第七十二話 光聖クラウソラス
ークラウ・ソラスー
アイルランドの民話・神話に登場する光の剣とされる道具。また、神殺しの武器。
ただし、斬ること以外にも照明代わりと言ったように様々な用途があり、また槍として描かれているなど特定の形状に関する考察は未だ続いている。
武器でもあり英雄譚の道具としての概念でもあるこの武器は古今東西様々な創作作品で登場する。
そして、LOADもその一つだったのだが……
*
動かなくなったリョーマにゆったりと近づいていったその怪物。
抱えて逃げるために回り込もうとすると糸の束が妨害する。
狙いを定めた相手には執着するようでいくら焔をぶつけても、迫ってくる糸の束を切り刻んでも注意を引くことはなかった。
彼が倒れてからその時まであっという間だったかもしれないがとても長く感じた。
流しで見た瞬間にリョーマの指先が微妙に動いた気がしたのだった。
直後、あの竜の装甲の間からところどころ光が漏れ、起き上がり、口から光線を放った。
すぐさま後ろに下がり、聞いたことが無いような低音の悲鳴ともいえる叫び声があの巨体が出た。
攻撃が終わって目が慣れた時にはすでにリョーマもふらつきながら立っていた。
でも、何かに注意を奪われているような、そんな感じもする。
注意の先は今戦っている相手ではなさそうだった。
すると彼の持っている剣が淡く光る。
攻撃ではない。
だからこそ驚いた。あちらにも同じような条件があったということが何となくわかったから。
その瞬間を私は知っている。
そう、それは――
*
〈【光聖クラウソラス】に進化しました〉
咄嗟の事だ。
迷っている暇はなかった。
だから躊躇なく「進化」させた。
かつて花耶の剣が同じように進化したのを見たことがある。凄まじい焔が舞い上がり迫りくるモンスターを焼き払っていった。だから、今はこのチャンスをなんとしてでも逃してはいけない、そう思った。
だが、持っている剣は多少長くなったとはいえ見た目はほぼ変わりがない。
特段変わったスキルも見当たらない。
まだ動きにくい体を何とか動かして内容を確認する。
「ありえない……ってわけでもないか」
そして、この武器の特性を徐々に理解した。
驚く内容だったがこのようなものをすでにもう知っている。
だから、すんなり受け入れた。
(問題は……)
「あ!! 危ない、気を付けて!!!」
水面ちゃんが叫んだ。
修復が間に合っていないスンダマだが再生すると思った損傷部分の代わりにあの触手をさらに増やしてきて俺の方に向けてきた。
回復よりも攻撃を優先したようでここまでの自立機能が武器についていたことに驚いた。
逆に言えば向こうはもう後が無いということだが。
それでも自分の体が鈍っているせいでそう感じるのか攻撃に力を回したのかわからないが迫ってくる触手のスピードもさっきよりは早い。それに数も多い。
皆の援護で何本も切り裂さかれ、焼かれ、ちぎれ、潰されはした。
AAももちろん攻撃に参加している。
それでもわずかに手数が足りない。
あの秘薬は数に限度がある。そもそも向こうも戦闘学習しているからもうブラフは通用しないだろう。
クラウソラスを振るってもギリギリで攻撃を防ぎきることができないことがこれまでの戦いで何となくわかった。
そう、この剣が一本だったら……
(実戦でいきなりか……)
でも今はこれしかない。
頭の中でイメージを作る。
そして、いつもは両手で持っている剣を片手で持つ。
直後に軽くなり、空いた手に重さが宿った。
両手でそれぞれ持った二つの剣、双剣で灰色の触手を一本、また一本と斬り落とし、時には刃で滑らせいなし、タイミングを合わせて盾のようにぶつけて、また斬り落とす。
(次はここ、防ぐ、斬る、あとは……)
一部の隙も見せてはならない。
そのため考えることを処理する前に次の情報が入ってくるようだったが自然とクールダウンしているのを感じる。
迫ってきた最後の一本も斬り抜いた。
(今だ!!!)
今度は向こうの攻撃の手がやんだ。
距離も稼いだのでここからはAAでさらに追撃を掛けた。
「初めてだったけど、なんとかなった」
今になって安堵というよりももしもうまくいかなかったら、という恐ろしさがよぎったが今は無事だったことをしっかりと噛みしめよう。
そして、この両手に持ったのは紛れもなくクラウソラスだ。
ただし、双剣の形状に変化している。
AAのようなものだと思ってしまうがそうではない。仕様が全然違うのだ。
戦闘中に武器の形状を切り替えることができるというにわかには信じられない特性だがついさっきまでその変化に助けられた。
いや、‟変化”というのも違和感がある。
一本の剣から双剣になったから、進化前がその一本の剣だったからそれがオリジナルに想えてしまうがどうやらちょっと違うようだ。その一本の剣に「戻す」のではなくあくまで「選ぶ」といった扱いになっているところを見るとこの武器に特定の形は無かったんじゃないのかと思える。
進化によってただ単に選択肢が増えただけのように、そう思える。
だから、この双剣も両手で持つ一つの剣も‟数ある”武器の形の一つとして使っていくことになるだろう。
「リョーマ!!」
AAでスンダマを相手にしている間に花耶達がやってきてくれた。
「大丈夫、さっきの?」
「うん、なんとか。まだふらつくみたいだけど、もう慣れたよ」
「あれって状態異常の一種だったんですね」
「そうだね。ただ、スンダマに元の毒が取り入れられて性質が変わったっぽい」
かつて猛毒や気絶などの状態異常を喰らったことがあるがそのどれともあの感覚は違っていた。
だからゲーム内情報としては何かわかりやすい表示はされなかったんじゃないのかって思う。
ただ、それがゲームによるものだとわかりさえすれば高位の回復薬で治すこともできた。
「炎山君達は……あっちか」
「ええ、タイミングを見て同時に両側から行くわ」
「お兄ちゃん、ところでそれって……」
「これは、なんかさっき持っていた剣が進化した」
「双剣に変わったって事?」
「そうでもあるけど……」
そう言いながら二つの剣が繋がり、伸びた。
「え!!! 何それ!?」
「色んな形になるみたい。まだまだ他の形状もあるっぽいけれどそれはさ、」
そう言いながら徐々にAAを押し返し始めたスンダマの方を見る。
「アレを倒してからゆっくり確認したいと思う」
「そうね、私も行くわ。あなた達は援護をお願いね」
そう言いながら花耶も再び構え、その巨体を見据えた。
両手に構えた武器の形は薙刀状だった。
さっきまでの様な防戦一方ではない、次はこっちも攻め入る。
AAの爪でスンダマの仮面を斬るように引っ掻き、尻尾の突きを加える。
「ようやくか……」
仮面にひびが入ったのを確認した。
これまでの攻撃からかなりの防御がある武器防具の一種のように思えたがようやく突破の目途が立った。
糸の束を触手のように相変わらず伸ばし絡め捕ろうとしてくるがもう勢いも無いし数も無い。
これは油断させようとしているわけではないことは相手の回復状況を見ればわかった。
それらを斬りながら少しずつ距離を詰める。
腕を振り回し直接攻撃してきそうになったら避けて攻撃を入れる。
薙刀の間合いの長さ、切先の威力を実感する。
すかさず近づき、すでに双剣になっていたクラウソラスで引き戻そうとした腕を何回も斬り、再び距離を取る頃には防御と攻撃がしやすい両手剣に変えた。
この一連の変化に慣れたらあとは今までの経験が物を言う戦いだった。
ここに来るまで様々な武器を使ってきた。
そこで得た感覚と様々な種類の特性の知識を総動員しながら戦うような武器がクラウソラスだということを少しずつ理解する。
「えぇぇい!!!」
花耶の一撃が胴体に当たり、見事の焔が舞い上がった。
「それっ!!!」
そして、続けて同じ位置に攻撃を叩き込む。西洋の両手とはまた違った「斬る」ことに特化した日本刀の形状。八岐大蛇を使っていた感覚が蘇る。
「はっ!!!」
少し離れた位置から炎山少年の声がする。同時にスンダマがよれかかった。
隙ができた脚の部分を思いっきり攻撃したようだ。
そして、後ろからも援護の魔法が飛んでくる。
(これで!)
AAが上空から急降下し、その勢いのまま両腕の爪を仮面に突き立て、そして壊れた。
「あそこか!!!」
初めてその神の顔を見た。
顔はヒヒに近い。ただし、その色は真っ白だった。
無機質な雰囲気の中で赤黒く光っている目と同じような色の唇、それが取り囲む大きな口が記憶にこべりつきそうになる。
「終わらせる……そう……終わらせるんだ」
すでに構えの体勢に入っていた。
投擲の構え。
恐怖と一抹の不安・懸念を残しながらもそれを振り払うように持った槍を額めがけて投げる。
「くっ!!!」
小さく、ただし、はっきりと声を漏らしてしまった。
体がまだ万全じゃないという理由もある。
そもそも狙いをつけるのが非常に難しい槍の投擲を選ばざるを得ない位置に顔があるのも原因だろう。
ただ、最後の最後にこれを本当に‟壊して”いいのかという考えが出てしまった。
だから投げた瞬間に何となくわかってしまった。
(ズレたか……!!)
額に突き刺さりはしたがそれは狙った位置、少しだけ膨らんでいるように見える場所から逸れていた。
(ならば、AAで……)
そんな事を思っていたら、
ヒュンッッ
という音を置いていくような速さで何かが黄色い尾を引きながら俺が狙おうとしていた場所を寸分の狂いもなく貫いた。
直後、赤黒い光が少しだけ飛び散る。
その何かの出どころを思わず確認したらいつの間にか回り込んでいたみやびさんの姿があった。
立派な最上級弓を下ろしながら。
「この責任を誰かに押し付けるつもりはありません」
誰にも聞こえないようなつぶやきをこぼしながらその最期を見届ける。
今までとは打って変わって様々な声が合わさったような、それでいてヤカンが沸騰した時に出る音のような声を空に向けて発して地面に倒れ込むスンダマを。




