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第六十八話 神との戦い、人の過ち

 目の前に出現したこの地の守り神。

 そうやって拝められている存在。


「デカい……」

 思わず率直な感想が出る。

 あの時戦った対抗戦の敵リーダーやアークアナイラレーター(AA)も巨大だったが質量的な大きさはおそらくあちらの方が上だろう。それに巨大さだけではなく不気味さもある。


 「龍のよう」と言ってもAAのような大雑把な表現をすると二つ頭のティラノサウルスに翼が生えたような姿ではなく大蛇、あるいは胴体の太さから超巨大な芋虫のような形状、それがスンダマ様と呼ばれるものだった。


 ただ、胴体と首と頭はしっかりと区別がつくメリハリも尾もある。

 どんな生物か、と訊かれてもうまい例えは見つからない。


 四肢は哺乳類の物のように思えるが「これ!」と断定できる特徴があるのではなく一番キメラ的な部位なのかもしれない。


 完全に戦闘をする以外道はない流れになっている最中そんな観察をしていると向こうから、


「あれだ! あいつを手に入れるんだ!!」

「あの時取り逃がした恐竜の分もこれでおつりがくるわ」

「でもちょっと待てよ、前よりも成長して大きくなっていないか?」

「ってことは野生のスンダマ様と同じタイプなのか」

 

などという声が聞こえてくる。


 やはり向こうの狙いの一つはこれだったようだ。

 ただ、カラクリは分かってはいないはず。

 本当はこのモードでは出したくはなかったのだが総合火力を考えるとこれが一番いい。

 

「じゃあさっさとやってくれや」

「そうよ、逃げたらどうするの?」


 みやびさんに向かってまくしたてるように指示が飛ぶ。そして、


 ドスンッ ズズ、ズ…… ズ


 巨大が地面を踏みつける音。

 移動する際に腹の一部と尾が土を抉りながら大げさな摩擦音を立てる。


(来るか……)


 そして、迫ってきた。


(まだ大丈夫だな)


 その風貌から想像できる通りの遅い移動だった。

 ただ、問題はこれからだろう。


 ブシュッブシュッ


 突如躰のいくつかの突起部分から黒い糸が飛ばされそれがAAめがけて襲い掛かった。すかさず上昇し、振り切る。


「あーー!! すばっしっこいな~、ったく」


 あの糸はこの辺りに生息する巨大蜘蛛の物だ。

 昨日聞いた蜘蛛系モンスターの断末魔。

 おそらく定期的に吸収合成して糸を使用する能力かそれとも糸自体の素材を手に入れているのだろう。

 そして、手に入れた蜘蛛の糸の能力で目的を捕縛して自分の力とする。そんなところだろうとは思っていた。


 まあいずれにせよまずは無力化だな。


 脳内でロックオンのイメージが作り上げられる。


 (最大目標は22までか…… そして対象可能数はやはり複数あるな、なら……)


 スンダマ様どうやら複数のモンスター扱いのようだった。

 ロックオン可能個所は「15」。

 その全てを追尾対象にし攻撃を決行する。


【ブレーザーレイ】

 夜明前の薄暗さを振り払うような閃光が二つの口から零れるように貯められ、放たれた太い光は枝分かれし、目標箇所全てに命中する。


 4本の脚のおかげで安定感はあるようだがそれでも体勢を崩しかける。

 

「なっ!!!」

「こんな攻撃……」

「嘘!? これじゃあ、ちょっと何とかしなさいよ」


 どうやら予想外の攻撃だったようだ。確かにあの時は対象が1つだったからただの太い光線のように見えたのだろう。


「今だ……!!」


 好機と見て炎山少年もスンダマ様に向かって走り出した。


「じゃあ私達もいきましょうか」

「そうだね」

「ええ」

 

 ここからは各々接近戦を仕掛ける。


「クソ!! あいつらも参戦しやがった。それなら……」


 宮山会のメンバーの一人が鎌のような武器を取り出し、俺達を狙って攻撃を仕掛けるが、


 シュンッ バチンッッッ


 その攻撃はシールドで難なく防げた。対抗戦やギルドでの訓練で対人戦は強くなったという理由もあるからだろう。

 ただ、それ以上に向こうの攻撃がお粗末だった。

 スンダマ様に頼り切っていたのだろうということが分かってしまう。


(このままじゃどっちみちこの町は……、いや、今は……)


 他の宮山会の人達も各々に攻撃を仕掛ける。

 弓や銃の遠距離、大剣など武器はバラバラだ。

 が、どれも片手間で防ぎ、躱すことができた。

 

(VRモードじゃないからちょっと危ないかもしれないけれど……)


 牽制の意味も込めてスンダマ様の相手をしていたAAを可能な限り上昇させ、急降下。

 そして、方向を急転換し地面すれすれで滑空させ宮山会の頭上ギリギリを通過させる。


「っ!!!」

「ひっ……!」


 攻撃をしてはいないがこれで少しおとなしくしてもらえば助かる。


 再びスンダマ様の相手をするために向き直ろうとしたところを糸が襲い掛かる。

 急制動の隙をつかれそうになるが、


「せいっ!!!」


 AAめがけて追尾する糸をクラウソラスで切り落とす。


 この手の糸は打撃系も魔法系も効かない。ランスも先の狙いが定まらない。

 シールド系を使っても回り込まれたらあまり意味がない。

 だから斬撃で伸びているところを切るのが一番手っ取り早い。


 狙いがAAに集中している分、花耶達も戦いやすいだろう。次々と波状攻撃を仕掛けている。


 AAも囮ばかりではもったいない。糸の合間を縫って尾で突き刺し、両手両足の切れ味抜群の爪を使ってヒットアンドアウェイを繰り返す。


 糸が伸び出したら花耶や炎山少年が切ってくれたりもした。


「わかった! あいつだ! あいつの召喚獣なんだ!」

「おい、その男を狙うんだ!!」


 どうやらこのドラゴンがどこからともなく現れるのではなくプレイヤーによる召喚獣タイプということを理解してしまったようだ。


 攻撃するのではなくおとなしくしていたのがかえって観察につながったのだろう。


 そして、俺の方を向き直したそのキメラの巨体。まだ糸の発射口があるようでそれを飛ばしてくる。


 片手剣クラウソラスでそれを捌きながらも距離はどんどん縮まっていく。


 突如スンダマ様が右前脚を上げた。


(なんだ? まだ間合いじゃないぞ…… いや)


 何かしてくるはずだ。すぐにAAを近くに戻す操作をする。


 すると、前足の一部分がグググッっと触手のように伸び出した。


(まずい!!!)


 一気に後ろに跳ぶ。


「今だ!!!」


 ジャンプの着地を狙われて宮山会の連中の弓の攻撃が迫る。


 迫りくる二つの攻撃。

 一方はシールドで何とかなるがもう一方の攻撃は防げない。おそらく貫かれる。


(こっちはシールドで…… 間に合え!!!)


 バシィィィィィィン


 目の前でその先端が尖った触手のようなものが止まった。


「っぶな……」


【防壁の翼】

 俺が知っている中でおそらく最高クラスの防御スキル。それが間一髪間に合った。


「はあっっ!!!」


 攻撃で一旦止まった触手を花耶が叩き斬り、爆炎が上がった。


 続けてAAで全力突進をかまし俺から引きはがす。捕縛される前に上空に逃げつつ、ようやく動きも分かり始めたから余裕があれば爪で糸を切る。


「ちょっと静かにしていてね」


「いっっいっっ……!!」


 水面ちゃんが本当に攻撃の強弱と狙いが絶妙だなぁと感心する調整で麻痺のための雷撃を宮山会の人達に向けて放つと変な座り方になりそのまま痺れ続けた。


「あの……、今のは?」


 炎山少年がさっきの攻撃が気になったようだ。


「ああ、あれか。前に出たさそりがいたでしょ」

 

「あ、はい。あの凶暴蠍」


「プテルススティングもおそらく合成されていると思う。その尻尾の攻撃をされそうになったんだよ」


「え……、ってことは毒攻撃?」


「うん。それも対人を想定して毒も調整されているかもしれない」


「そんな……」


「でも朗報かもしれないよ」


「え?」


「まあこれについてはまずアレをどうにかしてから」


「……、そうですね」


 何か気になったというか彼の中で連想する事柄があったのかもしれない。そして、おそらくそれは正解だ。でもまずは奴をどうにかしなければならないから一気に近づく。


 スンダマ様が顎を大きく開きその時一番近くにいた俺に噛みつこうとした。


 が、AAの両腕でその下顎と上顎を掴み阻止する。単純に噛む力はブレイクザウラー程ではないがそれを上回る巨体を有しているから力比べをしてはみたが徐々に押され始めた。


 糸に毒に顎にその巨体自体が武器になる。そんでもってさっきから爪による攻撃や尾の振り回しもある。しかもこれでもまだ成長、もとい完全体ではないようだから末恐ろしい武器というか召喚獣だ。


 タイミングを見定めてその場から離れたのと同時にAAも一旦上空に飛んでもらう。急に支えを失ったスンダマ様は前のめりになり、転びそうになった。


「ったくそれにしても……」


「どんだけ体力があるのよ」


「このままじゃ埒があきませんね」


「水面ちゃん」


「ん?」


「こういう武器由来のモンスターってさ、弱点っぽいものってありそう?」


「うーん、物は試しだけど……」


「あら、何かあるの?」


 自分でも確信は持てないようで少し躊躇したがそれでも教えてくれた。


「多分、核みたいなのがあるはずなんだよ。あの巫女さんの持っている宝石と対になるようなものが。だからどこかの部分で直りが極端に遅かったり逆に早かったり部位が怪しいかな、っと! あっぶない!!」


 会話を待ってくれずに再び迫りくる。ただ、ヒントをもらう時間はあった。


「なるほど」


「ってことは」


 花耶も理解したようだ。


「うん、とりあえずもう一回全体攻撃をする」


「じゃあ強化しておきますね」


「ありがと。これならさらに分かりやすくなる」


 AAを少しだけ上昇させる。それを狙うように糸が迫るが花耶と俺と炎山少年がそれらを切り取る。どうやらアキラちゃんの全身強化の調子がいいのかわからないがVR空間ほどとはいかないまでも自分の背丈よりも高い位置まで跳んでそのまま斬撃攻撃をするのはたやすかった。


 そして隙ができた瞬間に再びブレーザーレイを放つ。


「まだよ!!」


 さらに花耶がスキルを使う。レーヴァテインの最上級のスキルなのだろう。

 普段は斬った部分からしか爆炎が上がらないが今度はあの巨体を包むほどの炎が襲った。


 さっきから攻撃していても完全とはいかないが少しずつ再生をしているのは分かっていた。

 でもそれが逆に攻略のヒントになるようだ。

 再生の度合いに変化があるという予想だが……


「あ、あそこだよ! 前足と前足の間!!」


 4足歩行動物に例えると胸の位置だった。そこの治りだけが異様に早い。


「なるほどね。じゃああそこめがけて一斉攻撃ってことでいいかしら」

「異論無し」


 包んでいた炎が徐々に消える。


 と、同時に3つの剣、そしてAAの先端の尖った尾が弱点らしき部位めがけ突き刺さる。


 グギョオオォッッオッオ


 微妙にグロテスクな声を上げた。するともがく様に動き、最後の一撃と言わんばかりに前足から複数の蠍の触手が出てきて俺達を狙おうとしたが、


 バチッバッチィィン


 風と雷を複合した弾丸のような攻撃が後ろから迫り、その触手を貫いた。


「はあ……はあ、助かった」


「どういたしまして♪」


 アキラちゃんが水面ちゃんの魔法攻撃を強化したうえで援護してくれたのだろう。皆、あの毒攻撃を喰らうこともなく、そして巨体は足がもつれ、崩れた。


「倒した……倒してしまった……」


 炎山少年が少し震えた声でそう言った。

 無理も無い。

 こんなモンスターと戦うことなんて予想外だったはずだしそもそも曲がりなりにもここの守り神だ。自分が狙われたとはいえ後から様々な感情が出てきてしまったようだ。


「いや、消滅していないから倒してはいないと思う」


「そうだね、一応無力化ってところかな。だから、これからはちゃんとした守り神として機能するようにすればいいんじゃないかな」


「そうか、それなら良かった……」


「炎山君!! やった、みたいだね」


「あ、ああ。なんとか。そうだ! そういえばさっきの話で……」


 そう言いかけた瞬間、少し離れた場所から声がした。


「やめて! 離してください!!」


「うるさい! 最初からこうすれば良かったんだ!!」


 声の主はみやびさん、そして痺れていたはずの中年の男性だった。もう回復していたのか……

 いや、そんなことは今はいい。

 どういう状況だ、仲間割れ?


 すぐには何が起こっているのかわからなかったがどうやらみやびさんの付けている宝石を奪い取ろうとしていた。


「な!!?? 性懲りもなく!!」


 炎山少年が憤った口調で二人めがけて走り出した。


 だが、その時にはすでに宝石はその男性の手に。


「全く、少しは見直したが結局これか。まあいい。こいつさえあれば問題ない。今まで近くで操作も見てきた。だから……」


「あっ!!! ダメ!!! 所有者以外は……!!」


 水面ちゃんが叫ぶ。


「なんだ、再起動なんて簡単じゃないか。おい、坊主!! そして旅人!! この力を存分に見せてやろう。神に逆らうとこうなるんだ!!」


 次の瞬間、あの宝石が光り出し、倒れていたスンダマ様の仮面からは禍々しい光が漏れがピクっと動いた。

 ただ、その光り方も色も先ほどとは違っていた。

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