33.ソウタ、パミーナ、ドラベッラ②
「いや、俺らは何を呑気に他人の恋バナしとんねん。これ、ダンジョンおかしなっとんちゃうん」
進めど進めど先の見えないただ真っ直ぐな通路の途中で彼らは立ち止まっていた。
「先も見えねえけど後ろも見えねえな。もうどのくらい進んだのか分かんねえよ。元来た扉ももう見えねえ。どうする? 引き返すか?」ドラベッラも流石に戸惑いを隠せない様子で不安げに尋ねる。
何か考え込んでいたパミーナが、ふと思いついたように口を開いた。「無限回廊……」
「何て?」
「空間魔法で、同じところをぐるぐる回らせたり、空間を拡張したり……そういうところに、迷い込んだのかも……」
「嘘やん。真っ直ぐ進んどっただけやのに?」
「魔法の攻撃を受けてるのか?」ドラベッラが身構える。
周囲を見回すが、どこまでも続く真っ暗な通路が、石壁の凹凸にランタンの光を心許なく照り返している以外、何も見当たらなかった。
「私たちを閉じ込めてる魔物を見つけて、やっつける……そういう訓練?」
「ああ、せやな。それや。せやったら壁、床、天井作っとる石のブロックに化けとるか、目に見えへんだけで実はその辺におるいうパターンの2択やろ。問題はどうやってそいつを炙り出すかっちゅうことや。当てずっぽに矢射ってみよか? 姿見えへんようにしとる奴おったら当たってまうんちゃう?」
「それは、もしかしたら危ないかもしれなくて……その、『同じところをぐるぐる回る』タイプの無限回廊は、前と後ろの空間が繋がっているから、前に射った矢が、後ろから飛んでくるかも……」
「怖っ。せやったら、魔法ぶっ放すとかもあかんな」
「壁床の方から攻めるか」ドラベッラはそう言うと、壁に手を当てた。「パミーナ、魔法障壁を張ってくれ」
パミーナはその意図を察したものか、ソウタとドラベッラの肩に触れて、「『シェル』」と唱えた。「防御魔法は下手くそなので、離れると障壁が消えてしまうから……」
「よし。分かった」と頷くと、ドラベッラはそのまま壁についた手に力を込めた。「『雷霆』!」
通路全体からバチバチと火花が散る。すると、10歩ほど先の天井から石のブロックが1つ、ずるりとずり下がって床に落ちた。
「シェイプシフターだ」とドラベッラは言うと、剣を抜いてその落ちたブロックに突き立てた。それは肉の塊のように刃を通すと、一瞬小さく蠢いて、間もなく消えた。
「めっちゃカッコええやんけ。何今の」
「ウチは『魔剣士』だからな。剣に魔法を通して使う。剣に魔法を通せるということは、そこら辺の物にだって通せるってことさ」
「めっちゃええやん」とソウタが目を丸くしていると、周囲の石壁がカタカタと音を立てて震え出した。「今度は何やねん」
壁や天井を形作っていた石のブロックがひとりでに動き出し、組み変わっていく。
「トランスフォーマーやん」
「トランスフォーマー?」ドラベッラは首を傾げた。
「車からロボットに変身すんねん」
「ロボット……?」
「ごめん、何でもない。今度ゆっくり説明するわ」
「ゴーレム……」パミーナの顔がみるみる蒼褪めていく。
石のブロックは上下左右に組み替わり、巨大な石の人形へと姿を変えた。ただ真っ直ぐに伸びていた通路は、壁や天井のブロックが無くなると、広大なドーム状の空洞になっている。
「いや、デカすぎるやん。どないすんねん」ソウタは自分の背丈の2倍はあろうかという石人形を見上げる。
と、石人形はその柱のような足を持ち上げ、近くにいたパミーナを踏みつけるように振り下ろした。ソウタは咄嗟に、パミーナに飛び付いてこれを避ける。が、次の瞬間には巨大な岩盤のような手のひらを振り下ろして来る。
ソウタはパミーナを抱えて逃げ惑った。「あかんあかん! あかんて、これはホンマに! ちょお時間をくれや! 感想を言う時間をくれ!」
しかし、ゴーレムは構わず手を足を、彼ら目掛けて振り下ろし、踏みつけてくる。しかも悪いことに、ゴーレムはその一体ではなかった。自分に降りかかる攻撃を躱すのに精一杯で数える暇もないが、ぱっと見た限りでも10体は固い。
動作が緩慢だということが唯一の救いだが、立ち回りを間違えれば逃げ場を失い踏み潰されるであろうことが容易に想像できた。
とはいえ、このまま逃げ惑っていてもラチが開かない。近くのゴーレムが手を振り下ろして体勢を崩している隙を見て、ソウタは抱えていたパミーナを下ろし、腰の剣を抜き払った。
「ソウタくん! ドラベッラ! 私が、魔法でやっつけるので、逃げて!」とパミーナが叫ぶ。
「言うたかて、この大きさやで! 限度あるやろ!」
パミーナは「少し時間がかかるので!」とだけ言うと、それきり口の中にぶつぶつと何かを念じ、呟き始めた。
「魔法だな! 強力な魔法があるんだな! パミーナ、信じるぞ! ソウタ、パミーナを守れ! ウチは囮になって同士討ちを誘う!」ドラベッラが飛び回りながらそう叫ぶ。
ドラベッラはゴーレムの股を潜り、脇を抜けて走り回る。時々剣で足元を斬りつけ気を引くが、石で出来た硬い足は彼女の刃に傷一つつかなかった。
ソウタは弓をとり、矢をつがえて引き絞る。ゴーレムの関節を狙って続けざまに何本も矢を放った。その内の何本かは、ゴーレムの肘や肩の関節に嵌まり込んで、その動きを阻害する。やがて、力任せに関節を動かした一体のゴーレムの肩が外れ、腕が音を立てて床に落ちた。硬い攻殻を持ったキラーアントとの戦いで学んだことである。
「なるほど、機転の効くヤツだ」ドラベッラは太ももに巻いたホルダーから投げナイフを取り出し、ゴーレムの関節目掛けて投げつける。
そうする間にも、ドラベッラを追い回すゴーレムは、他のゴーレムと衝突してバランスを崩し仰向けにひっくり返る。
一体のゴーレムがパミーナに向かって駆け出す。ソウタは彼女を助け出そうと駆け出すが、パミーナは一声叫んでそれを制した。「離れて!」
彼女が前に突き出した両手の先には、彼女の体がすっぽり収まるほどの巨大な光の球が、肌を焦がすような眩い光を放っている。
「『ファイア・ボール』!」その光球を起点に、巨大な円柱が轟々と唸りをあげながら彼女の前方に伸びて、直線上にいた3体のゴーレムの身体を刮ぎ取った。更にその先、ドーム状の空洞を形作っていた岩肌に綺麗な円形の穴を開け、底の知れない闇を覗かせている。
「それはもう、『ボール』ちゃうやん……」
「私の後ろに来て! まだあるので!」パミーナは続けて叫ぶ。彼女の目の前の光球は、その場に留まってその熱量と輝きを減じぬどころか、一層激しく燃え盛っている。ドラベッラとソウタはその威力に圧倒されつつ、彼女の後ろへと駆け付け、その小さな背中の陰に、腰を屈めて隠れる。「私につかまってて!」
「クソっ……不本意だ」ドラベッラはパミーナの小さな背中に身を隠す醜態を嘆いた。
「しゃあない! これはしゃあないわドラベッラ」
「行きます!『ヘル・フレイム』!」とパミーナが声を挙げた瞬間、光の球から放射状に広がった炎の熱と眩さに、ソウタはパミーナの腰に回した手に力を込めた。「あっ……」とパミーナが声を漏らす。
炎の光は一層強く、ダンジョンの空洞を埋め尽くした。それが収まり、ふと頭を上げたソウタが見たのは、深くえぐれた地面と、その先に広がるただ広大な虚無だった──
ふと、視界が白んで、次の瞬間、ソウタの目に入ったのは、このダンジョンに来た時にいた大広間と、憮然と佇む教官の顔だった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ジョジョでいうところの「スタンドの攻撃を受けているのかッ」というのをやりたかったのですが、字数やクリア難易度のバランスを考えると、あまり掘り下げられなかったのが反省点です。敵が弱すぎても緊張感がないし、強すぎても後でインフレを起こすしということで、この辺の設定は気を使うところです。
今回は、パミーナがぶっ放してオチというのは最初から考えていたのですが、これもボリュームの関係上、ソウタとドラベッラの見せ場がほとんど作れませんでした。これはこれとして後の展開に有効活用したいと思います。
ちなみにドラベッラの『雷霆』というのは、ギリシャ神話のゼウスが持っていたとされる武器です。ゼウス像の手に持ってる上下がもっこりした短い棒が多分そうだと思うんですが、仏教の神様でも似たような武器を持ってるのがいますけど、一体どうやって使うのか、弓矢や剣でなくあえてそれを選ぶメリットは何なのか、子どもの頃からずっと疑問です。
この手の書き物に戦闘描写は避けて通れませんが、人数が絡めば絡むほど、焦点の当て方や動きの出し方など本当に難しいです。日常生活していて戦いの経過について文章化する機会なんてありませんからね。自分が書いたつもりでいる敵味方の動きは伝わっているのか、それは読んで面白いのか、ずっと首を捻りながら書いています。
よろしければ、ご意見ご感想、ご助言など頂けたら嬉しいです。
今後とも宜しくお願いいたします。




