TIPS14 Gハイブ制圧作戦
「生命維持システム、約1時間9分で全機能停止します」
「燃料ブロック離脱成功。誘爆の可能性も排除しました。地球落下コースには入っていません」
「これより地球周回軌道での修正が不可能になります」
「脱出ポットは7機無事でした」
「良し、負傷者を優先的に運べ」
「艦長は?」
「私は最後でいい」
地球低軌道にてほぼ全ての運航能力を失ってしまったロシアの第一世代超高度探索船[ペレスヴェート]。火星の低軌道から地球の低軌道まで往復する能力を持ち、地球ー月の間を中心に探索・人員の輸送を行うという名目で地上から必要な部品ブロックが打ち上げられ、宇宙で組み立て・調整・完成した世界でもトップクラスの完成度を誇る探索船だ。
ただ、本来の目的からしたらいささか大げさなスペックを有し、宇宙揚陸艦などと呼ばれることもある。
遡るほど半日前、ペレスヴェートに緊急のミッションが通達された。それは地上1800km地点で地球を周回しているLEO特殊工作プラットフォーム、通称Gハイブの制圧。コントロールが奪取されアメリカの基地がすでに1つ破壊された報を受け、地球上のどの地点が次のターゲットになってもおかしくないという危惧からペレスヴェートがGハイブめがけて出撃した。
ただ、世界最高峰のこの船を以てしてもミッションはあっけなく失敗したのだ。接近してGハイブの姿を確認し、まずはスラスター・ジェットブースタ部分などをロックオンした直後それが動き出した。地上に向けられていた発射口がペレスヴェートに向けられたのだ。そして、長さ数メートルの弾がこの時代の最強クラスのレールガン機構によって射出され、船に命中した。たった一撃で作戦続行不可能な損害を受けてしまったのだ。
「こちらロシア空軍、ペレスヴェート級! こちらロシア空軍、ペレスヴェート級! 聞こえていたら応答願います!!!」
「何をしている!?」
「た、助けを……」
「パニックを起こすな! ギリギリだが全員が脱出できる算段は付いている。それに、すぐに通信を切れ! こちらの情報を外部に漏らすな!」
「でも……でも、もしかしたら近くに救助能力のある船があるかもしれなくて……」
「違う、そうじゃない! わからないのか!?」
「な、なにが……」
ウヮーン ウヮーン
突如として耳障りなサイレンが船内に鳴り響いた。
「これは!?」
「最悪だ……」
「艦長、このサイレンは確か……」
「ああ、システムに侵入されたんだ」
だが、音は長く続かなかった。
「あれ、止まった。誤作動ですかね」
「いや、待て」
艦長がそう言った瞬間、ブリッジのメインモニターの電源が強制的に切り替わる。ただし、立体映像ではない。極シンプル、それでいて遺物と化したような画面だった。
「青い……」
ブルースクリーンが映し出され、白色の文字が順番に入力されていく。
『チートは攻略とは認めません』
たったそれだけ。それだけの文字が映し出され後は音沙汰無しだった。次に何が起こるかわからないとこの画面を確認した一人一人がこれ以上パニックを起こさないように、でも内心は寿命が急激に縮まっていくような感覚に襲われながらできる限りの脱出準備をしていた。
ただ、莫大で漠然とした不安とは裏腹にその後は驚くほど何も起こらなかった。
「船内に残っている者は?」
「点呼完了しました、艦長で最後です!」
「そうか、では……」
「艦長も一緒に逃げるんです。逃げなくてはなりません」
まだ本題を言っていないのにどうやら副艦長にはばれてしまっていたようだった。
「私は大統領よりペレスヴェートを預かった。それなのにこのような形で終わらせてしまったけじめを付けなければならない」
「いいえ、もうそういった時代は終わりました。それはけじめではありません。何が起こったのかをあなた自身でこの乗組員以外の人に伝えなければならないのです。皆!!」
「「「「「了解」」」」」
次の瞬間、他の部隊員は艦長を無理矢理拘束し、脱出ポットに乗り込ませた。
「全く、副艦長も大胆になったもんだ。さすが女性初の特殊空軍大佐だぜ」
「おい、聞こえているぞ!」
「あ!! 申し訳ございません!」
「まあいい。ところで死傷者についてはどうだ?」
「は! 死者は3名、負傷者は27名になります」
「そうか……」
「いや、本当になんと言っていい事やら」
「確かに被害は甚大極まりない、と思うが……」
「え? どうしたんですか?」
「Gハイブの攻撃を受けたにしては軽すぎる」
「はあ……」
「あれの攻撃能力は想像以上のようだ。これは基地指令室に同席していた私の責任でもある。恐ろしいことに先ほど映像を確認したところ射出された弾丸は最小の物だった」
Gハイブの性質上、情報の流出は制限がある。なのでどうやら事前の予想と現実は大きくかけ離れていたようだった。破壊力についてはある程度予測されていたが精度が異常だった、と後に彼女は報告した。
「あれで最小ですか!?」
「地上用のキャニオン・ディアブロ級などはこれどころではないぞ」
「それって確か、」
「ああ、アメリカ宇宙軍のセクション7に射出されたと推定されるものだ。ただ、いったいなぜ……」
今回の損害が大きいと見るか敵、と言っていいかわらないが敵対した存在からしたら小さいと見るべきかわからないが彼女は他にも気になる事がある様子だった。
*
月補給基地にてペレスヴェートのとある乗組員たちの様子。
「お前……、あんなことがあったのにのんきにゲームかよ」
「俺はなぁ、1週間後に地上に戻るんだよ。知っているか、向こうではこれをちゃんとやっていないと生きていけないみたいだぜ」
「まあそれは知ってはいるが」
「あれ? なんだこれ……」
「どうした?」
「いや、局地ミッション履歴がある」
《××××クエスト地帯に入りました。クエストに参加しますか?》
《××××クエスト地帯を離れました》
「聞いたことねえな、俺のはっと」
「お前もやってんじゃねーかよ」
「へへへ、まあな。ああ俺の方も履歴がある」
「こいつが開催されていた時間は……」
そして、二人は同時に目を見合わせた。




