TIPS12 50ノーティカルマイルの空を目指して
「急げ! 光学映像まだか!?」
けたたましくなるアラーム。ここは世界有数の地球での宇宙開発拠点、東海特区。明言はされてはいないが世界的に見ても中立を保証されざるをえないほどの特殊な影響力を持つ場所。一方で万が一侵攻をされてしまえば日本だけではなく各国にも悪影響が出るため軍事的な防衛機能も有している。
「映像出ます!」
「クソ! もうすぐで海岸に到着じゃないか? 防空網はどうしたんだ!?」
「依然作動中です。ただ、超低空飛行で接近されたため反応できなかったようです」
「やはり脆弱過ぎる。少し前なら一切問題なかったものの…… まあしょうがない、自衛隊への要請は?」
「すでに完了しています。陸自が現場に急行中」
「あー、それもいいけどね宇自も行った方がいいかもね。それとロシアのあの企業、なんだったかな。そうだノヴァモスクワ! そこの技術院にも連絡しておいたから」
「これは、森議員! 申し訳ございません、警備については……」
「あー、いいのいいの。今回はしょうがないよ、春日井局長。むしろこんな状況でもよく対応してくれた」
「は! ありがとうございます! ところで……」
「ん?」
「いえ、なぜノヴァモスクワの技術院に連絡を……」
「はっはっは。あの戦闘機を見てみなさい」
「はあ、かなり古い型のように思えますが……」
「古いなんてもんじゃない、1世紀以上前に開発されたものだ。それに本来は迎撃用。よくもまあこんなものが残っていたもんだ。あの戦闘機は……」
*
「牧野班長、あれは……」
「ロシアから来たという情報は入ったが目的は分からん。戦闘機が単独で着陸するなんて想定外だ。各自注意を怠るな」
着陸した戦闘機を目の前に駆けつけた一同が固まる。
「へーー、こりゃ珍しいもんだなぁ」
「おい! 誰だ! 民間人か、近づくな!」
その場の緊張感など意に介しないように一人の男が戦闘機に近づく。
「これは……MiG25か。しかも、ホバリング装置が後付けされているなんてまあ魔改造なこって。ただ、この状況で飛べるとなると意図的にデチューンされているわけで、そうなると搭乗者は……」
「おい、何をぶつぶつ言っている! 離れろ」
牧野と呼ばれていた男がその戦闘機に近づいた男の肩をガシっと掴む。
「まあ、落ち着きなって。それにもうすぐ奴さん、姿を見せるぜ」
「何!?」
直後コクピットが開き、一人のパイロットが出てきた。そして、
ガチャッ
「っ!?」
銃口をこちらに向けた。駆けつけた陸自は臨戦態勢に入る。
「飛行機から離れてください。私は敵ではないです」
翻訳内容からだいぶ古いものらしいが翻訳機まで……一体。そんなことを思っていた瞬間、例の男の後ろから突如として黒い影が出現し、パイロットの四肢を捕え、銃口を真上に向かせるような体勢に固めた。
「おいおい、確かに近づいたのは悪いがいきなりそんな物騒なもん向けられちゃあ話し合いだってできないだろ? つっても俺の言葉が分かるわけじゃあないようだが」
黒い影を必死にふりほどこうとするがうまくいかない。
「へー、どんな訓練を積んだかわからないがこれにからめとられて僅かにでも動くことができるなんてな。ならもう一本増やすか……」
さらにもう一本黒い影が出現してパイロットを捕える。
「そうだそうだ、牧野さんだったっけな? はじめまして、神楽坂だ。この辺りのギルドの幹部って言えばいいのかな。まあちょいと強めの一員だ。騒がしいってことで俺も要請された。以後お見知りおきを」
「ギルド……、ってことは……中部総合!?」
「おっ、話が早いようで」
「えー、お取込み中申し訳ないがその人を離してくれないかな?」
「牧野班長、あの、この方はノヴァモスクワ日本支社の重役とのことで、」
「名はベルナルトだ。本来は君達自衛隊の場にでしゃばるのはよくないんだが森議員から連絡があってね」
「森議員……森政務官!?」
「そうそう、その森議員だ。だから少しだけお邪魔させてもらうよ。あの戦闘機はどうやら私の祖国から来たようでね、話をさせてもらえないかな。それにレディにあまり乱暴するのはよくないと思うがね」
「レディ?」
「あのパイロットスーツは女性用のだ」
スルスルと黒い影がほどかれて持ち主の下に戻っていく。ベルナルトが彼女に近づいていくと、
「待ってください、その人は銃を……!?」
「まあまあ大丈夫」
「Меня зобут Bernard。Как тебя зовут?」
するとパイロットはヘルメットらしきものを脱ぎ捨てる。金色の髪がさらりと舞い、粉雪をイメージさせる瞳をのぞかせた。
「Меня зобут Sofiya」
しばらく話し込んだ後、何やら戦闘機を少しだけ操作したと思ったら2人して牧野達の方へ戻ってきた。
「彼女の名前はソフィーヤだそうだ。ロシアの空軍部隊員であり宇宙管制局にも所属している。彼女がここに来た目的は単刀直入に言うと衛星軌道上まで運んでほしいというものだ。じゃないと地球は大変なことになるとのこと」
「どういうことですか? ロシアの空軍が? なぜ!?」
「困ったなぁ。どう説明したことか。君も自衛隊なら聞いたことがあるだろう、衛星軌道上にある特殊工作プラットフォーム、通称Gハイブ」
「ええ、まあどういうものかは知っているつもりですが」
「それのな、コントロールの大部分がどうやら奪取されてしまったようだ」
「な!? 誰にですか?」
「‟誰”ではないな。しいて言うなら今この状況を作った者だ。すでにアメリカの基地が一つ壊滅したらしい。それに事態を察知してGハイブ制圧に向かったロシア空軍の中緯度揚陸艦部隊、それらに指令を送る小惑星管制基地もやられたとのことだ」
もしもこの話が本当なら大変なことだ。牧野の顔がみるみるひきつる。
「それじゃあ日本に来た目的ってのもあのマスドライバーって事か?」
「ああ、君はギルドの人だったかね、話が早くて助かる」
「ただ、人を乗せるとなると第6か7レーン、それに多段ロケットも必要になる。ここじゃあちょっと駅まで遠いな」
「それは致し方ない。移動しながら私はしかるべき人に連絡を取りつつソフィーヤにもう少し事情を尋ねるよ。あとMr.佐伯にも話を付けないとな」
そう言ってベルナルトとソフィーヤは海岸から離れ、特区の中心地に向かっていった。




