第六十四話 雨の日の図書館
キィンッ キッ
(下からの振り上げと見せかけて…… 突きか!)
すぐに右から回り込む。
後ろに跳んでいたら突きの早さにやられていた。
今日は約束通り炎山少年と訓練的な対戦をすることになった。戦いは後半を迎え、少しずつ大振りの攻撃が大きくなってきた彼の攻撃を片方の剣でとらえて受け流し、もう片方で空いた部分にダメージを入れる。
大きな剣を双剣、それも1本で防ぐのはどうしても超過ダメージを喰らってしまうがそれ以上のペースでこちらもダメージを蓄積させ、とうとう向こうの体力が尽きた。
「「ありがとうございました」」
終わった後に自然に互いにあの時どうすればよかった、こういう場面ではどう来ることが多いかなどの話し合いを軽く済ました。
と言っても今回使った武器はちょっと特殊だったからこちらからアドバイスがちゃんとできたかどうかと尋ねられたら微妙だ。
飛ぶ斬撃を使わなくとも竜形態にしなくとも素のステータスが一般的な双剣よりもかなり高いし扱いやすい。何より同じようなものを持っているプレイヤーは他にいない気がする。だから練習に適していないかもしれなくいつも使っているこれではなくて代わりの武器にしようかと申し出てみたが彼はこれと戦いたいと言っていた。
その言葉通り筋は良くてあとはステータスを伸ばせば順当に強くなるはずだからあまりアドバイスをすることはなかった。一応フェイントの入れ方やどういった場面で隙ができやすいかなどを伝え終わったところで昨日見た女の子が炎山少年に近づいていった。
「お疲れ様!あ、お兄さんもお疲れ様です。 いや~、凄い戦いだったよ。藤堂君との対戦よりも気合入っていたんじゃない?」
「そりゃそうでしょ。一哉がああなっている以上俺が頑張らないと」
「……。でもあまり動きすぎると炎山君まで……」
「だからそんなのありえないって」
(なんだろう。一哉って子がこの町にいるのはなんとなくわかっているがちょっと複雑な事情を抱えているようだった)
花耶も水面ちゃんもアキラちゃんもとりあえず俺と同じように二人のやり取りを見ているだけにとどめた。
「あ、それで炎山君ってどうでしたか?」
「それはさっき少し話したから」
「でも私も聞いておきたいの」
「お前は保護者かなんかかよ……」
「いや、まあ上手い、というか強いと思う。その剣も上級者向けなのにちゃんと使いこなしているし。あとは大振りの後に体が空くことが多いから攻撃した後の動作も織り込み済みで剣を振ったり……」
そんな感じでさっき話したようなことを彼女にも話しておいた。
「だって!」
「いや、だからそれさっき聞いたから」
「おーい!! 全くこんなところにいたのか。お姉さんが帰ってきたぞ。それにまたあの一味の坊主と一緒にいて……」
ちょっと遠くから彼女を呼んだおじさんは近づき、炎山少年を一瞬だけ一睨みした気がした。
「別に私が琴吹君と一緒にいようが関係ないと思いますけど」
「そんなことを言って。杏子ちゃんも神社の子なんだから、それと……」
今度は俺達の方に目をやった。
「冒険者さん達ですか。昨日は助けてもらったようですがもう大丈夫ですので。それとあまり変なことを彼らに吹き込まないようにお願いします。では」
そう言ってそのおじさんは神社の方向に向かっていった。その後、杏子少女も「じゃあ、私も帰るね、またね」と炎山少年に言い残し同じ方向に向かった。
「はぁぁ!! なんなのあの人のあの態度ッ!!」
最初に口を開いたのは水面ちゃんだった。
「ああ、ごめんなさい……」
なぜか炎山少年が謝る。
「? 別にあなたが謝る必要はないと思いますが」
「いや、多分僕がこうやって練習したり外の人と必要以上に練磨しているのを良しと思わない人もいるとは思っていたので。ただ、まさかあそこまで露骨に……」
なんか色んな事情が繋がりだしてきた気がする。一応、それとなく踏み込み過ぎないように訊いてみる。
「俺達がどこかしらのギルドに所属しているってことも良くないのかもね」
「いえ、そんなことは……」
と、いいつつも彼は複雑そうな表情を浮かべた。どうやら当たりらしい。
「まあこの町にどういったルールがあるのか部外者の私達には分からないけどさ、今の世の中戦える力があるのは悪い事じゃないわ」
「花耶の言うとおりだな。それにこの町の治安維持というかモンスターへの対抗力はちょっと脆いところがあるってのは炎山君だってわかっているはずだから今日の練習をしようと思った気持ちは大事だと思う」
「……、ありがとうございます」
素直に喜べないあたり、どうやらこの町ではギルドという組織を組むのは奨励されていないようだった。その代わりの防衛策としてあの伝説らしきスンダマ様が利用されているようだがそれならギルド+スンダマ様の方がより安全なのは誰もが分かっているはずだ。
ただ、そうでないということは……
「あ、そろそろ降りそうなので僕はこれで。今日はありがとうございました!!」
「こっちこそ対戦中も対戦前にもいろいろ教えてもらったりして助かったよ。じゃあ!」
「ばいばーい」
「気を付けてね」
「さようならー」
「じゃあこれからどうする?」
水面ちゃんがみんなに訊く。
「んー、確かに暇ですね」
「宿に戻ったとしてもねぇ」
「あ、俺ちょっと図書館見てみたい」
どうやらここの図書館は暇潰しとしてはなかなかのものだということを炎山少年が教えてくれたのでちょっと行ってみたかった。3人も「そういうことなら」と、雨が降る前に図書館に向かうことにした。
*
「へぇ 立派なものね」
そんなわけで図書館で各々気になる小説やら今は珍しい雑誌やらを漁っていた。それで俺が手に取ったのは……
「あはは、こういうの好きな男子小学校にいたなぁ!」
「ちょっと、図書館はもう少しボリューム下げて!」
「お兄ちゃんも声大きいじゃん」
「うっ」
昔、学校の文庫本の中でしれっと混ざっていた未確認生命体などをまとめた分厚いちょっとばかしチープなこの本。絶妙な胡散臭さが何故か魅力的でついつい読んでしまう系統の娯楽本を手に取ってみたところを水面ちゃんに見られた。
「こういうの好きなの?」
小声で訊いてくる。
「いや、そんなことはないけど……」
「ふーん、まあ私はあっち行ってるね」
そう言い残し彼女は去っていった。気を遣ってくれたのかわからないが他の本もフェイクとして一緒に取ってその未確認生命体の本を読む。
うん、やはりこの手の本はいつになってもなんとも言えない味わい深さがある。
(お!)
パラパラめくっていくと平成ネット怪談なるコーナーが見えた。
これは平成の中期か。えーと、ネット黎明期っていつだったか。昭和か? あれ?、平成初期だったっけ? まあいい。とりあえずこのころになると一般の人もインターネットに接続しやすくなってそこで各々怪談を作り出すって文化があるのは知っていた。それがこうして怪談として本になっているのはなかなか興味深い。
そのコーナーを読み進めていくと……
(あれ? これって……)
『スンダマ様』
マジかよ……、と思ってしまった。でも確かにスンダマ様が載っていたのだ。飛騨地域発祥ということから場所については一致している。ただ、唐澤峯町付近で聞いた内容とは結構違う。あんなに恐ろしくないし大きくない、しかも複数種類いる。あ、この小さいのって、あれ? どこかで見たような……
そんな事を考えながらこれを読み進めた。語源はなんとなく分かっていたが「魑」「魅」「魍」「魎」を指す「すだま」から。ただ、それにしてはあまりにも語源からの変化が無さすぎる。まるで取ってつけたようなネーミングだった。
(他に資料は……)
どうしても気になってしまった。なので、他に地域の伝承を扱った文献や新聞などを探しながら見回したが他には何も見つからなかった。
(ここにも無いか…… 貸出禁止の本までないとすると……)
探すのに夢中になっていたためか背後から来る気配に全く気付かなかった。
「何を探しているんですか?」
若い女性の声。でもその声の主は花耶でも水面ちゃんでもアキラちゃんでもなかった。
思わずびくっとしてしまったがゆっくりと振り返らざるを得なかった。
俺の手にはまだあの都市伝説本が握られたまま。




