19.大和男子と生まれなば
「ええ……そういうワケでして……」
ソウタの説明を、転職神殿の職員(ハロワのお姉さん)は腕組みをしながら渋い表情で聞いていた。これまで便宜上『ハロワのお姉さん』と呼んできたが、彼女の名前はアンナと言う。
「何してるんですか。噂になってますよ。初級冒険者が中級に喧嘩を売ったって。
彼らも上手く他のパーティーと連携して実績を積んでる冒険者ですからね。経験はありますよ。少なくともあなた達よりは。ちゃんと謝って、勝負なんかやめた方がいいです」
「いや、そうは言うても、男の意地があるやん。向こうは覚えてはるか分かれへんけど、俺からしたら尊敬する先輩やねん。あない馬鹿にされて黙ってられへん。それに、イワオは自分の女コケにされてんで」
「これで黙っとったら男やあれへん」とイワオも表情を変えずに言った。強い怒りと決意の滲むような短い言葉だった。
「せや。こんなんでピヨピヨいいよんねやったら、股の間にアレ挟んでホッソい煙草吸うてかなアカンわ」
「それ、『男やあれへん』いうことをホステスで例えたん? 分かりにくいわ」
アンナは「はぁ……」とため息を吐いた。「私、言いましたからね。やめておいた方がいいって」
「分かってるて。誰も責任なんて言わへん」
「当たり前じゃないですか。最初から私に責任なんてないです。で? 勝負の内容は?」
「ちょうど一週間後、ダンジョン『ヘカテー』で一発勝負。深く潜った方の勝ちや。持って帰った魔石で階層分かんねやろ」
「パーティーの増員は?」
「別に決めてへん」
「だったら、強い冒険者を仲間に付けた方の勝ちじゃないですか」
「まあ、理屈はそうやろけど、俺らはそれはやれへん。それやったら勝ったことになれへんやん。アイツらもプライドあんねやったら、それはやれへんやろ」
「分かりませんよ。プライドがどういう形をしているかは人それぞれです。彼らはこれまでも、他のチームと共闘してうまく実績を挙げていますからね。そのやり方を通すことがプライドを傷付けるとは限りません」
「確かにな。ルールありきのスポーツちゃうねんから、ええ仲間連れてくのも実力の内や」イワオが言った。
「言うても、最後の層で手に入れた魔石が、他のパーティーの奴に譲ってもうたモンやったら、いちゃもんつくくらいには思うやろ」
「せやな。ほいで俺らは何層の魔物までやれんねやろか。ヤバいのは、それが分かれへんことや」
「けど、どこまで潜ればええのかは分かってる」
「なんでやねん。俺らまだ二層までしか行ったことないねんぞ」
「五十一層や」とソウタは言った。
「根拠はなんやねん」
「そこからが『中層』やから。アイツら、これから中層入ろうと思ってる言うてたやん。つまりまだ入ってへんねん。
強い冒険者に付いてって、自分らが安全に行動出来るギリのところまで行ったら帰って来んのがアイツらのスタイルや。格上の冒険者はそこまでの間は体力温存出来るし、アイツらは本来自分らが単独で行けるとこよりちょっと深い所まで潜れるっちゅうことで、互いにメリットがあんねん。
せやけど、さっきイワオが言うたみたいに、結局最後の層では自分らで魔物狩らな、勝ったことになれへん。
アイツら、まだ単独で中層の魔物狩られへん思てるハズやねん。そうやなかったら、高位に付いてってまだ中層入ってない理由があれへん」
「なんやねん。アイツらそれで中級名乗っとんかい」
「中層を境に、先へ進める冒険者の数はぐっと減ります。ですから、三十層以下で安定して活動出来る冒険者は中級扱いなんです」とアンナは説明した。
「要は中層の魔物を単独で1匹狩ったら俺らの勝ちや。ゲームやないねんから、ホンマは無茶せずコツコツ行こ思ってたけど、やめたわ。そない悠長なこと言うてられへん」
「せやな。自分が出来るとこまでやるんやない。ここまでやったら勝ちやいうとこまでやんねん。俺は行くわ。自分の女コケにされて黙っとく男やないって示すことは、俺には命張る価値があんねん。せやけど、お前はええんか? 別に先輩言うても名指しやったわけでもないし、そこまで危険冒す意味分かれへんねんけど」
「お前が命張るいう時に、『行ってらっしゃい』言うだけの奴やったら、ナニ股に挟んで居間でテレビ見ながら煎餅食うて、気が向いた時にママ友と飯行っとるわ」
「『男やあれへん』いうことを主婦で例えたん? 長いし分かりにくいねん」
「結局、どっかでは無茶せな、強くなんかなられへんねん。俺らはもう、平和な日本の高校生やないねんから。命が絶対第一優先て価値観は、平和な民主主義国家に捨ててきたったわ。前の世界がなんとなくオモんないのは、俺らが命張って来えへんかったからや。
命張るほど熱くなるようなことがあれへんかったんやないねん。命張ってへんから熱ないねん」
「おお、ええこと言うやんけ。逆にサブいわ」
「お前ホンマ、そういうとこやで。人が熱なってる時に、急に冷まして来よるやん」
「いや、それはごめん。基本的には同意してんねんで」
「全面的にしろや。まあええわ。何にしても、まず必要なのは、強い武器やな」とソウタが言うのを、アンナが否定した。
「いいえ。地図です」
「地図?」イワオが首を傾げる。「そんなもんあんの? ダンジョンって形変わんねやろ?」
「ええ、ですから、都度更新されたものがギルドで買えるはずです」
「はえー。知らんかったなあ」
「本当に、ちゃんと準備しないと死にますよ」アンナは呆れたように言う。「それから、イワオさんが回復に専念出来るとは限らないんですから、回復薬も必要です。食糧も。それを入れる、大きい背嚢も」
「そういうノウハウを、早い段階で教えてくれればなあ……」とソウタが呟くと、アンナは激怒した。
「だって、いっつも最後まで話聞いてくれないじゃないですか。いっつも途中で、関係ない、私に分からない話して。いっつも! いっっっっっつも!」
「ごめんて」2人は謝った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
前話で持ち上がった勝負について、勝利条件の設定と状況を説明する回です。
一応ハロワのお姉さんを使ってオチを付けたつもりですが、やはりこういう説明回を面白く書くのは難しいですね。
それと、ハロワのお姉さんについては、当初予想していたよりも登場回数が多くなって参りましたので、名前を付けさせてもらいました。
タイトルについて、『大和男子』は「やまとおのこ」と読みます。『歩兵の本領』という軍歌の一節から引用しています。
私は右翼ではありませんが、軍歌の、勇しさと儚さの中に、ほのかに香る歪さというか、不健全さが好きです。勝利を歌っているけれども、そこには分かち難く死の匂いを漂わせているところが胸を打ちます。
次話では、またライバル冒険者との絡みを入れて、少し肛門をいじろうと思っておりますので、肛門の好きな皆様にも、是非お目通し頂ければと思います。
宜しければご意見などお聞かせ下さい。
今後とも、宜しくお願い致します。




