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TIPS17 新規ダンジョンの暗澹

「報告によるとそろそろのはずだが……」


 国内最大規模のギルド【中部総合】に所属する冒険者達。

 ネットワーク上でのつながりよりもリアルでの接点を重視し、ARモードを中心にのし上がっていったギルドの特性が暴走後、そのまま活きたことで広範囲に活動の場を広げている。


「あれじゃないのか?」


 現在の人口密集地には割と近い場所。

 ただ、ほんの少し距離ができれば景色も一変する。

 商業の中心が移っていったことで住む人が減り続け、極めつけは暴走によるモンスターの出現でほぼ無人となってしまった集合住宅地。それがここだった。

 人影が減っていくのに反比例するようにうっそうとして奇妙な植物が出現し始めた。

 これらは現実に存在するものではなくゲーム内で設定された木々と花だった。

 ただ、日々少しずつARゲームと同期する感覚が強まっていくことで現実に存在するように思えてしまう。


 そんな植物の間を分けながら進んでいくと経年劣化と言うには早すぎるスピードでボロボロになったコンクリートとアスファルトで覆われた地面にぽっかりと穴が開いていた。


「2か月前には確認できていない穴だな」


「じゃあ、ここが……」


「うん、報告にあって私達が探していたダンジョン」


「一応この辺りに出現するモンスターは把握済みだが万が一に備えて各々武器は強力なものを選ぶように」


「了解」


「じゃあ先頭は俺から」


「気を付けてくださいね」


 そう言ってこの班のリーダーが先陣を切る。


「‟そう見える”だけじゃなくてちゃんと空洞になっているな。それに念のためにロープを持ってきたが必要ないほどなんというか……」


「急ですがしっかりと階段になっていますね」


「ああ、荒いが進むことは可能な段差だ」


 天井に亀裂があるため、外の光は差し込んでくるがそれでも暗いことには変わりがない。

 小型の懐中電灯を点けながら少しずつ前進していく。


 ギューーッ!!!


 ダダダダダダダ!!!


 芋虫のような、ムカデのような、そんな風貌のモンスターが複数登場するが意に介さず大型のマシンガン型の武器で一掃する。


「ここまでは事前情報通りの敵ばかりね」


「ああ、このままやりやすい相手ばかりなら助かるんだけどね」


「と言ってもこの空洞自体ほとんど調査されていないからな、何が出るのかもわからない」


「私達が最初の調査隊ってわけね」


「本当ならもう少し大き目の規模なら安心なんだがな。神楽坂さんにもそう申請したにはしたが……」


「しょうがないですよ。今はそれどころじゃないですし」


「まさかもう一回あの宙域に出撃するなんて、下手したら何日VRモードで居続けるかわかったもんじゃないわ」


「戦争ではないとはいえ向こうは向こうでまた戦艦を新しく建造しなければならないみたいですし」


「そう思えばこっちはある意味気楽かもな」


 そんなやりとりをしているうちに少しずつ緊張がほぐれていった。


「皆止まれ!」


 和やかなムードが一変する。

 リーダーが前方にいる何かを発見したのだ。


「人……、少年ですかね」


「でもなんだあの服装は」


 かなり薄着だった。

 というかよく見るような服ではなく布を体に巻いたような現実離れした服装。

 

「皆、一応警戒は怠らないように」


 ゆっくりと近づく。

 向こうもうつぶせながらこっちに歩いてくる。


 グスッ、グス


「泣いているの……?」


「坊や!」


 そう問いかけるとハッと前を向いた。


「こんなところで何をやっている?」


「あ、あの……僕達はここに入って冒険していたら……、変なのが現れて、それで……グスッ」


「まあ泣くな。僕達ってことは誰かと一緒に来たのか?」


「は、はい……。妹、双子の妹と一緒に……」


「行方不明リストには無い顔ね」


 リーダーが少年とやり取りしている間に一応どういった人物か確認しようとし、その結果を小声で他のメンバーに伝える。


「要するにモンスターが出てきたことで一緒に来た妹さんとはぐれてしまったわけだな?」


「はい、そうです……グスッ」


「場所はどこか案内できるか?」


「あっち」


 そう言って指さしたのはこれから進もうとしている場所だった。


「一応報告通りならこの先手こずるモンスターもいない。先にそっちから進もうと思うがそれでいいか?」


「ルート通りですしね、それで大丈夫でしょう。それに厄介なモンスターがいたら早めに倒したいですし」


「私もそれに賛成」


「この子どうします?」


「案内してもらうために一緒に来てもらう。真ん中に配置してやってくれ」


「わかりました」



 そして、案内されながら歩き進める。


 途中、やはり様々なモンスターが出現するがそれも問題なく倒し、とうとう少し開けた場所に出た。


「この先は……」


「地図によるとかなり昔にできた排水・貯水用の地下空間ですね」


「こんなところとつながっていたのか……」


「あ! メリィ!!」


(外国の子だったのか? いや、待てよ、あの服装どこかで……)


「あ、兄さん来ちゃダメ!」


「止まれ!!!」


 駆け寄ろうとした少年を制止させるために大声を張り上げる。

 少女の先ほどの発言もそうだがその先に見えたその存在に瞬時に危機感を抱いた。


 そして、後方に待機していたパーティーの一人が青くまばゆく粉をそれぞれににかける。

 特殊予防の効果エフェクトだった。 


「助かる!」


「それにしても……」


「ああ、VR限定のレイドボスだと思ったんだがな」


【魔眼神バロウ】

 暗闇を好むレイドボス級のモンスター。

 体の半分が地面に潜り込んでいる悪魔のような見た目。地面と体の境界には黒い瘴気が漂っている。 

 闇の遠距離攻撃を用いる攻撃性に加えて魔眼を使用したスキルで見た相手のHPを削り続ける感染型呪術の状態異常を用いる。

 

「あの子達にはまだ予防が……」


「分かっている! 一斉攻撃でまずはこっちに気を引き付ける」


「了解」「はい!」


 攻撃が届くメンバーから順次攻撃を当てていく。


「今のうちに逃げろ!!」


「わかりました!!! メリィ、こっち!」


「少しずつ離れているな、10秒時間をくれ」


 そして、遠距離攻撃をしている間に詠唱を完了させたリーダーが手を向ける。

 紋章の描かれた手袋からはまばゆい光線が放たれ魔眼神バロウを貫いた。


「良し、当たった!」


「いや、まずい」


 安堵も束の間。すぐに姿が見えなくなっていく。

 倒したのではない。逃げられてしまったのだ。


「次の出現場所がわからないな」


「追いかけます?」


「いや、今は彼らの保護だ。正直あいつが出るなんて予想外だ。一旦出て体勢を立て直す。報告すれば増員も考えてくれるだろう」


 あの少年が妹を引き連れたこっちにやってきた。


「メリィ、挨拶。この人達のおかげで僕はここに来れたんだ」


「ありがとうございます」


 可愛らしい笑顔を見せながらメリィと呼ばれる子はそう言った。


 *


「本当にありがとうございました」


 先ほどのダンジョンを抜け、彼らを無事外に案内することができた。


「でも良かったですね、あのメリィって子でしたっけ。呪術にかかっていなくて」


「ああ」


「あ……、あぁ……」


 急に何かに怯えたような声を出す人物がいた。


「どうしたんだ? 変な声を上げて」


「僕のHP……がどんどん減っていって」


「嘘!? 私も」


「俺もだ、どういうことだ……」


「あ!!」


「どうした!?」


「いえ、あの子達……おそらくすでにかかっていたんです、バロウのあれに」


「そんなエフェクトが出ていなかったわ」


「……信じられないことですが、いえ、でもそうとしか考えられません」


「な、何よ……?」


「あの子達はおそらくNPCです」


「はあ?」


 少しばかりの沈黙。どう話を切り出していいのか皆わからなかった。

 そして、その空気を破り、


「いや、ありえる」


「リーダーまで」


「人工知能を搭載したNPCの報告はすでにあった。おそらく俺達が着いた時にはあの少女はもう感染していたんだろう。それが兄に移り、消滅時間が来たときは逆に兄から移された。そしてそれが繰り返された」


「僕達の予防期限が来たから今感染してしまって……」


「ちょっと待って、あの子達が向かって行った場所って……」


 その時全員の嫌な予感が一致してしまう。ただ、その規模までは予想できなかった。

   

「ああ、人が大勢いる。どうやらとんでもないものを持ち出してしまったらしい」


 落ち着き払おうとしたセリフとは裏腹に声は震え冷汗が止まらなかった。

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