24.ラブ・コメディック・ベルセルク
「きたきたきた! これはきたやろ!」ギルドの敷居を出た瞬間、ソウタは声を上げた。
「まあ、落ち着けて。あんまテンション上げると、後でガッカリすんで」
「学校さえあれば、彼女の一人くらいどうにでもなるっちゅうねん。ここでオモロいことガツーン言ったったら一発や。今までもそれでやって来てんから」
「見通しが甘いわ。なんぼ楽天的やねん。みんな外人顔やし、そない目立たれへんて」
「逆に目立つやん。男は顔ちゃうねん。いかにスピード感を持って差別化を図るかや。ええ女に『アレ?』いう男付き合うてたりするやん。そういうのて結局、初対面から相手を笑かす、言うべき時にガツーンかます、そういう思い切りのよさやねん」
「いや、同じノリではいかれへんて。異世界やで」
「それやねん。異世界やで。ここに来て、学園もの持ってきよるとはな。今までのはほんの前書きに過ぎんかったっちゅうことや。
どないする? 委員長だのギャルだのツンデレだのいうヒロインが、雨後の筍のようにアホみたいなトラブル持って来よんねんで。そんでお前、そんなん立ち所に解決したるわけやん。ほだらその鮮やかな手並に魅せられて、またさらなる美女・美少女が押し寄せて来るいう無限の連鎖や。アカン。恋と冒険の螺旋の中で窒息してまうわ」
「もう、窒息したらええわ。ラブコメの読みすぎや。俺あんなん嫌いやねん。誰と付き合うわけでもなく、あっちの女、こっちの女、フラフラしよるやん。浮気しよる男の典型やで。浮気て、カッコええ男がしよるんちゃうねん。あっちの女にもこっちの女にもええ顔しようとする優柔不断な男がしよんねん。
ほいで女の方も、簡単に恋に落ちすぎや。小ちゃい小ちゃいころに砂場で結婚の約束したとか、誰がそんなん覚えてんねん。人知れず花壇の手入れしとんの見て『優しい人……』とか、そんなん見えるようにやってへんかったら、見つかるわけあれへんやんけ。学校の花壇なんかどこにあったのかも思い出されへんわ。今まで箸が倒れるのにも腹立てよったような女が、ちょっと階段蹴つまずいたの支えたっただけで『トゥンク……』とかいうて、情緒どないなっとんねん。病院行けや」
「お前、ラブコメめっちゃ読んでるやん」
「……言わんといて」
「ええよ。言わん。そんかし協力してや。俺とお前で、教室ドカーン沸かしたんで。まずはオモロい奴やと思わせることが先決や」
「いや、協力すんのはええねんけど、俺そんなんようやらんで。いきなり一発目でかまそうとすんのはやめよな。ほんなんダダ滑りする予感しかせえへんわ。初日一発目にドヤ顔こいて、朝のお寺みたいに『すーん』いいよったら目も当てられへんわ」
「うわ……お前やめろや。緊張してきたやんけ」
「その緊張感忘れんとき。徐々にやソウタ。徐々にやで」
「せやな。徐々にや。……せやけど、ラッキースケベくらいは期待してもええやろ」
「一番あかんわ。何がどうなってそう思ったん?」
「いや、俺ら、いわば転校生として学校行くわけやん。ほだら、みんな転校生気になるから、朝からソワソワしとるわけ。ザリガニの水槽の水換える生き物係のヤツも朝からソワソワしとるから、階段に水こぼしよんねん。そうとは知らず理事長室に呼ばれて難しい話しとった優等生の女の子が、階段降りて来んのと、職員室に挨拶行っとった俺らがちょうど階段挟んで向かい合わせや。そこで女の子は当然、生き物係がこぼしよった水で足滑らすわけやん。ほいで俺がそこで支えたろ思て手出したら、丁度おっぱいいってまうやろ。せやけど、向こうも助けようとしてやったことやって分かってるから、結果ノット・ギルティや」
「ピタゴラやな。ザリガニの奴はどっから出て来てん。そもそもハナからその腹積もりでおる奴は一旦おっぱい当たったら揉みよるやろ。罪責免れへんわ」
「……せやな。ていうか普通に考えてあれへんわ」
「まあ、異世界やから。何があるか分かれへんわ。期待し過ぎもアカンけど、最初から諦めることもあれへん。ドンと構えとったらええねん」
「せやな。冷静に考えて、俺らのアドバンテージは実務経験者やっちゅうことちゃうか? これから冒険者やら何やらなろうとしとる子らに、現場の空気感とか教えたったら、興味示すんちゃう」
「それはあるかもな。念のため、もうちょいレベル上げとくか? 学校始まるまで、経験積むとか」
「あんまやり過ぎもアカンと思うねん。学園ものの中にいきなり劇画タッチの奴来よったら、引くやろ」
「別にレベル上げたかて、顔のディテールは変われへんわ」
そういうやり取りをしながら、気付けば彼らは転職神殿にまで来ていた。
「生還おめでとう御座います」ハロワのお姉さん、アンナはホッとしたように言った。「心配しましたよ。危なかったそうじゃないですか」
「ありがとう。ほんま、ギリギリやったわ。バーバ・ヤーガが来てくれへんかったら完璧死んどったわ」イワオは礼を言った。
「俺なんか、片腕もげとったからな。思い出したらゾッとするわ。やっぱ慎重にいかなアカンな」
「ソウタさんに、1つ『上級職』解禁のご神託が下っています」とアンナは言った。
具体的にどういう仕組みなのかは定かでないが、転職神殿に登録されている冒険者が転職の条件を満たすと、その旨神殿の職員に神託が下るのだという。
「ホンマ? 何?」とソウタは食い付く。
「お前、めっちゃええやんけ。普通『中級職』とか間に挟むんちゃうん?」とイワオは聞いた。
「そうですね。通常、初級職で経験を積むことが一つ上のジョブ解禁の条件になりますが、例外的にある一定の行動をとることで解禁されることがあって、その場合、本来辿るべきジョブの系列を飛ばすことになります。ソウタさんの場合はこれにあたるでしょう」
「ほんで、何のジョブなん?」ソウタは喜色満面、食い入るように、アンナの言葉を待った。
「『狂戦士』です」
「おおぅ……ええ?」ソウタはリアクションに窮した。
「それって、どうなん?」とイワオが代わりに尋ねる。
「他のステータスが一切上がらない代わりに、『力』と『防御』だけが飛躍的に上昇し、『痛覚鈍化』のスキルが付与されます」アンナが複雑な表情で答えた。
「それ、解禁される条件てなんやったん?」とソウタが恐る恐る尋ねる。
「ええと……『自身の切断された四肢のいずれかを武器として使用する』ですね……」アンナの口元が引き攣っているのを、ソウタは見逃さなかった。
「引いてもうてるやん」
「いえ……流石に、ちょっと……」
「いや、コイツなりに、一生懸命やってんて」とイワオは弁護した。「ええやんけ。物理攻撃系なんやから、ここで『力』と『防御』ガツン上げたったらええやん。それにお前、待望のスキルやで」
「俺、嫌や」とソウタは言った。「お見合いとかした時にやで、『お仕事は何を?』て相手のお母さんに聞かれるやん。『狂戦士です』て言う?『ちょっと、あの子はやめとき』てなるやん」
「何を想定しとんねん」
結局、ソウタはイワオの説得もあり、上級職『狂戦士』に転職した。
ここまでお読み頂き有難うございます。
今回はラブコメをイジるつもりで書き始めたのですが、オチが思い付かず、丁度転職を入れようと思っていたタイミングだったこともあり、バーサーカーネタを差し込んで軟着陸しました。
毎度オチを投げて申し訳ありません。
バーサーカーに転職というのは前々から考えていました。前にも書いた記憶がありますが、私は戦うなら死闘でなくてはと考えているので、主人公のどちらかはバーサーカーにするつもりでした。
いくら自分の正義を確信していたとしても、相手にだって相手なりの正義や事情があるはずなので、武力でねじ伏せることを選ぶならば、互いに命を賭けるべきだと思っています。せめてお話の中でくらいは。
他所のお話にまでそれでケチを付けるつもりというわけではなくて、その辺の筋が通っていないと私自身がもやもやしてしまってお話を書く手が鈍るのです。
といったところで次のお話からは学園ものを書こうと思いますので、宜しければ、ご意見、ご感想、アドバイスなど頂戴出来れば嬉しいです。
今後とも宜しくお願いいたします。




