第五十八話 たまにはゆっくり、と思ったら
「うわー! おっきいねーー!!」
「あっ、ちょっと走らないで、はぐれるから!」
「並んでいた時間が長いからうずうずしていたんだね」
ロープウェイを降り、ちょっとしたトンネルのような建物を抜けると巨大な湖が広がっていた。この辺りのインフラとしての機能は昔と変わらず正常に動作しているようだ。そのおかげで治水も電力供給も間に合っている。
「ねえねえ。あっちの方で今日は泊まらない?」
そう言って彼女が指さしたのはここからしばらく歩いたところにあるホテル群だった。ここ一帯は国立公園に指定されている一方で観光客が年々減少していった。その打開策としてリゾート開発を国主導で行い、景観と自然を壊さないように気を付けながらゴリゴリの和風のホテルやレジャー施設をダム湖周辺に作った。また、新たな交通網も同時に手掛けたことで日帰り旅行がしやすくなり、観光客がV字回復したとのこと。と、言うのがこの辺りで配られているパンフレットに載っていた簡単な歴史だ。
水面ちゃんが指さした先にあるのはそんなホテル群の一つだった。
「いや、でも先を急いだほうが……」
「あれでも?」
彼女の目線の先、そこにはさっきまでの混雑を作っていた人だかりがそのままもう一方のロープウェイ駅にて行列を作っている光景があった。
「今日はいろいろあって予定よりも2時間半遅れ」
「花耶?」
「このまま行ったら次の宿泊所に着くのは下手したら真夜中かもしれないわ」
確かに。途中でモンスターと戦ったりもしたせいもあるが遅れが出た一番の理由は待ち時間によるものだ。この辺りの交通網が乱れたからこういった主要ルートに一気に人が押し寄せるのは覚悟していたがまさかこれほどまでとは。
「それにさ、この混雑は多分一時的なものだよ。明日になればもう少し収まっているかもしれないよ」
「それもそうだけど…… アキラちゃんはここで泊まるとしたら賛成?」
「はい、私も。それに、実はちょっと観光もしてみたいなぁって」
「ここに来るまでの間みんななんだかんだ言ってあまり休めていないでしょ、リョーマも。だから今日はこここでゆっくりするのもありじゃない?」
(ま、実際は彼女の言う通りだ。自分の動きが鈍くなっているのも感じている。ここで無理に進んだらもしもの時に十分対応できないかもしれない。それに、)
はしゃぎたい気持ちをグッと抑えている水面ちゃんとアキラちゃんの姿が目に入る。
「そうだな、今日くらいはいいか」
「わーい!! 私あそこの桟橋行ってみたい。アキラちゃんはどこか見たいとこある?」
「私はあの展望台を……」
まだ日がそれなりに高いこともあって二人が行きたい場所どころか他の場所まで滞りなく回れた。宿に空きがあることを確認して少し部屋でゆっくりしてまた少し外に出る。そんな感じで束の間の旅行気分を味わった。
「あーおいしかった。ねえ、また出かけようよ」
「え、また!?」
「うん、実はさ、これ!」
水面ちゃんが討伐依頼書のコピーを取り出した。
「凄い…… ここってDフェネクスが出現するのね」
「そうそう。さっきね、宿のロビーに張り出されていたんだ」
「あ、しかも特典付きですね」
「どれどれ、チェックアウト時の料金2割引きまたは朝食バイキング無料、こんなのもあるのか」
「ね、だから行ってみようよ」
正直特典についてはあくまでおまけ程度だろう。ガイアでの支払い時の割高分がちょっと相殺される程度だ。ただ、宿泊客も多いためかやはり遊び心に余裕があるし結構ワクワクする依頼になっていた。そんな軽い気持ちで承諾し、少しだけ外に出たことで奇妙な巡り合わせをすることになるとはこの時思ってもみなかった。
*
バシュンッ シュンッ
グギギギ……
花耶のライフルが上から迫ってくる怪鳥を貫いた。
「お見事」
「まあこれくらいなら。それにしてもランホリンクスね、珍しいと言えば珍しいけれど……」
なかなか見つからないがしょうがないという気持ちもある。Gフェネクス自体はそもそも特定地域にしかいないしそれも出現率が相当低いって前提。おまけにこの辺りで宿泊している冒険者と思われる人々が俺達のように外で出ているから出現したとしても討伐されやすいのだろう。
そんな冒険者らしき一行、だが他とはちょっと雰囲気が違う人達がいた。
「巫女……ですかね?」
「多分。でもゲームの衣装ではないな」
「ってことは本物の巫女さん!?」
「そうかもしれないし、コスプレをしているだけかもしれないわ。あ、でも周囲にいる人はコスプレって感じでもないかも」
「あ、行っちゃった」
すぐに人気のない道に行ってしまったからそれ以上見ることはできなかったが思わず俺達が注目してしまったのは巫女のような姿に身を包んだ女性とそれを取り巻く数人のパーティーだった。色んな人が集まっているんだなぁって思いながらもしばらくは討伐と索敵をしていた。
「そろそろ戻るか」
「そうね、さすがに他の人も見えなくなってきたし」
「うぅ、ちょっと、ってかかなり悔しいけどそうだよね。もう夜も遅いし」
「Gフェネクスは残念ですけど他の討伐依頼のモンスターも何体か倒すことができたことですから」
宿までの道を歩き始めようとしたとき
「キャァァァァァア!!!」「ワアァァァ!」
思わず4人とも身構える
「え?」
「どこから!?」
悲鳴が聞こえたのは近くではない。
もう夜も遅い、それにこの声はただ事ではないかもしれない。だから正直首を突っ込むのは危険を伴うし約束に反する。でも、
「ごめん、みんな先に戻っていて。ちょっと見てくる」
一人で行ってすぐに戻るつもりで駆け出したのだが、
「私も行く。気になるし」
「私もです」
「はっ!?」
「こうなったらさすがに一人で帰るわけにはいかないよね、ということで私も」
まあさすがにこれは俺の勝手な行動故の事だったから巻き込んでしまったのは申し訳ないががやはり気になってしまう。冒険者が多いこの場所はそんなに危なっかしいわけでも無いと思ったのにあの悲鳴だ。それにもしも危険ならすぐに折り返せばいい、少なくとも彼女達は何があっても逃す、そう思っていた。
「あれ、なんか声近づいていない」
「そうね、それに……、これは地響き?」
こんなことを行っている間に向こうから走ってきた人達が見えた。さっきの巫女さんパーティーだ。そして、彼女らの後を追っているのは……
「嘘……!」
一歩地に着く毎に恐ろしい音が鳴る存在。それの姿を確認し、モンスター情報が表示された。
《カテゴリー5 ブレイクザウラー》




