↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/92

23.そうだ、学校へ行こう

 何事にも、加減というものがある。


 しかし、ソウタとイワオは命を救ってもらった手前、それを言うに言えなかった。


『地獄八景(じこくばっけいもう)亡者戯(じゃのたわむれ)』というバーバ・ヤーガの魔法は、洞窟型ダンジョン『ヘカテー』そのものを、『地獄』と呼ばれる概念的空間に送り、現世から消し去った。


 その中に潜っていた夥しい冒険者たちを、ダンジョンのあった山の麓に吐き出して。


 その時ソウタが石化して割れ落ちた左腕を右手で掴んでいたのは全くの偶然だったが、この偶然がなければ彼は左腕を永遠に失っていた。


「イワオ、ほんま、ありがとうや。お前がバーバ・ヤーガと付き合うてくれてて。ありがとうやけど、引くわ。引かざるを得んわ」元通りに回復した左腕の感触を確かめるように手を握ったり開いたりしながら、ソウタは言った。


「まあ、分かるわ。浅層だ中層だ言うて、中層で死にかけてんのにその先まだ深層がある、『底が見えへんわあ』とか言うてる時に、ダンジョンそのものを根こそぎこの世から消し飛ばしてもうてんからな。スケールがちゃうわ。まあ、『女は海』やからな」


「それがもう、例えになってへんねん。的外れっちゅう意味やなくて、現実にそのスケールに達してもうてるっちゅう意味でやで。お前、彼女と付き合うてて、『釣り合うてへんのちゃう』とか思わんの?」


「別にやな。お前かて、女と付き合う時『俺はこの女と同じくらいの強さに達しとるから大丈夫や』とか考えへんやろ」


「感覚おかしなるわ」


「仕事と恋愛と、同じ物差しで測るもんでもないやろ」


「そういう問題か?」


 洞窟型ダンジョン『ヘカテー』第五十階層を踏破、五十一階層でコカトリス1頭の討伐を公式に認められ、その階層のスタンピードを辛くも生還したイワオとソウタの2人は、その2日後、冒険者ギルドに呼び出しを喰らっていた。


 2人が、帝都ヘルメスの中央街区に軒を構えるギルド2階の応接室に通されたのは、初めてのことだった。


 ギルドの長だと名乗る、口髭を生やした小柄な初老の男が入って来たのは、10分ほど待たされてからのことだった。


「ヘルメス冒険者ギルドの長、オリヴィエ・メシアンだ」と男は名乗った。


 ソウタとイワオは立ち上がって挨拶をしようとしたが、メシアンはそれを遮って、革製の質の良いソファに掛けるよう促した。


 立派な口髭に飾られた口元の表情は、これから説教をしようとしているのか、称賛を述べようとしているのか、どちらとも判然としなかったが、彼の端正な立ち居振る舞いの中に、小柄な体躯には似合わぬ名状しがたい圧力を感じ、彼らは促されるままソファに腰を下ろした。


「まず、ダンジョン中層へ足を踏み入れ、無事生還を果たしたことをお祝い申し上げる。中級冒険者と名乗って差し支えない功績である」


 イワオとソウタはこの台詞をどう捉えるべきか分からず、ソファにかけたまま、会釈でこれに応えた。


「ただし、事の次第を鑑みれば、単純に駆け出し冒険者の成長を手放しで喜ぶこともまた憚られる、種々の事情がある」


「事情と、言いますと……」とソウタは恐る恐る尋ねた。何となく、中層に達した彼らの功績を称賛する空気でないことは薄々感じてはいたが、こう面と向かって難色を示されると流石に反感を覚える。


「いずれも君たちの責に帰するとは言えないが、まず、ダンジョン『ヘカテー』が、この世界から完全に消失した」


「あきませんの? あんなん魔物生み出しよんねやから、無くなったら一つ平和に近付いたんちゃいます?」


「『戦争』というものが、『良い国』と『悪い国』との戦いではないように、『ダンジョン』というものもまた、この世から消えれば世界中の誰もが幸せになるというものではない。世の中というのは、君たちが考えているより複雑なものだ」とメシアンは噛んで含めるように言った。


 彼の説明によると、ダンジョンは魔物を生み出し、近隣の農村や都市に脅威を与えるものである代わりに、豊富な資源を提供していた。冒険者が持ち帰る魔石や、ダンジョン・コアの発する膨大な魔力は、貴重な資源として恩恵をもたらしていたのである。


「本来、冒険者個人の交際関係は、ギルドの関知するところではない。だが、その中に【冬の魔女】バーバ・ヤーガがいるとなれば話は別だ。誠に驚くべきことだが、ゴズ・イワオ君、君とバーバ・ヤーガは交際関係にあり、今回のダンジョン『ヘカテー』の消失は、彼女が君を守るために起こしたことだということで相違ないな」


「はあ、まあ、そうですね」とイワオは気の抜けた返事をした。


「力を持った魔女は、その個人一人で自然現象そのものと同程度の存在と言っていい。『山』とか『海』とか、そういうものと同等の存在だ。バーバ・ヤーガの場合は『冬』。大陸の全てを雪と氷の下に埋め、あらゆる生命の営みを否定するだけの力を持っている。

『冬』というものが恋をする、私にはそれがどういうことなのか想像出来ない」


「いや、ちゃうちゃうちゃう」とイワオは掌を顔の前で振った。「例えの方で考えるからおかしなんねん。女が恋をすんのは普通のことですやん。その女を勝手に冬に例えて、『冬が恋をするとはどういうことか』って考えたら、そらワケ分からんようなりますて」


「いや、そんくらいどエラいことやいう話やん。雰囲気出してはんねん。ロマンチックやんけ。冬が恋すんねんで。『太陽と北風』みたいなことやん」とソウタはメシアンを援護した。イワオはしばしば、こうして雰囲気をブチ壊しにすることがある。


「それ多分、例え成立してへんで。とりあえずで言うたやろ」


 メシアンは決まりが悪そうに咳払いをした。話の主導権を取り戻そうとする、意図的な感じのする咳払いだった。


「君たちが、異世界からの転移者だという話も聞いている。この世界の事情を良く知らぬのも無理からぬことだ。君たちが今回、中級冒険者にけしかけた勝負は、図らずも浅層で活動していた冒険者たちを煽動することになった。今次のスタンピードの原因は、潜入する冒険者の急激な増加に、ダンジョンの防衛機構が働いたものだ。

 君たちにはこの世界のことをもっと知ってもらいたい。そこで、君たちを、この世界の学校に編入させるよう手配している」


「嘘やん。学費誰が払いますのん」とソウタは言った。冒険者として働き詰めでも食うや食わずの日雇い労働者である彼らに、そのような経済的余裕はない。


「ギルドが持つ。最低限の生活費もだ。その代わり、卒業後はまた、当ギルドの専属冒険者として最低5年間の勤務を約束してもらう。『ヘカテー』が消失したからといって、冒険者の仕事が無くなるわけではない。魔物の脅威は依然として無くなってはいない」


「これは、ええ話なんちゃう? 俺はともかく、お前にとっては」とイワオは言った。


 つまり、彼女の出来る確率が数段上がるということだ。同じ年頃の男女が無作為に集められる場所である。男女の出会いの場として見た時に、『学校』ほど量・質共に、優れた場は無い。『学生の内に恋人が出来なかった者が、その後恋人が出来る確率は低い』と言われるのはそのためだ。その上、働かずして生活の保証まで付いてくる。


 しかしその前に一つ、どうしても確認しておかなければならないことがある。ソウタは意を決して口を開いた。


「共学でしょうね」


 これまで一度として表情を崩さなかったメシアンは、この時初めて、苦い顔をした。



ここまでお読み頂き有難う御座います。


タイトルの通り、「そうだ、学園ものを弄ろう」と唐突に思ったので、今回思い切ってその方向に舵をきりました。


いわゆる『ギルド・マスター』として登場してもらいましたオリヴィエ・メシアンという名前は、フランスの作曲家の名前です。

メシアンは音楽家として成功したばかりでなく、とても頭が良かったそうで、神学者、鳥類学者としても活躍したそうです。本文とは全然関係ないですが。


今回のお話は、真面目な話を勿体ぶって話す人を茶化すことを目的にしていましたが、その前にダンジョンが消えたという展開を持ってきてしまったために、そのことに対する反応に字数を割かれ、あまりギャグを詰め込めなかったのが反省点です。


お話の濃度とギャグの配分はこれからの課題です。


宜しければ、ご意見などお聞かせ下さい。


今後とも宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >『冬』というものが恋をする おしゃれなセリフ [気になる点] まさかの学園編 嫌われる事の多い学園編、どうなっていくか楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。