第六十七話 対峙
明らかに穏便で済ますだけってわけにはいかなさそうな空気が漂っている。
俺達4人と炎山少年と杏子少女、そして向こうにはみやびさん達。人数は6人。みやびさん以外二回り以上年上の男女だ。この人達はおそらく宮山会というものなのだろう。
相対してから沈黙までに時間はかからなかった。そして、互いの口が開きだすまでの時間も。
「……じゃあ僕達は今日立つので、ここで帰らせてもらいます。炎山君も行こうか」
今日が出発予定なんだ。だから、例え花耶が言ったことをどこかで理解していようとも、向こうに何かしらこっちにとって不都合な目的があるかもしれないと思ってもこう言わずにはいられなかった。
「そうですか。それならば出発する前に頼みごとがあります」
みやびさんではない一人の女性が返事をする。
「頼み事というのはモンスター退治のことですか?」
「いや、違いますよ。前言っていたじゃないですか、あの竜。あれを出してほしいんです」
図書館で出会った中年の男性だ。どういうわけかAAに固執しているらしいがそれは彼だけではないようだった。
「出そうと思って出るわけではないので。自分もよくわからないものなんです」
この町に来てからAAは見せていない。どういう仕様なのかも教えていない。だからこのブラフでなんとかやり過ごせられればそれが一番なのだが……
「そうですか。確かあの時は強敵がいてそれで竜が出ましたよね」
ブレイクザウラーのことか。確かにあの暴竜に対抗するために出した。
「はい、どうやら運が良かったみたいです」
「もしかするとあんた達のピンチになると現れるんじゃないんですか?」
「……ッ!?」
考える最悪の話の流れになってきている。水面ちゃんの昨日の話がもしも正しいのならば向こうの狙いはおそらく……
「そうとも限らないと思います。今まで散々ピンチがありましたがそのたびに現れるってわけでもないので」
「そうですか。それならもう一つ質問を」
このタイミングで流れを切って帰ってしまうための言葉が出る前に向こうが話を続けた。
「昨日の夕方ごろどこにいましたか?」
「そのあたりをふらふらと散策していましたね」
「滝の方とかは?」
「行ってみたかったんですが道がひどくて。ほら、あまりにも泥が跳ねるような道は避けたいと思って今回は残念ながら……」
「そう嘘を吐かれたら困りますね」
「何のことでしょうか?」
「昨日、私達も巫女さんと一緒にあの場所に行ったんです」
話を聞きながら状況を思い出す。
「するとね、どういうわけかすでに先客がいるはずだったんですよ。滝に至るまでの足跡も残っていて」
「さすがこの辺りの観光名所ですね」
「ふふっ、まだ言いますか。まあいい。あの時あの道を通った人は限られています。なんせにわか雨が上がったばかりなんですから足跡なんてそうは残っていませんよ」
「……」
そうだ。道はひどかった。座らざるを得なかった状況も布に泥水がしみ込んで正直不快だったがそれよりも優先して身を隠さなければならなかった。
「誰かがいたんですよ。私達が滝に向かった時に」
「まあこの辺りは冒険者もよく宿泊するみたいですし」
「よくってわけではありませんね。特に今の時期は。それにあの足跡、4人分です。あなた達しか4人組はいないんです」
「地元の人では?」
「ここに住んでいる者はわざわざこんな時期に行きませんよ、それに……」
そう言いながら荷物入れから1冊の本を取り出した。俺が図書館で読んでいたあの本だ。
「まさかこんな胡散臭い本にも書かれているとは。逆に盲点でした」
「エジプトで見えたUFOの事ですか?」
「とぼけないでください。スンダマ様の事ですよ」
「あー、そういうのがあったようななかったような」
「あなた達4人はあの道で何かを見ましたね。そして、咄嗟に隠れた。私達の生き帰りで微妙に風景が変わっていたんですよ。ただ、人の反応は無かったから無視したんですがそれがもしも意図的に消されていたとしたら、そう、例えば緊急脱出とかで。そうしたら話は変わってくる」
「ごめんなさい。仰りたいことがよくわからなくて」
「ふん、まあいい。そして、その隣にいる藤堂さんとこのせがれも」
「俺!?」
「あんただよ。まだギルドがどうのこうのって。ここにはスンダマ様がいるから問題ないとあれほど言っただろう」
「じゃあスンダマ様がいない時はどうするって言うんだよ! それだけで町全体を守れるはずはないだろ? それに巡礼中なんて……」
いつになく熱くなっていた彼とは対照的にしょうもないことを言うなと言いたげな口調で、
「それはもう少し待てばいい。その内何とかなるから。だからできたら君もここでしばらく眠ってもらえると助かるんだが」
「……、は? それってどういうことだよ」
「一哉君って子と同じようになるってことでしょ」
さっきまで沈黙を守っていた花耶がついに口を開く。でもそれを言ったら俺のさっきまでの話が全て……
「お兄ちゃん、なんとか切り抜けようとしていたかもしれないけど多分無理だよ。完全に疑っているしそれ以上に欲しているよ、あの人達」
「一緒に行動していた時間は短いですがここに来るまで色んな人を見てきました。残念ながら一人を除いてあの人達は身勝手な欲望を目に宿しています」
そうだ。暴走以降、前までの秩序は崩壊した。そんな中でもなんとか治安を守り、人としてあるべき道を歩もうとしている人を大勢見てきたが一方でまずは自分達が助かればいい、そのためには奪うこともやむなしと考える人もいた。宮山会はおそらく後者だ。
「身勝手とはずいぶんな言われ様ですね。住んでいるところを守ろうとして何が悪いのか。まあいい、あんた達が何かしら知っていること前提で私達はここまで来たんです」
さらに他の人も便乗して口を挟む。
「どこまで知っているかわからないのが問題なんですけどね」
「別に仮に何かを知っていたところでもうこの場所からは出るので問題無いのでは?」
苦し紛れに最後の質問をする。
「どうせここで知った何か面白いと思った事をどこかで言うでしょう。言わないと言いつつもそんなことは信用できません。そういった話が伝番するのはこちらとしても困るので、私達にとってはもう少しなのですよ」
まあ何となくわかった。何かしら口封じをしたいのだろう。
その方法まではわからないが移動型の冒険者まで対象にするなんてどうやらかなり悪いタイミングでこの町を訪れてしまったようだ。それにAAを狙う理由も大体わかった、というか確信に近づいた。
「なのでここであなた達に少しだけスンダマ様を見せて差し上げましょう」
「ふふふ」
花耶が突然小さく笑った。
「え、花耶……」
「いや、だってさああんなこと言っているけどさ、まあいいわ。リョーマも刺激するな、みたいな目をしているけどもう遅いわよ」
「突然笑ったかと思ったら怖くなったのでしょうか。それなら竜も出てきてくれるかもしれませんね」
「別に怖くなったわけじゃないわ。あなた達のもう少しってのも巡礼の回数の事でしょ?」
「!?」
さっきまで余裕に驚きが見えた。
「巡礼という名目でこの辺りの強いモンスターをさぞかし手に入れてきた、というか合成してきたんでしょ」
「……」
今度は向こうの表情が険しくなった。続けて水面ちゃんが、
「そのお巫女さんが首から下げている宝石、かなり綺麗だよね」
「ええ、彼女が持っているこれは神社に代々伝わる……」
「1年以内が代々なの?」
「なっ!?」
「その宝石の事。ヘラジカ座大戦争の戦利品の一つ、それを元にした【独自武器】でしょ? モンスターの召喚、そして合成のコントロール可能な武器も素材から作ることができるだろうし」
ここまで来たらもう後戻りできないな。いや、もう後戻りできないのは分かっていた。それなら早い方がいいか。
そう思いながら武器の選択をし始める。
「……」
また沈黙。そして、
「どうやら最悪のタイミングであなた達は来てしまったようね、みやびさんお願いします」
「え?」
「聞こえませんでした? お願いしますと言ったんです」
戸惑いから困惑、そして苦悶と決心の表情を見せた彼女が人の握りこぶしサイズの宝石を中心とした豪華な首飾りをいじる。
本当に困った。安全に旅をするって約束は守れそうにない。それに何より炎山少年も巻き込む形になってしまったなぁ、と思っていたら、
「みなさん、ごめんなさい」
「え?」
「いや、僕が巻き込んでしまったかもしれなくて……」
意外だった。まさか向こうも同じような事を思っていたとは。
どうやら彼も状況が分かったようだが別に謝る必要なんてなかった。
「そこは気にしなくてもいいって。これは避けられなかったと思う」
それでも複雑な表情をする彼。そんな彼に向かって杏子少女が、
「炎山君、お願い。こんな時にこんなことを言うのも駄目だと思うけど、でもお姉ちゃんを助けて……」
(どういうことだ!?)
ここにきて新たな疑問。
というかよく考えたら彼女も本来は宮山会側のはずだ。だからさっきも「逃げて」って言うこともおかしい。だがこんな疑問を考える時間を許してくれないとばかりに宝石から出てくる様々な色の粒子が向こうの後ろに集まっていく。
「八雲さん、あの……」
「あー、なんていうか俺達は別に助けるってわけじゃないよ」
「え!?」
「それに助けてもらうって立場でもない、だからさ……」
宝石から出る粒子が一つの形になる。それは巨大。昨日は体の一部分しか見ることができなかったが今なら全体像がはっきりとわかる。
龍のような長い体に四肢。
牛のような角。
ワニのような顎を持ち、まるでその大部分を隠すように白い面を付けている顔。
体半分は黒く長い毛におおわれている。
ぱっと見はそうとは思えないが細かく細部を見るとどれもこの辺りで出るモンスターの特徴を宿している。そして唐峯沢街に来る途中で見たあの出来損ないのキメラよりも完成度がずっと高いことも。ただしちょっと妙な点もあるがそれはまあいい。まずは話を終わらせる。
「今回は‟共闘”というで」
サブに選択するのはアークアナイラレーター。
そして、メインにはクラウソラス。




