TIPS18 月面基地での会話
「――報告は以上です」
「分かった、大佐もご苦労。ペレスヴェートの中破はかなり痛いものだが幸い回収の目途は立っているようだ。それにしても、最後の話は本当なのかね?」
「はい。あくまで可能性の一つには過ぎませんが。それに伴いすでに乗組員の伝手を頼って各国の有志に賛同を呼び掛けております」
「そうか…… にわかには信じられないがそんなことが。ただコントロールの奪取と精密射出を考えるとなぁ、わかった。また動きがあれば報告してくれ。解散」
「では失礼致します」
Gハイブ制圧作戦はあっけなく失敗した。漂流しつつあった乗員は作戦地点から見て地球よりはずっと遠いがそれでも救助船が充実していた月面国際共同基地に一時的に避難した。
その報告をした後、廊下をふわりと歩きながらようやく一人が口を開く。
「首の皮一枚つながったな、大佐にはなんと礼を言っていいものか」
「いえ、私は何も。今回の作戦は急ぎ足なのは事実ですし准将もその事を理解していたのでしょう」
「あの……」
「どうした?」
「僕達はこれからどうするんでしょうか? 地球降下の予定は組まれていないようですが」
「まだ全容は伝えられていないがこの後、各国から船が集まる予定だ」
「この基地にですか?」
「ああ。と、言っても宇宙航行可能な技術を持った国のみだがな。目的は当然あのハチの巣の奪還だ」
「なるほど、船が集まれば飽和攻撃も可能ですしね」
ペレスヴェートの艦長を務めた准将が口を開く。
「一応それも作戦の一つだと思うがおそらく厳しいだろう」
「そうなんですか……? では、なぜ……」
「単純な物理攻撃と言うよりは電子戦を行うのに船が多くあった方が良いらしいからな。それにそれぞれの国が所有している虎の子を使いたいんだろう。まあいずれにせよ世界初の宇宙連合艦隊が出来上がる可能性がある」
「ははは…… それはまた、なんというか、壮観な光景になりそうですね」
「ただ、編成まで最大2か月、あるいはそれ以上かかるらしいがな。それより大佐、」
「はい」
「アメリカの例の船は?」
「先日、日本からの最後の部品の打ち上げが行われ、軌道上で組み立てが完了したようです」
「そうか、ついにか」
「はい。名はノースカロライナ、この基地まで110時間で到着とのことでした」
「110時間!? ロケットじゃあるまい、いやロケットにしては遅いですがそれでも船でそんな早くなんて……」
「アメリカの技術の粋を集めて製造した言わば国家の威信をかけた船だ。それくらいは当然だろう、むしろ旧式の僚艦に合わせて速度を緩めているという見方もされている」
「じゃあひょっとしたらペレスヴェートよりも……」
「悔しいことだが性能はおそらく上だろう。次世代のさらに次を行くとも言われているし艦隊編成時は旗艦を務めると専らの噂だ」
「加えて、エドマンド中将が搭乗しているとのことだ」
「エドマンド……中将?」
「アメリカ空軍の有名人よ。現時点の元帥候補の一人、地上に残ると思っていたらまさか最前線に乗り込んでくるとはね」
「それだけあちらさんも本気と言うわけだ」
「ということはやはりあの基地が破壊されたって情報は……」
「おそらく事実だな」
「でもそれだけの船と人員があればこの位置から狙撃することもできるんではないでしょうか。ノースカロライナでしたっけ? そちらにも電磁主砲は装備されているでしょうし」
「まあほぼ不可能だな。ペレスヴェートの主砲でもここから射出して着弾まで2時間はかかる。ノースカロライナにどれほどの性能の物が積まれているかは分からないが30分以上あれば余裕で避けられるだろう。そして、避けられた弾は、」
「地球にズドンってわけだ。それに向こうの管制を見る限り寸分狂わず一方的に月へ射出可能だろう。あのでかい針はまだ100以上あるはずだからな、そうしたらこちらはすぐに壊滅だ」
「そうですか…… それにしても、」
「ん?」
「いえ、ノースカロライナの組み立てをみすみす見逃しているのもそうですが月に避難した我々に追い打ちをかけないのは何故なんだろうな、と思って」
「これはあくまで私の推測だが、アレには積極的に人を攻撃する意志は無いような気がする」
「意志? 意志ですか?」
「ああ、そう思わずにはいられない」
「はあ、僕にはそこまでの想像は無くて……」
「あ、そうだ。ところで地球の集団との進捗はどうなっているのかね?」
「現在は40以上の集団、ギルドに連絡が繋がっています」
「そうか、それで動きは」
「仮想世界で変な動きがあったようでそれが関連しているかもしれないとの情報がありました。いくつかの国のギルドがすでに出撃していますね。例えば日本の中部総合とか」
「中部?」
「日本の地名みたいなものです。かなりの規模のギルドらしいんですがそれでも難航しているらしくやはりそちらも一筋縄ではいかないとのことでした」
「そうか、私はそちらに関しては完全に素人だからな。詳しい者たちに任せるとするよ」
ビー――――
基地内に短く音が鳴る。
「来たか」
「はい、この時間だとおそらくオーストラリアかと」
「わかった、それでは私達も迎えに上がるか」
そうして、後に一緒に戦うかもしれない船を迎える者、持ち場に戻る者は散っていった。




