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第六十九話 再起動

「再起動!? そんな……!!」

 

 水面ちゃんが驚きの声を漏らす。

 倒したと思っていた巨大なモンスターの融合体。

 ただ、どうやらそれはこちらの見込み違いだったようだ。


(まずい、動き出す……!)


 トドメを刺すべくすぐに武器を構え、接近する体勢になる。


「待ってリョーマ、なんか様子がおかしい」


「え? 何を……、あ!」


 ‟それ”が立ち上がろうとしようにも生まれたての四足歩行動物のような、いやそれよりも弱弱しい様子だ。おまけに体の一部がボトボト地面に落ちている。


「えっと…… 水面さん、これはどう見ます?」


 同じく臨戦態勢に入っていたアキラちゃんがちょっと拍子抜けした口調で水面ちゃんにスンダマ様と呼ばれていたあのデカブツの考察を求めていた。


「うーん、私もあの手の武器はまったくもって知識不足だから何とも言えないけど、体を構成している中心部にダメージが入ったのは確かみたい。くっついている強度が甘い個所からどんどん離れているし。だから弱っているんだと思う。っていうかそもそもあんな複雑な機構を持ち主以外がどうこうしようなんて無茶だしね」


「ということは遅かれ早かれあれもおしまいね。さっさとケリを付けて戻りましょう」


「そうだな。さっきと同じ部位を攻撃すれば……」


「……ッ!!」


 そんなことを話し合っていると様子を見ていた炎山少年がハッと息をのんだ。


 視線の先には男の姿。手にはこのスンダマ様を作り上げた宝石のような見た目の独自武器を持っており少しずつ崩れていく‟それ”に近づいて行く光景が。


「どうしたんだ!! しっかりと起動させたはずだぞ! なんで立たない!!」


 思ったようにうまくいかずに声を荒げて言葉が伝わるはずがないスンダマ様に向かって文句を並べていた。


「クソったれ、おい! お前がこれを作ったんだろ? どういうことだ!? 何か間違った操作をしたか?」


「いぇ…… んぁはず……」


 大声を出しているあの男と違って放心状態というか憑き物が落ちたようなみやびさんの声はここまで伝わりにくい。


「もういい! 話にならん! 操作はこれで良いんだな、確かだな! じゃあ何回も試すまでだ」


 宝石型の独自武器を操作しているようだがその度に淡く光り、呼応するようにスンダマ様も体が若干動くが狙っていた反応とは明らかに違うということは俺達にも分かった。


「なんか……、見ていて嫌な気分になるわね」


「同感です、この町に来たときはちょっと神秘さを感じましたが蓋を開けてみたらこの様子とは」


「まあ、完全に消滅させるのは後々の事を考えると良くないと思うけどとりあえず今はもう一度無力化させておこう」


 この時は事後処理のつもりでいた。

 まだまだ不完全体とはいえ一歩間違えたらこっちもただでは済まない相手だったがそれも今となっては面影もない。

 だからさっさとこの場の収拾をつけたかった。

 色々と思うところはあるがスンダマ様と言われているあのモンスターの融合体がこの町の治安を守っているのはもうわかった。だからこれも一つの戦力として唐様峯に貢献し続けるべきでそれを完全に倒しきってしまうのは部外者の俺達のすることではない。


 そんなことまで考えていたくらいには余裕が戻ってしまっていた。

 それは花耶もアキラちゃんも、そしてこの町に住んでいる炎山少年も同じような様子だった。


 ただ、水面ちゃんだけはちょっと腑に落ちないようだった。


「えっと、水面ちゃん。さっきから観察しているみたいだけど何か気になる事でも?」


「んー、いや、気になるって程の事じゃないかもしれないけどさ、確かにさっきはあの神様の中心部分に一斉攻撃を与えたじゃん。それで倒したと思ったんだけど……」


「だけど?」


「こういうタイプの、っていうかあのモンスターの塊じゃなくて武器の方ね。その手の武器って基本的に対になっているはずなの。一つはプレイヤー側が持っていてもう一つはモンスターに何かしら影響を与えるみたいな。あの宝石みたいなのがプレイヤー側が持っている物だと思うんだけど、もう一方が見当たらないなぁって」


「そういう武器って必ず対になっていなくてはならないんですか? それかあの宝石1つで2つ分の働きをできるようにしたとか」

 

 アキラちゃんが尋ねる。


「できなくもないと思うけどそれってかなり単純な操作しかできないらしいからなぁ…… あれくらいの大きさと複雑な融合だとどうだろう?」


 ちょっと不穏な空気になりかけたがそれを振り払うように杏子少女が口を開ける。


「ま、まあでも今は大丈夫ってことですよね……? じゃあもう倒しても大丈夫ってことですよね!?」


「そうかもしれないけど、どうしたんだ? そんなに慌てて」


「だってアレが出てきてからお姉ちゃん……なんだか苦しそうだったんだもん。炎山君も気付いていたしょ?」


「……まあなんとなくな。お前の様子が明らかに前と違っていたし」


「えーっと、杏子さんでしたっけ? 杏子さんは神社の家の人なんじゃ……」


 微妙に宮山会や神社の事情が混乱しかけていた俺に代わってくれたようにアキラちゃんが彼女に尋ねた。


「そうですけど、今の町の中枢のやり方には疑問を持っていました。それにスンダマ様だって……」


「あっダメ!!!」


 杏子少女の話の途中だったが唐突に水面ちゃんが叫んだ。何を見て叫んだかはすぐに予想がついたので俺達も視線を移す。


 さらに融合されていたモンスターの部位が削がれ落ちたようで細身になっていたスンダマ様だったがさっきよりは姿勢が安定していた。前足からはあの時の蠍の毒尾が何本も伸びかけていた。


 その様子を見て近づこうとしたあの男性が、


「ようやくコントロールできた!! 慣れればどうってことはないな。さあこっからだ……、攻撃だ! どうした、攻撃だ!!」


 音声操作ではないだろうが気が立っていたようで操作をしながらも声を発していた。さっきよりはスリムになったそれはもうこれ以上肉が落ちていない。

 向こうもどうやらまだまだ戦うことができるみたいなので再び構える。


 …………


 だが一向に向かってくる気配はない。中距離技である糸も飛ばさない。


「おい、どうした。攻撃操作はしているはずだぞ!!」


 そういった瞬間、その男の近くにいたスンダマ様の顔に当たるであろう面がゆっくりとその男の方を向く。


「おお、そうだ。俺が今のお前の主だ、だから攻g……ブッッ!!!」


「「「「ッ………!!!」」」」


 思わず俺達も驚いてしまった。

 前足から伸びたあの触手のような尾、それが操作しているはずのあの男性を突き刺した。


 声にならない声というか呼吸音を出し、後ろに下がりながら針が抜けるが苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。


「な!? 操作ミス??」


「いや、ちょっと違うかも……」


「え?」


 すると周囲からモンスターが現れた。どうやら俺達がここで悶着している間に新たに近くで出現したようだ。目の前のアレも厄介そうな雰囲気を存分に醸し出しているのにそれに加えて次々に出てこられると面倒だな、と思っていたら、


 ビュンッビュンッ!!! シュッ!!!


 今度はさっきの戦いでも見せた糸を飛ばす。狙いはAAか俺達、ではなく新しく表れたモンスターだった。

 AAほどの高速移動ができないそれらはあっけなく絡め捕られ、断末魔を上げながら普通にしていたら見えない大顎でかみ砕かれたり直接躰に押し付けグググッっと同化させられる。


「うっ……」


 杏子少女が目を背けるが無理もない。正直かなりグロテスクな捕食と言っていい行動だ。

 ただ、今はそれよりも危機の方が上回っている。


「ねえ、これってひょっとしてまずいんじゃ……」


 花耶も同じように危険を感じていた。


「うん、ヤバイね」


「あの、スンダマ様とやらのあの行動って……」


 一呼吸おいて水面ちゃんが


「そうだね、どうやら暴走しちゃったみたい」


 さっきまでスリムになったと思っていたその躰は再び肥大化していく。

 そして、俺達の様子を少し伺っていたようだったがすぐに向きを変えて歩き出した。


「あれ? え?」


「何? どういうことなの?」


「いや、ちょっと待ってください! あっちの方向って……」


「町じゃないか!!」


「町は通る思うけど目的地は無いだろうね」


 落ち着いた口調で話しているようだが水面ちゃんも冷汗が出ている。

 

「どういうこと?」


「多分だけどあれってこれから無造作に吸収できるだけモンスターを吸収していくことになると思うよ」


 その予想を聞いて絶句している俺達にはお構いなしにそれはゆっくりと、でも着実に大きくなりながら歩き進んで行った。

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