第七十話 1つの決心
スンダマ様、と言っていいのかもはやわからない。少なくとももう神ではないのだからスンダマでいいだろう。それが進んでいった方向からモンスター同士の戦闘音が聞こえる。
「あれってやっぱりどうにかしないとまずいよね」
「そのようね。コントロールを失ったみたいだし人に危害を与えてしまった以上は」
「じゃあさっきみたいにもう一度倒しますか? あの時はあと一歩だったようですし」
「うん、やるなら早い方がいいと思う。そうしないと被害は広がるし何より時間が経てば経つほど強力になっていくと思うから」
あれ、そういえば炎山少年は?
すっかり変化してしまったスンダマの事ばかりに気を取られていた。
近くにいると思っていたが彼も杏子少女もいない。
「えーっと……」
辺りを見回してみるといた。
みやびさんの近く、杏子少女も一緒だ。
何やってるんだろうか、そんなことを思っていると、
「ねー、何やってるのー?」という水面ちゃんの声が通った。
「あ、皆さんもどうかお願いします!!」
杏子少女が俺達を呼び、炎山少年はまだみやびさんと話している。
あの二人は大丈夫だとは思いたいがそれでも疑心暗鬼にならざるを得ない状況にいる。だから最低限の警戒は残したまま近づく。
「どうしたの?」
「ほら、お姉ちゃん。この人達にも話して」
少しばかり口をつぐんだ。ただ、それも一瞬のことですぐに話し始めた。
「あの合成獣についての弱点を今からお話しします」
弱点? それはさっき攻めたはずだから問題ないんじゃ……
「あの時、与えた攻撃はどうやら致命傷にはならなかったようなんです」
炎山少年が補足する。
「え? だってあれが弱点なんじゃ……」
その疑問に答えるようにみやびさんが語り始める。
「いいえ、確かに中心部分ではありますがそれはモンスター同士を一番初めに合成した部位です。体の中心を決めてそこから各部分を後付けしていくのです」
なんだかブロックで作り上げるおもちゃのようだ。
ただ、それこそがやはり弱点じゃないのか、と思っていたら、
「その部分はあくまで攻撃されたら他の部位までダメージを受けるというものでいずれは再生します」
(そんな!? じゃあ肉片全て消し去らないとダメってわけか? あの巨体を全部?)
「なので真の核部分を壊してください」
「真の……核部分?」
どういうことだろう。体の本来の中心は別にあるって事か?
それはあの宝石のような武器?
疑問が湧いてきて再びみやびさんが話し出そうとしたときに、
「ちょっと、聞こえたわよ! 何話そうとしているの!? それにまずは先にやることがあるでしょ!?」
宮山会の一人だった。俺達の話を途中から聞いていたらしい。
「それを話すなんてどうなるかわかってるんでしょうね? それに、」
みやびさんの腕をグイって掴んで連れていこうとする。
「すみません、話の途中なので後にしてくれませんか?」
思わずそう言ってしまった。
「はあ!? 何言って、ぃっ!!!」
直後にAAの槍のように鋭利な尻尾の先端がその人の喉元付近に迫る。
少しでも動いたら貫くような距離だ。
花耶は剣を、水面ちゃんは杖を構えていた。
「まず先にやる事ってなんですか? あの巨大なのを止めることですよね? じゃなければ町の人はおろか他の地域まで危機が及びますよね?」
いつにもなく凄みのある口調でアキラちゃんが問い詰める。
「そ、それもあるかもしれないけど……まずはあの人よ、副会長! 今倒れているでしょ!? アレにやられて! あの人がいないとお上と話がまとまらないのよ?」
「お上?」
「そう、助成金関連の!! それがどれだけ重要かわかってるでしょ、だからあなた来なさい! もとはと言えばあなたが作ったアレのせいなのよ? なのでしっかり治しtっ」」
そう言いかけた瞬間に花耶の剣から出た炎がその人の体の横をスレスレで通り抜ける。
「この期に及んで何言ってるのかしら、巫女さんを離して」
「ぇ……ぁの……」
「聞こえなかった? 離してくださらない?」
そして、掴んだみやびさんの腕を離しその瞬間に花耶が彼女を引き寄せた。
「そっちも」
俺はというとまた別の方向を見ていた。
他の宮山会の人も何か動き出そうとしていたが牽制する。
AAの口に光が宿っているのを見て戦意は失ったようだ。
ここまでやってもまだ何か言いたげだった。その様子を見て、
「その人は死んでないよ。あくまで昏睡状態になっているだけだ。入院させれば問題ない」
「あんた、知っているのか?」
「蠍の毒。アレはそれ自体にプレイヤーやモンスターをキルする効果は無い。その代わり動きをほぼ完璧に奪う。その後ゆっくりと食い漁るために」
「っ!!!」
炎山少年が何か思い当たったようだ。
「その通りだよ。炎山君の友人もおそらくそれにやられたんだと思う」
「じゃあ、病院の治療は……」
「あくまで生命を維持するための物だろうね」
「目覚めないってことですか……?」
「いや、そうでもない。話を聞いていた時はよくわからなかったけれども今回の戦闘で対処法はあるかもしれないって思った。ただ……え!?」
炎山少年が少しばかり泣き顔になったと思ったがすぐにキリっとした表情に戻る。
「わかりました! 何かしらの手段はあるかもしれないってことですね」
「でも確信はないからあまり期待はしないで」
「いえ、原因らしきものが分かっただけでも十分です。じゃあまずは奴を倒して……それから教えてもらっていいですか?」
「もちろん」
「じゃあさっきの話の続きをお願いします」
再びみやびさんが話し出す。
「あの合成獣に付けてある仮面。伝承を模した物なのですがそれは防具の役割を果たしています。仮面が守るのは額に当たる部分に埋め込まれている武器。プレイヤーが操作する武器と対をなすものでそれが壊れることで合成の結合も自動的に崩壊しますし再生指令も途絶えます」
「ってことは仮面を壊して額を攻撃ってこと?」
花耶が確認する。
「ええ……そうです。それで……、あの合成獣は完全に消滅します」
苦しそうにそう答えた。
あの武器を作るためにはどれほどの知識と労力が必要かもわからない。
それが完成した時の喜びも本人しか知らないのだろう。
おまけに曲がりなりにも町を守っていた存在にまでなった。
それを壊してしまうようなことを自分の口から伝えなければならない辛さと複雑さは予想できるものではなかった。
だが、それでもスンダマは止めなければならない存在だった。そう思っていたら、
「あの……」
みやびさんが口を開く。
「?」
「どうか、」
「どうか私からもお願いします。身勝手なお願いなのは承知ですがあの合成獣を止めてください!!」
ふり絞るようにそう告げる。
「わかりました」
意外な言葉に少しあっけに取られていたからどう答えていいかわからなかった中、一番最初に返事をしたのは炎山少年だった。
「ここまできたらもちろん僕達も参加します。それでいい?」
「うん!」「問題無いわ」「私もそのつもりでしたから」
スンダマが進んだ方向をそのまま行けば唐澤峯町に突入してしまう。そうなってしまえば人に及ぶ危害はどうなるかわかったものではなかった。
決心を終え、走り出す。
「ちょっと!! 副会長さんは!?」
後ろからまだ声がする。ここまで食い下がらないのは逆に凄いなとさえ思った。
ただ、そのまま変な対処を勝手にされて万が一のことがあれば後味が悪いので、
「朝一で病院!!!」
とだけ伝えた。
同じような症状の人が少なくともすでに一人いる。
生命維持に関してはどうとでもなるだろう。
「何しているの? あなたもよ」
花耶が一旦立ち止まって声をかけたのはみやびさんだった。
「あなたがいないと困るから。それにあの人達と一緒にいたら何されるかわからないでしょ?」
まだ戸惑っているような彼女のもとに駆け寄り、手を握って促した。
そして、ゆっくり歩き出し、やがては花耶の走りに追随する。
*
巨体の足音もモンスターの断末魔らしき音も聞こえてくる。
(近いな……)
そう思っていたらいよいよ全容が見えてきた。
「……ッ!!!!」
同時に絶句する。
あの時は四足歩行だったスンダマは二足歩行になっていた。
体は一回り巨大になっており、体からは何十本の糸が絡んで太い鞭のようになった物がいくつも出ている。
さっき戦った時よりも危険な存在というのは十二分に伝わってきた。




