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TIPS20 VR宇宙

「これで良し……っと」


 目の前の大蠍が倒れ込み、周りからは「おおぉ……」という声が漏れる。


「じゃあ僕達はこれで」


「ありがとな。それにしてもこいつをのしちまうなんて本当に強いんだな」


「いえ、僕が来た時には結構なダメージを負っていたので、多分皆さんがかなり攻撃を加えていたんだと思います」


「お、嬉しいこと言ってくれるね。でも自分達の町は自分達で守った方がいいって思っているのは事実だ」


「あの巫女さんにも俺達の想像以上に心労をかけちまったようだからな」


「そういうことで、もう少しだけ練習してくるわ。ありがとな。」


 そう言いながら炎山達の前を彼らは去っていった。


「はい、二人とも飲み物! まああんな気の利いた薬じゃなくてただの水なんだけどね」


「いや、今はこれが一番欲しかった。ありがとね」「助かる。それにしても今日は一段と暑いな」


 3人は日陰に入り少しだけ休憩することにした。


「ちょっとした浦島太郎だな」


「え、なんて?」


「ああ、悪い。急に変なこと言っちまったな。俺がしばらく眠っている間にさ、町の人達変わったなぁって。前までそんなにモンスターを倒すのに積極的じゃなかっただろ?」


「んー、厳密に言うと一哉が目覚める直前までは変わっていなかったと思うよ」


「どういうこと?」


「スンダマ様、っていうか結局は人為的に作られたモンスターだったんだけど。アレがどういうものか、そして何があったかが分かってから皆動き出したはずだから」


「じゃあほとんど日数経っていないってことか」


「もともと皆自分達でどうにかしようって気持ちはあったんだってことね」


「そのきっかけを作ったのが炎山もそうだけどあの人達ってわけか……」


「そうだな。それに一哉を目覚めさせてもくれた」


「いつか恩返ししなきゃだね」


「本当、杏子の言う通りだわ。あ、そうだところで杏子さ、」


「ん? 何?」


「その……、みやびさんはあれからどうなってるの?」


「今ちょっと忙しいみたいだからなぁ。でもあまり暗い表情じゃなかったから前よりは心配無いかも」


「忙しいって宮山会の事で?」


「ううん。そっちは意外と大丈夫みたい。どっちかって言うとゲームの事でかな」


「みやびさんならモンスター退治くらい大丈夫じゃないのか?」


「いや、モンスター退治とかじゃないの。そもそもARモードじゃないから」




   *


 VR宇宙空間。

 VRモードの中でも異質な場所で星間を進むためには船かロボットが必要になってくる。

 ただ、燃料やスピードを考えると大抵は船に乗り、ロボットは船内に収容されるのが一般的だった。

 そうやって宇宙空間を移動していく。

 そして、彼女達も例外ではなかった。


「二人ともありがとうね」


「全くよ、ギルドを抜けたと思ったら次は宙域進出を手伝ってくれだなんて」


「ふふふ。でもあなた、みやちゃんから連絡が来て飛び跳ねて喜んでいたじゃない」


「な!! そ、それは……」


「そうなの? 私もそれが聞けて嬉しいわ」


「だからそうじゃなくて!」


「まあまあ。それに礼には及ばないわ。どちらにせよ私達も出現ポイントがもう少し欲しかったもの。今の常駐艦だけじゃ足りないしそれどころかいつ壊されるかわからないから」


「破壊活動があるって本当なのね」


「活動って程組織化しているはずはないと思うんだけどね、当初の予想だけど。あの戦争の勝利以降私達はかなりの恩恵を得た。しかも、今はそこで手に入れたアイテムや素材がリアルで影響力を持つからますますありがたいわ。けれど……」


「それを面白くないって思う連中がまー多いこと、多いこと。まあ逆の立場だったら私もどう思うかわからないけど」


「でもそんなに多いならやっぱり私達三人と一隻だけじゃあ……」


「いいえ、ここの宙域もあなたの欲しい素材がある場所もまだ大丈夫なはずだけど」


「ねーそれフラグ。先日もこの辺りで3隻やられたんだろ? しかも、艦隊相手じゃないらしいし」


「リターが潜んでいるって事?」


「いいえ、火力と戦闘時間からフィストンかもしれないって」


「そんな!?」


「でもあくまで予想よ、予想。ただ、実際に遭遇したらまずいかもしれないけど」


「まーたフラグ立てる。でもうちらが持っているのは量産型だからなぁ。それなりに強いけど」


「ワンオフ型なら対抗できる戦力だけどそれは大戦でかなり消耗してしまったから絶対量は少ないわよねぇ」


「中部総合んとこにはまだあるんだろ?」


「そうだけどあくまで幹部クラスよ。それにその機体だってボロボロになった後に大規模な改修をしたらしいし」


「うちのギルドも大分やられたっけなー。改修よりも今はARの方が大変だし、しばらくは出撃できないよなー」


「ねえ、ちょっと思ったんだけど大戦には参加していないけれどもワンオフ型を持っている人っているのかな」


「そんなプレイヤーいるぅ? いたとしたら相当物好きよ、だって当時はワンオフ型なんてRMTで相当な額だったし。特に上位コラボ機とかは」


「ふふふ」


「なに笑ってんだよ」


「いいえ、ごめんなさい。なんかみやちゃんがやってきて昔を思い出したなー、なんて」


「確かにそうね、久々に楽しいわ」


「まあそれはわかんなくもないけど。それで、あんたさ、やっぱり私達のとこにもう一度……」


 ドオン!! ドン!!


 会話を妨害する爆音が響き、3人は船内のモニターを各々確認する。


「何!? どこから?」


「右舷の方ね。識別は……これは!?」


「あははは、さっきの本当にフラグになっちゃったかもね」


「出るわ」


「出る、ってその機体で!? 無理よ」


「どのみちこのままだと船ごとやられて3人ともログアウトよ。それなら少しでも被害が少ない方がいいわ」


「ったくしゃーねーなー。私も出るよ、あれもギルド的には撃破対象だから」


 なおもその機体は接近しながら攻撃を浴びせてくる。回避行動も気休めでしかなかった。


「威嚇射撃じゃなくていきなり攻撃だもんね。船の操縦は任せて」


「本当に何度お礼を言っていいものか、ありがとうね」


「もー、水くさくなっちゃって。なんとかして振り切るから、お願いね」


「ええ」「あまり期待はすんなよ~」



   *



「あーあ、やっぱりフィストンタイプだ。ってかその中でもヤバい奴じゃん」


「こんなものまで……、残党って勢力じゃないわね」


『ほう、その機体で私達に挑むつもりか』


「おいおい、余裕かましてんじゃん。オープン回線なんて」


『あれー?? 返事が無いねー、ノリが悪いな~』


『そう言うな。あちらにはあちらのやり方ってものがある。だが、』


 みやび達が乗る機体。

 宇宙VRモードで扱うロボットの種類の一つ、リタータイプよりも3回りは巨大なそれに見合った剣を取り出す。


『私達には事情がある。なので申し訳ないが倒させてもらおうか』


「申し訳ないって思ってるんなら攻撃してくんじゃねーっつーの!!」


「複数のパイロットがいるってことは……」


「ああ、アレを使ってくるな」



   *



『ふぅ~、こんなもんか。まあ量産型にしては頑張ったんじゃねーの?』


『まさかバッズがこうも撃ち落とされるとは、大戦経験者か』


『でも悲しいねぇ。装甲も火力も砲門こっちはずっと上だからさ、じゃあ早速あの船を……』


『いや、それはできないようだ』


『なんでだよ、追いつけば撃沈できるだろ』


『その追いつくことができないのだよ』


『え?』


『スラスターもブースターも損傷が激しい』


『あ、本当だ。バッズの操作で気付かなかったぜ』


『どうやら彼ら、いや彼女らかもしれないが向こうなりの目的は達成したようだな』


『でもそれって最低限の目的だろ。やっぱりあんな機体程度じゃ相手になんねーなー』


『挑発はそれくらいにして、私達も戻るとしよう』


『了解っと』



 VR宇宙で撃墜されたらその場から再び出撃して仕切り直しできるわけではない。リスボーン地点の船を設置しなければ振り出しに戻される。そうやって、適切な航路と出発位置を確保できない勢力にとっては宇宙進出プレイはひたすらに厳しい。


 そのことを今まで以上に現実世界に戻った高野みやびは痛感した。

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