TIPS21 これより入口へ
薄暗い地下空間。
かつては地下街の周辺通路としても利用されていたが電気はすでに通っていない。
手元にある灯りとわずかに入ってくる外の日差しが頼りだった。
「ここにもいないか」
ARモードでは出現しないと思っていたレイドボスのバロウ。それが現れただけではなく、感染型の状態異常が多くの人に対してもたらされてしまった。
現在では全ての人がプレイヤー扱いされ、おまけにNPCも確認されている中、感染拡大スピードは尋常ではなかった。
それでも感染した人を一時的に隔離し、症状が終わるまで回復アイテムで耐えて時間経過によって状態異常が消えるまで待ったりもした。
さらにはどういった状態異常かを周知することでむやみやたらに広がることはなくなり増加率は緩やかに下がっていった。
ただ、この状況を面白がってあえて自分が感染状態になり人々に移してしまう愉快犯が出てきてしまったのも事実。このようなパンデミックともいえる状況を打破する一番単純な方法はバロウを倒すことだった。
倒すことでバロウ由来の状態異常は消える。
しかし、
「移動すると言ってもそんなに遠くには行かないんですよね?」
「ああ、それにいつでも移動できるというわけではない。その周辺にとどまらなければならない時間はあるからな。だからまだ近くに入るはずだが……」
「暗くて広い場所、特に地下……そこがバロウが出現するポイントのはずだけど。ここも駄目だとするともう少し北らへんかしら」
「そうだな、次はそっちを当たってみるか。今回の騒動で俺達に協力してくれる人も増えた。人海戦術でしらみつぶしにしていけばいずれは発見される」
「それにしてもこの辺りは地下空間が入り乱れていますよねぇ。こういった通路もそうですし、建物の下の駐車場やなんでしたっけ、排水施設?とか」
「それに地下鉄多いもんねぇ、前までは便利だと思っていたけどこういう状況だと嫌になっちゃうわ」
「おまけに特区ができる際にこの辺りでも大規模な工事があったらしい」
「え? 特区ってそれなりに離れているんじゃないんですか?」
「確かにそうだがこの辺りは人口密集地だからな、今でも。輸送のための新たな地下鉄用線路や一時的に物を置くための場所の増設、さらにはそういった大規模工事に便乗して万が一の有事のために国家戦略で地下の工事がかなり進んだと聞いた」
「うへぇ……じゃあ思ったよりもずっとキリが無いんじゃ……」
「そうなのよねぇ、下手したら、っていうか確実に一般的な地図にも無い場所があるわ。おまけにその地図と今見える景色も微妙に違うし。こうして実際に少しずついそうな場所を探し続けるしかないのが辛いったらありゃしない」
「ただ、そんなことは言っていられない。隔離と時間経過であの呪いが完全に消える保証はほとんどないからな、本丸を叩くしかない」
「そこは班長の言う通りね。こんなことで私達が住んでいる場所がボロボロになるなんて嫌だもの」
「あの……、すみません」
「どうした?」
「さっきから妙に崩れた感じになっている場所とかありませんか?」
「まあところどころ浸蝕と風化が必要以上に進んでいるのは知っているが、よく見てみるとこの辺もそうだな」
「でもこんなのあれ以来普通に見かける風景じゃない?」
「いや……、うん、そうですよね。先を急ぎましょう」
*
「……そのことは本当に悪かったって」
『あんなに危険は回避しろって言ったのに……本当に反省しているのかしらねぇ? でも無事で何よりだったわ。それで、もうすぐ着くのね』
「うん、この後来る列車であと1時間もかからない」
『分かったわ。あとあの二人を助けてくれてありがとうね。改めてお礼を言うわ、じゃあ』
「じゃあね」
「あ、そうだ、待って。いや、まだいいかしら。ではまた」
「ん? うん、じゃあ」
「はぁ、やっと終わった」
連絡を終えるや否や隣にいた花耶がそうつぶやく。
「まあそう言うなって。この連絡はしょうがないだろ? 向こうだって安全を確認したいだろうし」
「やっぱ次から私が連絡する」
「いや、さっきもしたけど話の脱線が……」
「次からは必要事項だけ話すから、それでいいでしょ」
「じゃあ一応近くで聞くから次はそれで」
水面ちゃんを本来住んでいる場所に送り届ける際に無事かどうかを定期的にギルドに連絡することになっている。
スンダマとの戦いは危険だったとすぐに判断されたため、少しだけ注意をくらってしまった。
ただ、状況が状況だったことは理解してくれたようでそれ以上の事は追及されなかった。
「それにしてもこの辺りから列車が通っていて助かったねぇ」
「ホントそれ、この距離を歩きだって考えたら……」
「でもよくあの年代の交通インフラが残っていたわね」
「そうですよねぇ、しかも上り方面に向かうにつれてもう少し増えるみたいですし」
(あれ、そういえばこの路線ってなんであったんだっけ? 確か、昔の開発で……)
「来たよ!!」
水面ちゃんが遠くから警笛を鳴らす電車を確認した。
「人も少ないみたい。また座れるのは助かるわ」
そして、止まりかける車両の中を花耶は見る。
「これに乗ったら、いよいよですね」
この先は、少なくとも記憶の限りではアキラちゃんにとっても初めての地だ。
「うん、ようやく目的地の入り口だ」
さっき、気になりかけたことは気づけば頭の片隅に追いやられていた。
そして俺達を乗せた列車は発進する。




