32.イワオ・ピッポ・フィオルディリージ①
大広間右奥の扉を抜け、下り勾配の狭い通路を進んでいくと、さらに降りの螺旋階段があった。
そこを降りるとまた大きな扉があり、それを開けた先に広がる大広間の光景に、イワオはまず顔をしかめた。
壁や柱、天井とどこも複雑な凹凸が彫り込まれているように見えた。丸みのある窪みや突起が一定の規則で並んでいるようで、しかしそのくせ微妙に不揃いだった。
「納骨堂じゃな」とドワーフのピッポが言うより先に、壁や柱に複雑な陰影を作っているその内装が、人骨を素材としているのだと気付いた。
夥しい大腿骨や頭蓋骨、骨盤を積み上げて、模様を描いているのである。
「悪趣味やな」とイワオが呟いた時、背後にコトンと乾いた音がした。
振り返ると、人一人分の人骨が、革鎧に剣を握って、眼球の無い虚な眼窩でこちらを見ている。
「スケルトンだ」とフィオルディリージが呟いた。
「ようこの中から自分の骨集めたな」とイワオは妙に感心したが、ピッポはそれをいさめるように、口を開いた。
「そんなことに関心しとる場合じゃないぞい。これだけの骨があるんじゃ。全部襲いかかってきたらどエラいことだぞい」
イワオは少し滑稽な気分になった。このピッポというドワーフは、背が低く、ずんぐりした体型に丸い顔、つぶらな目と大きなダンゴっ鼻で、子どもみたいな顔をしているくせに、漫画の年寄りみたいな喋り方をする。
「お前、かわいいな。マスコット的なコミカルさがあるわ」とイワオは言った。
「そうか? お前さん呑気じゃな」
そうしている間に別のところでまたコトンと音がする。そちらでもまた、いつの間にか一体のスケルトンが剣を握ってこちらを伺っていた。
「アカンな。これ、早よ倒していかな、どんどん増えるんちゃう」イワオは一体のスケルトンに歩み寄って、戦斧を振るった。スケルトンはその初太刀を剣で受けたが、三合切り結んだ末に脆くもイワオの戦斧に砕けた。「弱いな」
「問題は量じゃな」とピッポが言う。気付けばあちらにポツリ、こちらにポツリと5体のスケルトンが立っていた。
「いや、剣はどっから調達してんねん」
「あんま深く考えない方がいいよ。ダンジョンとか魔物ってその辺いい加減だしさ」フィオルディリージが短刀を抜いて何ともない風に言う。
「どういうことやねん」
と、一体のスケルトンが急に駆け出し、振りかぶった剣をフィオルディリージに向けて振り下ろした。彼女はそれを短刀の鎬で受け流し、左手の人差し指を唇の先に当てると、「『シルフ』……」と呟いてフッと息を吹いた。突風に煽られたように敵が吹き飛ぶ。
「おお!」イワオとピッポが低く感嘆の声をあげる。
「ワシも頑張らねば」ピッポはスケルトンの剣を左の手甲で受け、右手のトンカチで足を払うと、倒れた相手の頭蓋を砕いた。
「お前、武器小さない?」とイワオは尋ねる。木工に使うサイズのトンカチだ。戦闘に十分な大きさには見えない。
「使い慣れとるもんの方がいいからな」
そうする間にも、敵は十、二十と増えていく。
「無理無理! 超キモいんですけど!」フィオルディリージが叫ぶ。粗末な革鎧に剣を握った骸骨の群れが、彼らをじりじりと取り囲んでいる。「このペースじゃ、全然追いつかない!」
「なんかドカンといく魔法無いん?」
「そんな都合の良いモンないっての!」
それに返事をする暇もなく、イワオの頬を敵の切っ先がかすめる。「うおっ」と辛くもそれをかわし、その拍子につまづいた足元を見ると、柱の間を通して紐が張ってある。
「足元に紐張っとるから気を付けろ。骸骨がつまづいて戦うのが楽になるぞい」
「お前、先に言えや。俺が引っ掛かってもうたやんけ」
「おう、すまんすまん」
「ちょっと男子〜」フィオルディリージが呆れた調子で文句を言う。
「アカンな。いよいよ手ぇ回らんで」
そうしている間に、3体のスケルトンがピッポに向かって刃を振り下ろし、あるいは突き出した。
「『プロテクション』!」イワオが防御魔法でこれを防ぐ。
「おお。助かったぞい。死ぬとこじゃった」ピッポは周りの敵をトンカチで一体ずつ砕きながら礼を言った。
「ノリが軽いねん」と言うイワオの背後にも、複数のスケルトンが剣を振りかぶっていた。
「『トピカ』!」フィオルディリージがそう唱えると、ピッポに向けていたはずの視界が、テレビのチャンネルを替えるような唐突さで、斬り倒されるスケルトンに向けられていた。
イワオは呆然としかけたが、自分のすぐそばに何体ものスケルトンが、1体の同胞を手にかけているのを見ると、手当たり次第にそれらを蹴散らしながら「何? どういうこと?」と呟いた。
「空間魔法。イワオと敵1体の位置を入れ替えた」とフィオルディリージは説明した。
「そんなことまで出来るんかいな」
「あーし、マジ器用貧乏なんだ。白魔法も黒魔法も召喚魔法も空間魔法も使える代わりに、どれも威力はそこそこかそれ以下」
「十分じゃ」とピッポが言った。「ワシらを通路まで移動出来るか?」
「通路近くのスケルトンと入れ替えるくらいなら」
「やってくれ」
フィオルディリージは言われた通り、ピッポとイワオを通路近くの敵と入れ替える。
「お前さんも来い」
3人が元来た扉から通路まで引き返すと、ピッポはイワオに防御魔法をかけろと指示した。イワオは3人を防壁に包む。
ピッポは腰の道具袋から石ころのようなものをいくつも取り出して、カタコンベに向かって放り込んだ。次の瞬間、耳をつん裂く轟音と共に、爆風と飛礫が飛び散り、スケルトンたちを木っ端微塵に吹き飛ばした。
「爆弾?」イワオは血の気が引くのを感じながら言った。
「『雷砲』というもんじゃ。金属の器を炎の魔石で破裂させて、破片と爆風で吹き飛ばす」
「お前これ、ずっと腰に提げとったんか」
「そうじゃが?」
「危ないやんけ。そこ敵につつかれたらどないすんねん」
「これは意志に反応して発動するから、こっちが爆発させようとせん限りは安全じゃ。もっとも、手作りじゃから、1つや2つ、不良品も混ざるが」
「怖っ! お前、ちょい離れろや爆弾小僧」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
今回は、「一方そのころ」というのがやりたくて書いていますが、それが果たして効果的かどうかは悩みどころです。
今回は初の戦闘訓練なので、あまり上手くいっていない風に書いているつもりですが、アイテム士のピッポと器用貧乏な魔道士のフィオルディリージは、地味なアイテムや魔法を工夫して戦えたら面白いなという目的で設定しています。
ドワーフの『ピッポ』という名前は、ロッシーニのオペラ『泥棒かささぎ』に登場するおっちょこちょいな召使いの少年から、フィオルディリージの魔法『トピカ』というのはギリシャ哲学で『空間』を意味する『トポス』という言葉がちょっとダサいなと感じたので、アリストテレスがトポスについて書いた著書から取っています。
『雷砲』という爆弾については、14世紀の中国で使われた手榴弾の前身『飛雲落雷砲』というのがあるそうで、ちょっと長いので省略して拝借しました。Wikipedia さんにはいつもお世話になっております。
私はドワーフが大好きで、ファンタジー世界に転移するお話を書くにあたって、それもコメディにするならなおさらこれを使わない手はないと思っていましたが、どういうわけか、なかなかタイミングが掴めなくてやっとの登場となりました。ギャグでよし、戦ってよし、ご都合主義にもよし(物づくりに優れているという設定で、現実世界とのギャップを埋めるのに役立つ)と3拍子揃った有能種族だと思います。
女性キャラよりもこのドワーフを可愛く書きたいと思っています。
宜しければ、ご意見ご感想などお聞かせ下さい。
今後とも、宜しくお願いいたします。




