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21.Diver down①

 大挙して押し寄せる冒険者の群れに、浅層の魔物は次々と蹴散らされていった。


 ダンジョン内部には地図にも記されていない抜け道がいくつもあり、ベテラン冒険者たちは、ダンジョンがその内部構造を不定期に変化させることも含めて、勘と経験から最速のルートを適切に選定することが出来た。


「俺たちは厄介な魔物の出る地点を迂回してる。実力からいってそれが一番早いからな。だが、高位の連中は真っ直ぐ最短ルートを進んでいるだろう。アイツらにとっちゃ、ここらで出る魔物なんぞ厄介の内に入らねえからだ。モタモタしてると差が開く。一緒に立ち止まって闘うな。どんどん先進め!」


 ソウタとイワオはその言葉に押されるように、人垣をわけて駆け抜ける。


「コッチだ!」と先に進んでいた剣士が声を上げて彼らを招いた。ソウタが初めての討伐任務で同行したパーティーのリーダーである。名を、グラハムと言う。「これは俺のパーティーが最近見つけた抜け道だ。一気に三十層まで降りれる。ウチの2人が先に降りてる。行くぞ」


 グラハムはそう言って、深い竪穴にかけられた縄梯子に足をかけ、ゆっくりと降り始めた。


「グラハムさん! 早く降りて来てくれ! 魔物が増えて来やがった!」


 先に降りていたという戦士の声だ。


 グラハムは後続に向かって一声増援を呼びかけ、梯子を降りる足を早めた。ソウタとイワオもその後に続く。


 この一週間の間、ソウタとイワオも縄梯子を使って階層を跨ぐ竪穴の降下は経験してきたが、グラハムの降下は目を見張るほど速かった。


 瞬く間に深い闇の中に消えると、その先から「無理せずゆっくり降りろ! 足踏み外したら元も子もねえぞ!」と聞こえる。


「兄さん、優しすぎや……」ソウタは呟いて、己に檄を飛ばす。「ここまでしてもろたら、勝たなアカン」


 一声上げて、飛び降りる。


「ソウタ! アホお前、どこで熱なっとんねん! 早いわ! まだ先長いねんぞ!」


 下から「ぐえっ!」と聞こえて、イワオは血の気が引くのを堪えて声をかけた。


「大丈夫か!」


「大丈夫や! 背嚢がクッションなって助かった! アカンわこれ! 気いつけな死ぬで!」


「お前が言うなアホ!」


 梯子を降り切った時、まず目に映ったものを、イワオは石の柱だと思った。が、次の瞬間にはそれが大きく持ち上がり、鋭利な先端を地面に向けて突き刺すように打ち付けたのを見ると、出てきた言葉は「デカ……」という一言のみだった。


「イワオ! お前の大好きな虫の魔物じゃ! ほら、蜘蛛やで! 蜘蛛やったらイケんねやろ!」


「こんなん、もう虫やあれへんわ! ほとんどロボやんけ」


 イワオの倍はあろうかという蜘蛛の魔物が3匹、グラハムのパーティーとソウタを取り囲んでいる。


 その内の一匹が、グラハムを目掛けて飛び掛かった。


「『プロテクション』!」イワオは叫ぶ。


 グラハムの目の前に唐突に現れた光の壁が、蜘蛛の突進を遮った。バーバ・ヤーガに搾り取られて魔力を上げるかたわら、その合間に教わった新しい防御魔法である。


 開いた口目掛けて、ソウタが矢を放つ。


 イワオは力任せに戦斧を振り、大木に打ち付けるように目の前の蜘蛛の脚を斬った。


「やるな!」とグラハムが叫ぶ。


「いや、脚の先っちょ斬っただけですわ」


「イワオっつったか? お前こっちに来い!」とローブを着た魔道士が声を上げた。


 それに従い、イワオは蜘蛛の脚を避けながら、密集して互いを守り合う一団の中に入る。


「防御魔法で俺たちを囲めるか?」


「やります!」イワオはすぐにまた防壁を張る。


「上出来だ。キープしろ」魔道士は杖を握って念じ、叫んだ。「『インフェルノ』!」


 三十階層の大ホールを、逆巻く炎がごうごうと唸りを上げて埋め尽くし、巨大な3体の蜘蛛の魔物を、灰も残さず消し去った。


「エグっ! 兄さん、大魔道士ですやん!」イワオは堪らず歓声を挙げた。


「いや、俺はこれで空っケツだ。あとは後続に呼びかけながら退がる」そう言うと、魔道士は杖を担いで、縄梯子のあった竪穴の方へ向かった。「ああ、梯子燃やしちまったわ。おおい! 誰か、上からザイルか縄梯子下ろしてくれ!」


 程なくして、上から梯子が下されたのを見ると、イワオはその魔道士に向かって深々と頭を下げた。「兄さん、最高でした」


「俺たちが浅層で魔物狩ってるから、お前らが安全に経験を積めるって言ったの、あれ、結構沁みたぜ。こんな商売やってりゃ、どっかでは絶対、才能の壁にぶち当たる。俺には、深層どころか中層に潜る才能も無かった。だが俺たちのやってたことには意味があったって、俺は救われたよ。負けんじゃねえぞ」


 イワオはそれから魔道士が梯子を登り始めるまでの間、頭を上げることが出来なかった。


「あいつの一発は凄えだろ」とグラハムは言った。「一回使い切りだが、あの一発でパーティー全員を救えんだよ。あれがあるから俺らは安心してダンジョンに潜れるんだ」


 それから後続の到着を待ち、彼らは先へ進んだ。


「ところでお前ら、異世界から来たって?」グラハムが言うと、彼の仲間の戦士も思い出したように頷いた。


「そうそう、それにしちゃ、地味なことやってんな。異世界から来た連中は大概上位クラスのスキルやらステータスやらあるもんだけどな」


「それが、あれへんかったんスよ」とソウタは膝を叩く。「ホンマ、俺らのいた国ってごっつ平和で、俺やイワオなんて喧嘩もろくにせえへんかったんすから。魔物どころか野犬1匹おれへん、犯罪だってあるにはあるけど普通に生きてたらまず命の心配なんてあれへんようなとこから来て、ダンジョンで魔物狩るなんて、出来るわけありませんやん」


「やってんじゃねえか」


「こうやって助けてもうたからですやん」


 グラハムは笑った。「持ち上げてんじゃねえよ」


「いや、ホンマ、右も左も分からんようなとこでいきなり目え覚まして、魔物やなんや、戦わんと飯も食われへん世界やったら、チート・スキルでもあれへんかったら普通死にますて」


「まあ、どこの世界でも結局、助け合いだわな」


「ホンマですわ。世界なんて関係あれへん。結局は人やねん」







「蛇だ!」「鰻だ!」「蝙蝠だ!」と四方八方から襲いくる魔物を食い止め、蹴散らし、踏みつけて、彼らは進んだ。


「ウナギ?」とイワオは聞き返したが、ソウタがそれを遮った。


「余計なこと考えとる暇あれへんぞ。魔物多なってきてるやん」


 当初は30人からいた浅層のベテラン冒険者たちは、ダンジョンを深く潜るにつれその数を減らし、今や10名を切っていた。それも戦線が伸びきって、誰がどこで戦っているのかも判然としない。


 しかし、彼らは兎にも角にも、五十階層まで漕ぎ着け、その奥部、いよいよ五十一階層へと続く竪穴があるという、空洞の前まで辿り着いた。


「ここから先は、別世界だって話だ。正直、俺たちは五十階層まで潜ったのだって初めてだ。普通これだけの人数揃えてダンジョン潜る機会なんてねえからな。お前らやっぱ、何か持ってるよ」グラハムはそう言って、空洞をランタンで照らした。


 その時である。


「引き返せ!『スタンピード』だ!」


 通路の向こうから、湿った洞窟の岩壁を反響して響き渡ったその声の致死的な響きに、彼らは息を呑んだ。


 ランタンの光を照り返す湿った岩壁は粘膜質の光沢を放ち、それに比して、どこまでも暗く口を開けた中層への竪穴は、彼らを手招きするような、不思議な引力を感じさせた。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


今回はややガチめにダンジョンに潜る話を書きました。


サブタイトルの『Diver down』は、ジョジョで言うと6部ナルシソ・アナスイのスタンドですが、

元ネタはヴァン・ヘイレンのアルバム・タイトルで、『今、ダイバーが潜っているぞ』ということを示す旗のことらしいです。

「今、冒険者たちがダンジョンに潜っているぞ」というわけです。


さて、グラハムのパーティーの魔法使いについてですが、私はこういうピーキーなザコが好きです。

使い勝手は超悪いけど一発がデカいみたいな。そしてその一発をかましたら、その時点で役目を終え、悪びれもせず離脱するみたいな。


皆さまは、どういうタイプがお好きでしょうか?


宜しければご意見などお聞かせ下さい。

今後とも宜しくお願いします。

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