TIPS11 ダンジョン出現?
「なあ、あれ」
「こりゃ……どういうことだ。一昨日来た時には無かったよな」
「ああ、こんなところに空いていれば誰かが気づく」
「入ってみるか?」
「ちょっと! ギルドの人に知らせた方がいいって」
アメリカの西海岸に近い自然豊かで観光客もかつてはそれなりにいた某所。いつものようにギルドの活動として見回りをしていた男女4人組が見つけたのはついこの間までは無かったはずの穴。少し丘になっているような場所で地底に向かうように直径5mほどのいびつな穴が開いていた。
「近づいたら危ないわよ!」
「大丈夫だって。こういうのはすぐに塞がれるようになっているか洞窟に見えるだけの風景だ。ほら、こうやって足を入れようとしても……入れようと、しても……」
「本物の洞窟?」
「いや、この辺りの地盤は石灰質だ。こういう穴が開いたとしても不思議じゃない」
「でもよ、鍾乳洞なんてのは一日そこらで出来上がるもんじゃないぜ」
「それもそうなんだが……」
「だからまずはギルドに行って報告をしてさーー」
見慣れない突如現れた鍾乳洞らしき洞窟がどういったものなのか、考えを張り巡らせていたからか後ろの人影に全く気付かなかった。
「あのー、すみません。通してもらっていいでしょうか」
「え?」
4人が一斉に振り返る。そこには一人のブロンドの、まるでお伽噺に出てくるような服装に身を包んだ美しい女性が立っていた。手には籠をもっていてどうやらこの鍾乳洞に用事があるようだがそれらを他の人が囲んでいて立ち往生してしまっていた。
「ヒューーー! 綺麗なお嬢さんだ、っていててててて」
「あんたさぁ、開口一番でいきなり口説いてるわけ?」
「勘弁してくれよ、挨拶みたいなもんじゃないか」
「ああ、申し訳ない。彼らはいつもの事なんだ。えっと、この洞窟に用があるのか?」
「はい、ここで採れるクリスタルと地下薬草を定期的に採りに来ているので」
「定期的?」「ここにクリスタルがあるのか?」
「あの、すみません、私達は長い間この地域で生まれ育ってきたんですけどこんな洞窟ありませんでした。発見したのは今日です。それなのに前から採りに来ているってどういうことですか?」
「おいおい、こういうときはまずは世間話からしてなぁ」
「あんたは黙ってなさい」
「あらら、手厳しい」
「私は……」
「面白そうな話をしているねぇ」
急に会話に割って入ってきた新たな人物に一同の注目が集まる。
「おっとすまない。邪魔してしまったかな」
「見ない顔だな、東洋人か」
「ああ、そうだ。日本出身さ。ただ、今は帰国できないからいろんな場所をふらふらっとね」
本人がそう言っていることだし何より見た目も東アジア系のようだ。だが、翻訳機を使っていないのに今時珍しく彼の英語は流ちょうだった。
「ところで私もここに用があってね、それで計らずしも少しだけ盗み聞ぎをしてしまったんだが、申し訳ない。ところでお嬢さん、」
「はい、私ですか」
「そうそう、あなたは昔からここでクリスタルとかを採りに来てるんだってね?」
「ええ、そうです。武器にもなりますし何よりこれで生計を立てているんです。まさに大自然の恵みですわ。」
「それは素晴らしい。ところで昔からってのは何年位前かな?」
「物心つく前ですからえーっと2、いや3年ほどでしょうか」
「は?」「いや、あなたどう見たって10代後半じゃあ……」
「最初に来たときは時は誰かと一緒だった? そう、例えばお母さんとか」
「はい、両親と一緒に」
「今その両親は」
「すみません、よくわかりません」
あれ?なんだろう、一瞬真顔、というか思考がフリーズしたような無機質な表情になった気がした。
「そうか、時間を取ってしまって悪かったね。面白い話だったよ、ありがとう。では!」
「こちらこそ楽しいお話でしたわ。ではごきげんよう」
そう言って彼女は当たり前のように洞窟の中に入っていった。
「おいおい、おじさん、何行かせちゃっているんだよ」
「ここの洞窟は明らかにおかしいって!不自然すぎる」
「そもそもこの穴が本物かどうかさえわからないのよ」
「ああ、問題ないよ。ここの洞窟は確かに存在している。むしろ、疑うべきなのは彼女なのかもしれない」
「どういうこと?」「それよりもあの人を追いかけなきゃ、一人だと危ないって」
「ねえ、待って? でも確かにあの人ってちょっと会話不自然じゃなかった?」
「あー、昔からここに来てるとかそういうこと言っていたな」
「そのことなんだが、あなた達はこの辺りの地理に詳しいのかい?」
「まあ昔っからこの辺りに住んでいたしな」
「じゃあこの洞窟に見覚えは?」
「無い……はずだ。少なくとも俺の記憶には無い。皆もそうだろ?」
「ええ、私も」「俺もだ」「こんなところに洞窟があればすぐに噂になるはずだしな」
「なるほど。言い分は合致しているな」
「なあ、あんた何か知っているのか? さっきの彼女との会話も妙に納得していたし」
「ああ、悪かった。そうだな、結論から言うと彼女はノンプレイヤーキャラ、つまりNPCだろう。しかも人工知能を搭載していてまるで人のように振舞っている」
「は?」「意味が分からない」「いや、だって、彼女は……」
「まあそういう反応するのも無理はない。でも見てごらん、彼女の歩いて行った跡。踏んづけたようになっているがほぼ元通りになっている。私がこうやって近くを踏むと草はこのままなのに」
彼女が歩いて行ったであろう位置を指し示しながら隣を東洋人の男が歩く。彼が歩いた足跡に生えていた草は戻る気配が無い。戻るとしても半日、いや、それ以上はかかるだろう。一方で先ほどの彼女の歩んだ形跡はほぼ完全に消えていた。
「まあこの足跡の違い自体もまやかしかもしれないがね。ただ、あのAIはまだまだ未熟だから経験の話をすると齟齬が生じるようだ」
「いや、マジで理解できない。だってどう考えたって人間だったじゃねぇか」
「一部例外はあるかもしれないがこういったNPCが登場したのはほんのつい最近だ。どうやら例のゲーム自体、というよりはそれを乗っ取った人工知能が何かしらの自己進化を遂げたんだろう。ゲームの世界にいる住民同様昔から特定の暮らしをしているような設定がある。彼女の場合はそれがおそらくクリスタルの採集だったようだね」
「信じられない」
「私も最初は信じることができなかったけれども実際にこうなってるんだ。そもそも目で見えている世界がそのままの形をしているとは言い切れない。私達は外からの情報を処理して勝手にそう思い込んでいるだけだからね。だから今目にしたのも幻想のようで実は現実なんじゃないかって最近は特に思わざるを得ないんだ」
そんな哲学的な話をされてもそれ以前の話に理解が追い付かなくて呆然としている4人だったがそのうちの一人が思い出したかのように開口する。
「待って! でもこの洞窟は何なの? これも幻だって言うの?」
「いや、こっちはどうやら本物だろう」
「だってこの間までなかったんだぜ?」
「それはな、おそらくナノマシンによるものだ」
「ナノマシン?」
「ああ、聞いたことはあるだろう? ゲームの暴走によって人類が開発していた段階以上の性能のナノマシンが実用的に使われている。風景を変えるものもあれば敵からダメージを受ける、あるいは回復する際に体に作用したりもする」
※TIPS2参照
「じゃああの痛みやエネルギーに満ち溢れるようになったのは錯覚じゃなくて……」
「半分錯覚だが半分は実際に起こっていることだ」
「おいおい、この状況って俺達が思っていた以上にヤバいんじゃ……」
「さてと、」
東洋人の男が歩きだす。彼の目線はあの洞窟に向かっていた。
「あんた、行くのか?」
「そうだよ、ついてくるかい?」
「いや、危ないって。俺達のギルドに連絡してからだな、」
「おーい、イカヅチ! ここにいたか」
新しい声のした方に向かって一同が振り返る。そこには様々な成人の年齢層・国籍であろう7人がいた。
「ああ、私の連れだ。これから彼らと一緒に少しだけ探索に行ってくる。まあ君たちの忠告もしっかりと聞き入れているから何かまずいと思ったらすぐに戻ってくるよ」
そして、4人を後にして彼ら彼女ら8人は洞窟の中に消えていった。
*
「あーー、洞窟の中には硬い土や石灰岩含む岩石が急に壊れた形跡があるな」
「じゃあ、やっぱり……」
「タイプAだけじゃない、タイプCが影響しているようだ」




