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第六十五話 悪寒

「何を探している?」という質問にそのまま答えるわけにはいかず、半分は咄嗟に、半分は状況の確認をしなければ、という妙な義務感から振り向く。


 すると目の前には二人の人物がいた。


 一人は女性で俺や花耶と同じくらいか少し若いように思える。もう一人は中年の男性だった。二人の姿を見てまだ応えられずにいる俺に対して、


「えっと、ごめんなさいね。いきなり変な質問してしまって。あまりここは人が入らない場所ですから」


 なるほど。道理で図書館でも何の気兼ねなく話しかけられたわけだ。


「あ、えっと旅をしている者です。ちょうどこの近くに宿泊しているので今後の為に地図とかあればなぁと思っていたらここまで来てしまって」


 我ながら無理矢理だとは思うが最低限ごまかしが効く言葉をこうもまあひねり出せたとは思った。


 ‟ごまかす”

 

 どうしてそんなことをする必要があるかというともう薄々興味本位でスンダマ様について探るのは良くない、もっと言えば探っていることを知られるのは良くないということが分かったからだ。じゃなければさっきから神社の歴史やこの地域の伝承に関わる文献だけご丁寧に見つかりにくくなっている理由にはならない。いや、別に本当にたまたま見つからないだけなのかもしれないが用心して損は無いだろう、とそんな勘に頼りたくなった。


「そうでしたの。この辺りの地図はーっと、どこでしたっけ」、と隣の男性に訊く。


「いやー、私もあまり利用しないもので、ちょっと……」


「あ、ごめんなさい。困らせてしまったようで。万が一に備えてあればなぁって思っただけです。お気になさらず」


「いえ、こちらこそ何やら一生懸命になっていたところ申し訳ありません。ところであなた……」


「はい?」


「以前お会いしましたよね?」


 お会いした? いや、どこでだ? 以前と言ってもここに来るまでの間に多くの人に出会っているし、でも大抵の場合は覚えているはずだが……

 そんな風に困っていると、


「ほら、あのダムの付近で。助けてくださったじゃないですか」


(ダム、ダム、ダム……)


「みやびさん、あの時はほら、衣装が違うしそれも夜だからさ」


 どうやら、その男性曰く彼女の名前は「みやび」らしい。


「ああ!! 確かに。高野みやびと申します。先日ダムの付近にいた巫女の姿の人物って言えば思い出してくれるかしら?」


 それならすぐに思い当たった。あの時はブレイクザウラーに注意が向っていたし、髪型も服装もかなり違うから思い出せなかったがなるほど、一緒に戦った巫女さんか。


「あ、はい。思い出しました。あの時はどうも」


「いえいえ! そんな! 私こそ助けていただいて」


「ところで兄(あん)ちゃん。あの時出現した竜みたいなのって何ですかい? 一緒に戦っていたようだんですが?」


「あー、あれですか。なんというか僕も良くわからないんですけどたまに出ることがあって」


「へぇ、そうですかい」


 意味深な間と視線。どういう訳か探られている気がする。でも探られている気がすることを悟られたくはない。だからこっちは考えが表情と雰囲気に乗る前に、


「あの時は本当に間一髪でしたよ、あはは」


 そんなことを言ってまたごまかす。正直、あまり手の内もこちらの考えも必要以上に見せるのはやめておけと自分の中の何かが言っているような気がしてならない。だからその直感を今は信じて無難に会話を済ます。


「じゃあ、探しているものはここには無いようなので別の場所探してきますね。連れもいることですし失礼します」


「あ、ちょっと……」


 みやびさんが何か言いかけたが、「ごめんなさい、やっぱりいいです。ではお気をつけて」とすぐにその続きを口にしまったきりだった。


(さてと、どうしたものか。この町に来てから双竜を見せてはいない。今回の天気が良くなるのは明後日かららしいが……)


 貸出不可の書物庫は地下に該当するエリアにある。だからとりあえず階段を上る道を進みながら色んな考えをまとめていると、


「ねえ」


「ッ!!」


 いきなり声をかけられた。階段を上ろうとしたらちょうど壁の影になっている部分から。でもさっきと違い、その声は聞き慣れたもので、


「花耶…… なんでそんな所に?」


「リョーマを探していたの。どこ行ってもいなかったから最後に残っていたこのエリアに来てみたらなんか立て込んでいて。あの女の人と何話していたの?」


「ああ、あの人この前の巫女さんだよ。その時のお礼みたいなのとどの本を探しているのか、とかの話題」


「あら、そう。じゃああの人が巡礼をねぇ」


「そういえば巡礼がどうとかって前も聞いたな」


「ええ、それなんだけど…… というかさっきから何きょろきょろしているの?」


「うーん、一応。聞かれていないか、みたいな」


「そう…… やっぱりリョーマもちょっと気になる?」


「うん、まあね。っていうか‟も”ってことは花耶は何かあったの?」


「私も本を読んでいたらあの二人に話しかけらたのよ。世間話だと思ったら何か聞き出されているような気がしたから」


「そっちもか…… まあここに来てからちょっと聞き慣れない話を聞きすぎたから変に過敏になっちゃっているだけかもしれないけどどうしても用心しちゃうよね」


 階段を上りながらそんな話をコソコソする。


「ところでさっきの話って……」


「うーん、まあそのことはまた後で話すわ」


 花耶なりに思ったことがあるのだろう。だからここは素直に引き下がって話したくなった時に聞けばいいという結論にすぐ至り、


「わかった、じゃあそろそろ二人を迎えに行こう」とだけ返した。

 


       *



 次の日、午前は雨でまったり、午後からは泥が跳ね返らない砂利道をなるべく選びながらこの辺りの名所の一つにやってきた。


 ちょっとしたハイキングをしながらだんだんとその音が近くなってくるのが分かる。そして、山道、と言ってもそこまでゴテゴテの山道ではなく人が歩きやすいようにはなっている道を進んでいくと周りの木々が無くなり開けた場所に出る。


「うお!」

「わぁ綺麗ですね」


、と同時にゴォォォォという音を出す見事な一本の滝が見えた。


「そうそう、こういう景色を見るのも旅の醍醐味だよねぇ~」などと水面ちゃんが言っているが全くその通りだなぁと思っていた。


 ただ、そんな景色も心から楽しめないのはやはり炎山少年が言っていたあの話故なのだろう


 彼はここらへんに出るレアで上位のモンスターを藤堂一哉という同い年の男子と一緒に倒しに行ったらしい。それを倒すことで自分達の力をみんなに認めてもらうのと同時にギルド作成の足掛かりにしたいようだった。そんなモンスターを難なく二人で倒したのは良かったがその日にスンダマ様に出会ったとか。



 スンダマ様とはある程度離れた位置だし一部分しか見ていなかった炎山少年は確かに巨大で動いてい生き物を確認したようだった。それだけなら別に問題無いのだが藤堂一哉はそれを間近で見てその後、倒れ込んでしまったらしい。慌てて近づき、倒れた彼を肉体強化バフを使って抱え上げた時にはスンダマ様は消えており、夢なのか現実かわからぬが恐怖をひたすら感じ家まで戻ったと言うのだ。


 にわかには信じられないと思ったし町の人も同様の意見だった。ただ、彼が嘘をつくようにも思えなかった。それを知るかどうかは一哉少年にかかっている。容態を見ればひょっとしたら何か手がかりがあるかもしれないと思いつつも面会をさせてくれなんて言えるわけでもないしそもそもそれはでしゃばりすぎな気がしてしまった。なので結局どういうことが起こったのかは彼が目覚めるかどうかなんだろうなぁとその時は思った。


 そんな恐怖じみた出来事があったと聞かされたので複雑な気分はぬぐえないがとりあえず心が洗われるような景色が目の前に広がっているのは事実だった。



 しばらくここでの束の間の観光を楽しんで4人とも来た道を戻ることにした。ぬかるんだ部分もあるので俺が先頭を歩いていると、


 


  ドシンッ


 

 何か巨大な質量が地面に置かれるような音・振動。

 頭が真っ白になりそうになった。

 そして、得も言われぬ悪寒が走ったのと同時に、


グイッ


 思いっきり腕を横に引かれ、


 ガクンッ、バッ


 続けざまに自分の膝が崩れ落ちるような感覚。

 足払いというのだろうか。

 足の力による支えが無くなりそのまま尻もちをつくのだろう、と予測される前に後ろから抱き着かれる。 

 抱き着いた腕の力加減がちゃんとしているおかげで尻もちをつく直前にふわっとした抵抗によって道の端に静かに着地し、崩れた体操座りのような姿勢になった。


「なっ!!!、うぐ……」


 どういう訳か理解できないのでとりあえず口を開こうとしたら自分の胸らへんにあった後ろから伸ばされた手でそのまま口を塞がれる。


 この時、自分を抱きかかえて俺の背中にその体の前面を密着させた状態で似た体勢で座っていた人物が花耶だということが分かった。


(なんで花耶が!?)

(攻撃!?)

(いつの間にか前みたいに入れ替わっていた!?)


 などと次々に疑問が浮かんでくるが、


(震えている……!?)


 後ろから花耶の震えが伝わってくる。体温が感じるはずなのに悪寒は残ったままだった。




 ズシンッ!!


(また何か大きい音、俺の後ろの方…… しかも近い!? この音は……)



 そして、よく見るといつの間にかアキラちゃんが姿勢を低くして1か所になるべく集まった俺と花耶と水面ちゃんと自身を取り囲むように森羅万象の杖を用いて草木を生やしていた。まるでその場所を他の木々があるところと同化させるように。


 同じようにしゃがんでいた水面ちゃんは俺の後ろの方、と言っても焦点はそれなりに遠くにし、あの分析装置を何やら細かく操作していた。



 状況は理解した。


 俺と花耶の後ろの方に何かがいるんだ。

 それも、戦闘を仕掛けてなんとかなる保証が無いような‟モノ”が。

 花耶はそれを察知して前を歩いていた俺を言葉を発するより先に止まらせ、一緒に隠れるように道の端に抱え込んだ。そして、アキラちゃんは視覚的にカモフラーフ、水面ちゃんはその‟モノ”が何なのか確認しようとしたんだ。


 じゃあここで俺ができることは……


【緊急脱出】×4


 これを4人分かけておいた。ARモードのプレイヤー及びモンスターに感知されないスキル。これはゲームに関わる物にしか影響しないが、多分これで……



 ズシン  ドシンッ ズズズッ……


 音が近づいたり遠のいたり。

 時間が経つのがとてつもなく長く感じた。

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