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第五十七話 ある雨の日のこと

「ヘラジカ座大戦争?」


「あーやっぱり知らないか」


「PvP関連のニュースもあまり気にしないって思っていたけどまさかここまでとはね」


「掲示板とかではよく話題になっていたけど詳しくは…… アキラちゃん知っている?」


「ええ、一応は。LOAD内で過去例を見ない最大規模の戦いなので」


「でも1000vs1000なら結局対戦規模は似通ったものになるんじゃないの」


「ううん、通常の対戦じゃないの。というか対戦のルールに関係無く起こってね、仮想宇宙が舞台になってそこで人数上限無しのギルド同盟が入り乱れて戦争を繰り広げたの。私も中部総合の友達に協力して戦ってみたんだけれどもうとにかく凄いの」


「拡張機能で戦艦を作った人達がどんどん進軍していってとうとう後に引けなくなったらしいわ。現実時間で120時間以上継続、RMT換算で45億円近くの被害が出たって」


「45億って何がどうなったら……」


「一つ作るのにかなりお金と時間が必要な戦艦や空母があるんですけどそれを惜しみなく投入していった結果みたいです」


「あの時の対抗戦も戦争みたいだと思ったけどそれはさすがに規模が違い過ぎるな…… ってか原因って何なの? 暴走前にそんな大事が起こる発端なんてあったっけ?」


「ヘラジカ座の星雲が開拓されたばかりだったんだけどそこのいくつかの惑星で凄い武器の素材が何種類も見つかったのよ。だからそれらの地域を独占しようといろんな国のギルドが同盟を組んで出撃したんだけどとうとう収拾がつかなくなって。それでメインの参加ギルドがほぼ全戦力を投入して最終的に停戦協定を結んで一応は解決した、っていうのが大筋ね」


「ちなみに私もその時手に入れた素材の一つを使ってこの装置を作ったんだよ」


「それってそんな凄いものだったのか」


「そうだよぉ、びっくりしたでしょ。でもね、もっとレアな素材を手に入れた人もいて新しい独自武器も結構開発されたみたい」


「そういえばその時期の後から妙な武器を使う人や見たことがない武器素材を売る人を何人か見かけたなぁ。理由がようやくわかったわ」


「ただ、参加するのはなんとかなるとしてそこで有利な条件を手に入れたギルドは限られているらしいわ。日本だと『中部総合』と『アマテラス』だけね」


「ほとんどのギルドも同盟も戦闘宙域ですぐやられるなんて当たり前でしたし、私なんて単独で行ってみたらもうそれは一瞬で……」


「そんな激戦区だったの!?」


「あのドラゴンが使うレーザを何倍、最大級のだと数十倍も太くしたようなのが戦艦や母艦の主砲だからね、同じ規模の艦船のシールドじゃないと大変なことになるよ」


「ちょっと想像できないスケールだわ」


「まああくまで宙域限定の戦闘方式と巨大武器だからARモードやVRアースでは関係ないわ」



 ザー、ザザッ ゴゴロゴロゴロ


「それにしても強くなってきたねー、雷の音もするよ」


「さすがにここまで降ったら無理に移動できないわな。降る前に道の駅に到着できてよかったよ」


 こんな雑談をしたこの日は冒険者も泊まることができる道の駅に寄っていた。残念ながら昼から雨が降るのでここで一日明かして止んだらまた出発することになっている。途中でやはり変なモンスターを見たりしたが一応順調にここまで来ることができた。


 これからの予定を再確認して必要なものを整理したり買い込んだりしていたら夕食を食べて眠たくなる時間になるまであっという間だった。


「じゃあそろそろ寝るか」


「そうね、明日はまた早いし。お休み」


「おやすみね」


「おやすみなさーい」


 一緒の部屋で寝ることもあるだろうとは思っていたがこの日がまさにそうだった。いつもとはちょっと違う環境で寝付きにくいかもな、というのは杞憂ですぐに意識は遠のく。



 ゴロゴロ、ゴロゴロ ザーザー


 ただ、時折眠気が浅くなる時もあって外の天気の音が気になるがまたすぐに眠りが深くなる。そういえば耳栓をしていなかったな、まあいいか、起きてつけるのもめんどくさい。


 ゴロゴロ、ゴロゴロ ザーザー

 

 ズシン ドシン


(変な夢だな)


 ズシン ズズッ


(いや、夢じゃないだろ!)


 急に眼が冴える。


「リョーマも気になる?」


 俺が起きたのを察知して花耶が小声でそう言う。


「ねえ、なんか変な音が……」


「私も聞こえました」


「すぅーすぅー」


 どうやらアキラちゃんも起きていたようだ。水面ちゃんはまだ寝ているからこのままそーっとしておくとしてゆっくり辺りを見回し小声で会話する。


「この音ってどこから?」


「多分外ですね」


 窓から外を見てみるが暗くてよく見えない。が、


 ピカッ!


「っ!!!」


 雷の光とともに一瞬だけ辺りが明るくなった。その時、周りの風景とは似つかわしくない何やら巨大な像のようなものが山の中の木々の間に見えた気がした。


「どうしました!」


「いや、あそこ……」


「何かいるの?」


 小さくうなずく。


 ピカッ!


 するとまた雷によって辺りが照らされるが……


「何もいないわね」

「私も特におかしなものは見えないですね……」


「あ、あれ? 見間違いかな」


 その後は変な音どころか雨も雷も穏やかになっていき、再び寝ることにした。



「起きてーーー!!!」


 水面ちゃんの声だ。


「う、」「んーーー」「……」


「ちょっと三人ともどうしたの?」


 水面ちゃんが俺達の寝起きの悪さに戸惑っているがなんとか重い体を起こしながら出発の準備をした。昨日の深夜の事は夢のように思ってしまったが花耶とアキラちゃんの反応からそうではないという実感が出てきた。


「じゃあ今日はロープウェイ駅まで行ってここで一旦休憩して……」


 こうやって計画を確認することでとりあえず気がかりなことは少しは吹っ飛ぶ気がした。


「唐峰沢町まで行けば一安心ね」


「うん、しかもそこまでは山間鉄道が走っているからダムを超えたら一気に楽になる」


「あ、そこってあのポスターの場所ですか」


「本当だ、結構離れているのに」


 アキラちゃんが指さしたのは唐峯沢で開催されている祭りのポスターだった。日にちを見るともう終わってしまったようだがこのご時世、こうやって宣伝されているということは目玉の行事なのだろう。


 日本海側と太平洋側を繋ぐ主要な道の一つとなったのが俺達の進んでいるルートだ。早朝と呼ぶ時間は過ぎ、人の往来も多くなってきたくらいの時間帯に誰からとは言わずさあ、行こうかという雰囲気に自然となり、今日もまた歩き出す。





   *



「おーい、そっちは大通りから外れるぞーーー!!」


「分かってるって」


「本当にわかっているのかしら」


「まあまあ、この辺りはレアな素材をドロップするモンスターが出るらしいからよ、ついでに手に入れようって思ってな。ん?」


「おいって、まったく。一人でどんどん進みやがって、あれ、どうした?」


「いや、これ」


「どうしたのよ?」


「足跡? いやいやそんなわけ……」


「何かが這ったようにも見えるが」


「何かって何よ……いくらなんでも大きすぎるわ」


「戻るか」「あ、ああ、そうだな、俺もちょっと調子に乗って進み過ぎたわ」「もう最初っから行かないでよ、この辺り特にぬかるんでいるし」「だから悪かったって」


「やっと元の道に来た」


「……」


「おい、どうした?」


「いや、大通りに出るまでさ、モンスターに一度も会わなかったなーって」


「なんだ、そんなことかよ」


「ああ、まあそんな事なんだが……」


「どうしたの?」


「そういえば最近モンスターが急激に減る地域があるって噂を聞いたものでな、それかなって一瞬思っただけ」

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