと、押し合っていた騎士がピッポに入れ替わった。
「なるほど、3人離れておれば、ピンチの時には位置を入れ替えればいいわけだ。これは便利」
騎士は空中に浮かんだ疑問符を眺めるように視線を上に向けたが、すぐにまたイワオとピッポの2人を目掛けて斬りかかった。イワオがまた鉾を受け、ピッポが膝にトンカチを叩きつける。石を叩くような音が響いたが、この上階で戦ったスケルトンのようにはいかなかった。
「いかん、コイツとんでもなく硬いぞい」
「ようけカルシウム摂ってんねやろ。そない保たんで。何とかせえ」
ピッポは少し後ろに退くと、助走をつけて体当たりをする。しかし、骨ばかりの身体のどこにそんな力がこもっているのか、骸骨騎士はびくともしなかった。
そればかりか、ピッポを蹴倒し、鉾を返して石突でイワオの腹を突く。よろめいた隙に降ってくる穂先を頭上で防いだと思えば、今度は手の内を返して脛に、足を上げて躱せば胴に、斬り付けられた穂先を肘で受け、腕の肉を裂かれた痛みを堪えて斬りかかっても柄で受けると同時に太ももに刃が食い込む。
イワオは堪らず二歩三歩と退いて距離を取り、傷を回復魔法で癒す。その隙にフィオルディリージが魔法を唱えて石礫を飛ばしたが、これも難なく叩き落とされてしまった。
「あかんあかん。シンプルに強い。力は強い、動きは速い、その上テクっとんねん。かなんでホンマ」とイワオが弱音を吐いている間に、ピッポは通路まで引き返していた。
「フィオ、敵と入れ替えろ!」と叫んだピッポの足元に、どこに持っていたのか、大量の『雷砲』が落ちている。「ありったけじゃ」
「『トピカ』!」フィオルディリージが叫び、ピッポと骸骨騎士の位置が入れ替わると、狭い通路に爆音が響いて土煙が上がった。が、その中から、騎士は何の痛痒も感じぬていで歩いてくる。
「どないすんねんこれ」と肩を落としかけた時、イワオは騎士の指が一本欠けていることに気が付いた。「俺が行く。フィオ、俺がアカンくなったらピッポと入れ替えてくれ」
そう言ってイワオは駆け出した。振りかぶった戦斧を、敵の指目掛けて振る。騎士はそれを鉾で受け、返す刃で脇腹に斬り付けた。イワオはこれを辛くも躱すと、また力任せに戦斧を振る。
避けられ、受けられ、その都度手痛い後打ちを食いながらも、イワオは徹底して相手の手を狙い斬りつけた。やがて敵の前手、右の指が3本同時に砕けると、いよいよ鉾を握る力を失い、騎士は小指の欠けた左手一本で鉾を持たねばならなくなった。
この時初めて、騎士は自ら退いて、間合いを切った。
ピッポが鉾に飛びつき、柄を掴んだが、騎士はそれもろもと鉾を振るい、ピッポを振り飛ばした。騎士は指の落ちた右手を添えて、大上段に振りかぶる。
「『ファイア・ボール』!『サンダー・ボルト』!『ブリザード』!」横合からフィオルディリージが立て続けに魔法を放ったが、騎士はこれを防がずまともに受けた。眼球の無い虚な眼窩に、一刀に勝負を賭ける覚悟が見える。
「男やな」とイワオが戦斧を構え直すと、騎士は駆け出した。
イワオが振り下ろす戦斧が、その肩口に届くより速く、騎士の鉾はイワオの脳天に迫る。が、その穂先はそれより先に振り下されることはなかった。
イワオの戦斧は、騎士の甲冑の間を縫って、鎖骨を砕き、胸の辺りまで深く突き立った。
「完全に死ぬかと思ったわ……」イワオが呟くと、膝をついた騎士の向こうに、ピッポが腰を落としている。手には縄を握っていた。
「アラクネの糸を綯って作った縄じゃ。飛びかかった時腕に結えとった」
「うぉぉ……超絶ファインプレーやんけ」
そこで不意に、視界が白み、岩壁も、仲間も、たった今死闘の末に斬り伏せた骸骨騎士も、眼底を払って消え失せた。
と、次の瞬間、視界を取り戻した彼の目に映ったのは、最初にいた大広間と、憮然と佇む教官の顔だった。
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ソウタチームがパミーナちゃんのブッパで決着となったので、対比をつけるために、イワオチームは格闘で決着するようにしました。
敵の鉾の動きは薙刀を参考にしています。一時期女子限定の競技だったこともあって、薙刀の男子人口ってすごく少ないそうなんですが、めちゃくちゃ面白そうだなと思っていて、私がもう少し若くて、教えてくれる道場があれば、是非やってみたかったなと今でも思っています。
前にも書きましたが、今回は初めての実戦訓練なので、連携があんまり上手くいってないていで書いていますが、では今後これが上手くいくように書けるのかというところが、心配なところです。
このお話は戦闘をメインにしているわけではありませんが、ここがあまりおざなりでもつまらないなと思いますので、ギャグをやる傍らのこうした戦闘回も、しっかり書けるよう頑張りたいです。
よろしければ、ご意見ご感想などお聞かせください。
今後とも、よろしくお願いいたします。




