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第七十一話 変幻自在の覚悟

「ちょっと見ない間にずいぶん大きくなってしまったようね」


「それにしても変わりすぎでしょ」


 自然と軽口が出てしまうが別に倒す算段が一応はあるからではない。

 ただ単に目の前のそれに唖然としてしまっただけだった。


「あの……、合成獣ってこんなこともあるんですか?」


 アキラちゃんがみやびさんに尋ねる。


「……、いえ、そんなはずはないです。ただ、今日あたりはこの地区一帯でモンスターの大量発生が起こることが予想されたのでおそらくは……」


 そういえば炎山少年が俺達をさっきの場所に連れて行ったときは拍子抜けしていた。彼も非常時だと思って出動したんだろう。宮山会の思惑はアークアナイラレーター(AA)を捕えることもそうだが大量に出たモンスターも吸収出来たら、そんなところだったのかもしれない。


 こうして距離を取っているとはいえ向こうから仕掛けてこないのは未だに食事中だからだ。

 手を付けている辺りのモンスターも少なくなっていく。

 ただ、その食事、さらには成長をみすみす見逃すなんてするはずはない。


「攻撃に入る」


 そうみんなに伝えてAAを射程距離ギリギリの上空まで飛ばす。


 周りのモンスターも結局は栄養になってしまう。ならば、スンダマのロックオン可能個所全てに加えて他のモンスターにも狙いを定める。威力はその分落ちるが今は少しでも大きくなるのを防がなくてはならない。


 そして、光線を放つ。


 一撃で倒れるモンスターもいればギリギリ残ったのもいた。

 そのような相手も花耶達が倒しきる。


 もちろん、スンダマはそんなので倒れるわけがない。確かに部分部分でダメージを負っているようだが依然として立ち上がったままだ。

 傷ついた部分もボコボコと再生の準備が始まっている。

 

「こっち向いたね」


 その仮面が俺達の方を向いたのを花耶が確認した。

 そして糸の束が迫る。


「おっと!!」「うわっ!!」


 各々が散開しながら避ける。


「杏子!!!」


 だが、杏子少女の脚が捕えられてしまったのがみやびさんの叫び声で分かった。

 近くに誰も援護できる人はいない。

 それでも……


 シャッ、という音を鳴らしながら捕縛した糸を攻撃後下降したAAの腕の爪で切り裂く。

 

「あ、ありがとうございま、あ!!!」


 AAにお礼を言いかけた彼女だったがその隙にその巨体が仇になってしまい次々にロープのような触手のような糸の束が絡まる。


(まずいな)


 腕も尻尾も振り回せない。翼も絡め捕られ思うように羽ばたけないので推進力もガタ落ちだった。

 このままスンダマの方向に引きずり込まれそうになる。


(まあいい、この距離なら……)


 メイン武器を一時的に仕舞う。

 そして、AAをサブからメインに変更。


 その瞬間に竜の形をしたそれが光になって両手に集まり、途端に巻き付いた太い糸が明後日の方向にそれぞれ散らばる。


 吸収されたらどうなるかわからないがあの状況ならまだ物理的に身動きが取れなくなっただけ、その予想は正しかった。

 

 再びサブに戻し、メイン武器のクラウソラスを取り出す。


(ん? あれ、もしかして……ヤバいかも)


 今この場にいるのは7人。

 さらにAAにも注意を向けていたように思えたスンダマの仮面をかぶった顔。

 だが、今はずっと俺の方のみに向けられていた。


 その位置からあまり動こうとしなかったスンダマだったがのっそりと歩き始めた。

 

 ドシン!!!


 4足歩行の時よりも下ろした脚の音が大きい。

 進行する方向はこちら側。

 完全に狙いを定められてしまったようだった。


「リョーマ!!」


「分かっている!」


 悪い予感が走った瞬間にさらに距離を取るために駆け出す。


 ドシン、ドシンという大げさな音を鳴らしながらこっちに近づいてきた。


 幸い未完成であるのと無理な成長を遂げた中で一時的に中断されたため、スンダマの走る、と言っていいのかわからないが移動する速さは大したことが無い。


 ただ……


「くっ!!!」


 次々に触手が迫る。

 AAとクラウソラスの同時操作で何とか斬り払っていくがきつい状況だった。

 それに逃げるって言ったってどこまで?

 土地勘は無いし逃げる範囲も限度がある。

 そんな事を想いながらもチャンスではある。他の人達が攻撃しやすい状況だ。

 それを察してか皆も攻撃をし続けている。


 一応触手の迫る範囲は分かった。

 20m無いくらいが射程範囲だ。

 前の形態のスンダマの時はもう少し長かったが束になった分、短くなったのだろう。

 だから見切りながら斬っては新しく迫る触手をさらに斬り、その間に回復をした触手の対処をする。

 この攻撃が再生スピードを上回れば何とかなるだろう。それにAAは竜のモードでもかなりSPが貯まってきた。


 向こうの攻撃をいなしているいる間にも皆の攻撃がスンダマの背中、脚を狙う。

 迎撃としてか触手や尾、時には極太で毒の針が付いている腕で振り払おうとするが俺に集中している分精度はお察しだった。


「あれ?」


 攻撃が効いているのか急に動きがゆっくりになった。


(いけるか!?)


 そう思った瞬間に、


「わっ!! なんだアレ!!」


 そんな驚きの声が後ろから聞こえた。


 思わず振り返ると何人かが今の様子を見ていた。というよりは偶然にこの場所に来てしまったようだ。

 いいや、そうでもない。

 どうやら逃げながら町の方に向かっていってしまったらしい。


「逃げてください!!!」


 その声でそそくさに逃げるのを確認して再び元の方を向き直る。


 この間はわずかだったがすぐに糸が迫ってきた。


(大丈夫、この間合いなら……、いや!!)


 間合いは掴んだと思った。

 それも事実だろう。

 ただ、糸の束の先、そこから何かが伸びていたのが分かった。

 それは蠍の尾。

 前足からしか生えないと思っていたが糸の先からも生やすことができてしまったらしい。


 完全に目測を見誤った。

 AAとクラウソラスの攻撃でいくつか斬り落とし、迫る方向も曲げる。

 ただ、全てに対処はできなかった。

 曲がり切らなかったその先端。

 体をひねって無理矢理かわそうとするが腕に掠ってしまった。


 掠っただけでも直ぐに頭がガクンとなり、足先から順に力が入らなくなるのを感じる。


「嘘!」「リョーマさん!!!」「こんのぉぉぉ!!……」


 みんなの声が小さくなる。

 何かが落ち、地面をこする音が聞こえたがそれは地面にうつぶせたAAだった。



 スンダマの攻撃の手が止む。

 厳密には止んではいないが俺に対する攻撃は止まった。

 ゆっくりと近づく。

 蠍をかなり取り込んだようでその時の習性が出始めたのだろう。

 口を大きく開ける。


 そして、それらの光景を全てて(・)い(・)た。

 AAのロックオン時の視覚を通して。


 スンダマが何か異変に気付いたのか少しびくっとなったその瞬間、AAが立ち上がる。

 バッと俺も起き上がり、動ける体勢に入った。

 

 直後に至近距離から光線【ブレーザーレイ】が放たれた。

 

 元々、ある程度攻撃を受けていたようでロックオン可能な各部位が幾つも消滅していくのが分かる。


【万能蘇生の秘薬】

 ゲームでのダメージならば例え壊死にも近い状態異常が進んだお年寄りだとしても全回復し、以前よりも元気にさせてしまうほどの回復アイテム。


 万が一の事を考えてすぐに使えるようにしておいた。ただ、これはあくまで気休めで掠ったこと、加えて自分におそらくチップが埋め込まれていないことなどのおかげで使用する余裕があったからだ。

 直で喰らっていたら使う前に気を失っていたかもしれない。


 グォォォォンン、ブォォォォオオン


 聞いたことが無い野太い声を上げているあたり今回の攻撃は相当効いたのだろう。

 蠍の習性が出てしまったのが大きな隙になったようだ。


 朝日は十分昇ったとはいえそれを上書きするような光が次第に消えてゆく。


 だが、まだスンダマは倒れてはいない。

 それどころか触手をさらに出現させてきた。

 代わりに回復は遅くなったようでボコボコとした動きが活発ではない。


 (一気に決めたいものだが……)


 そう思っていたら、


〈称号【魔物を殲滅する者 中級】を獲得しました〉


 なんだこれ?

 魔物を殲滅、確かモンスターの同時討伐だったか?

 中級と言ってもカテゴリ4を何体かは忘れたが複数倒さなければならない。

 だからこの手の称号は基本的に無視していたのだが…


 そんな思考が駆け巡るが情報を処理しきれない。

 さらに追い打ちをかけるように新しいメッセージが浮かび上がる。


〈合計称号が100になりました〉


〈クラウソラスを進化させることができます〉


〈進化しますか〉

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