TIPS16 ある日の巫女の独白
『あそこの長女もあれじゃあなぁ、もう少しこう威厳ってもんが欲しいものだ』
『学校には行っていたようだが今やずっとゲームに熱中だとさ』
『だから巫女の仕事もままならないのねぇ』
『見てくれだけは良いんだがなぁ』
『妹さんはというとあそこの坊主と仲が良いようだし』
本当に好き放題言ってくれる。
自分で自分を擁護するつもりもないが私がやっていることは先代、つまり母と同じ水準だと思っている。ならばそれを超えるように努力しろ、という話に持っていく人もいるだろうが何を以て頑張れというのかいまいちわからない。
年々舞は上達していると言われている。
今や働かずにBIだけで過ごすことができるインフラも整っているはずな世情の中、神社内での業務も新しく覚えることが日に日に増えている。
むしろ、BIに加えて観光・開発の中継点として認定されている唐峯沢への助成金をもらっている宮山会の連中がそういった発言をすること自体が気にくわない。
それどころか本来ならば独占したいであろう助成金を新興地の人達にも分配せざるを得ない彼らがうっ憤の矛先を私に向けることで解消しているようにしか思えなかった。
おまけと言わんばかりに妹にまで……
最初は申し訳ない顔をしてはみたが考えれば考えるほどその我儘なグチにイラつき、やがてはばかばかしくなり、「ああそうですか、勝手に言ってなさい」と心の中で思っていることが態度にも表れたようだった。
まあ、あえてそういった態度をするようになったのだけど。これがせめてもの私の反抗。
そんなことをしているうちに向こうもますます嫌味ったらしさが増していき、私も「まだそんな見当はずれなくだらないことをいつまでも言っているのか」という態度・目つきを見せることが多くなっていった。
もちろん楽しいこともある。家族と一緒にいる時もそうだが友人も同情ありきだとしても少し喋るだけでストレスはグッと減るのを感じる。
ある日、友人の一人が紹介してくれたゲームのLOAD。β版がとてつもなく面白かったということで私も正規版を買ってみることにした。
すると、壮大な世界観にどっぷり浸かることができ、いつも見ている風景までもARモードだと大きく違っていて今まで悩んでいたり嫌だと思っていたこととは何だったのかとばかばかしくなるほどだった。
ただ、ARモードは外に出なければならなくこれだとやはりあいつらの視線がある。だから専らVRモードで遊ぶことが多かった。
元々プログラミングの成績は良く、それどころか自主学習で範囲外の知識をどんどん身に付けていった。それがLOADでも役立つことが分かったのが嬉しかった。そして、さらにゲームにはまり込んでいった。
そんな中、【アマテラス】なるギルドが初期メンバーを募集していた。VRモードの拡張ステージにも行きやすくなるのでそこに入ることにした。後にこのギルドは日本有数の規模に育っていくことになる。
ギルドでの活動は良好。
別にノルマは無いがそこでの充実は素晴らしく皆各々が自主的に戦い、ギルド活動に貢献していき、マイペースにやりたい人はマイペースにといったように現実でのあの窮屈な状況を忘れさせてくれる集団だった。
そして、このゲームの歴史の大きな転換である「ヘラジカ座大戦争」が巻き起こった。
内容は本当にしょうもないが現実でも歴史を紐解いていくと突発的だったり「そんなことで……」と思うような発端から戦争になることもある。ヘラジカ座大戦争もまさにそうだった。
新しく追加されたマップでどのギルドがどれだけの領有権を得るのかなどとギルド同士で話し合いが行われていたらしい。ただ、まだ未締結の場所に何かのミスなのか意図的かわからないが海外の集団が降り立ってしまったのだ。
こうなってくると現地の様子を知る前に我先にと進行していき、ついにはギルド集団同士の大戦争に発展した。
アマテラスと中部総合などの国内ギルドは連合軍と呼ばれる方に付き、大きな犠牲を払いながらもなんとか勝利することができた。そしてアマテラスの一員だった私も分配された地域で素材の採取などを行っていった。
ただ、この戦争での私達のギルドの損害も大きく、それを取り返すため、またもしも同じようなことが起きた時にしっかりと対応するために今までは寛容だった方針も徐々に厳しくなっていった。
私はこの頃になると新素材の独自武器開発のためにギルドへの貢献のリソースがどんどん減っていった。初期メンバーだから大丈夫、というわけでもなくそういったメインバーは要職から降ろされて末端に近い扱いになった。
別にそれはそれで問題はないがやはり少し虚しいというかやるせない気持ちが無いと言えば嘘になる。でもこのゲームが好きだったからそれがモチベーションにつながりやり続けた。それにもう少しで独自武器も形になりそうだったので。
そして、ゲーム内の最大の出来事がヘラジカ座大戦争だとしたら今世紀最大の現実での出来事の一つがゲームに紐づけられたAIの世界的暴走だろう。
これによって見慣れた日常は一変した。
私達の住んでいる町に現れ、そして時間が経つにつれて少しずつ強くなっていくモンスターと戦う日々が訪れたのだ。
ただ、私にはそんなこと関係ない。あの時得た素材を用いてようやく完成した独自武器、【クリエイトジェム】とでも名付けようか。
これを使うことでモンスターを召喚獣として使役するどころかその特徴を変化させることができる。モンスターの合成によって。
もちろん、粘土のように簡単に引っ付けたり切り離したりするような単純なものではないが部分部分で適切な部位を適切に接合することでどんどん巨大に、そして強くなっていく。
そして、私のこのプレイヤーとしての力を求めて宮山会が掌を返した上で近づいてくるまで時間はかからなかった。
あんなに嫌だった連中にもちやほやされてしまうとどうしても浮かれてしまった。ただ、それについてはまだ憎たらしさの方が上回っていた。
それでも私のせいで少しずつ肩身の狭くなっていった家族が喜んでいるのを見るとどうしても心が揺れ動いてしまった。
結果、合成獣は「スンダマ様」ということにされた。
しかし、今になって後悔している。
一時の気の迷いかもしれないがこの力を家族のため、地域を守るためという理由があったにしてもあの人達にとって何かしら都合の良いように使ってしまったこと。そして、対抗する勢力になりつつあった少年達のギルドの話を無くしてしまったこと。そのせいで妹も悲しんでしまったこと。
暴走後でも好きだったLOADもこうなってしまうと本当に好きなのか、楽しいのかわからなくなってしまった。しかも他の武器の扱いは日に日に下手になるし。
今となっては私でさえもこの合成獣スンダマを一人でどうにかするなんてことはできなくなってしまった。ゲーム内の一人のプレイヤーとしてではなくこの町の防衛を司る集団の一人になってしまったから。
もしも、この先が破滅だとしたらそれを食い止めることができるのは内部の他の強い意志、あるいは外からの大きな力くらいか。
そんなことをふと考えながら神輿を担がれ伝説の巫女と称される偽りの仮面をつけて今日も過ごすことになるのだろう。




